9月3日
適当に座った団員達を前に、クリップで留めた資料を人数分手にしたシャルが立って今後の動き方について話し始める。
ゴンとキルアが連れてこられるまで旅団は夜明けからずっと二人組で動き回っていたのだが、何故か自分達を追っているはずのマフィアらしき連中は見掛けなかったという。
いくらなんでも諦めたとは思えないので次の作戦に向けての準備期間では、というのがシャルの見解だ。

「ちょっと計算が狂ったよな。鎖野郎を誘き寄せつつ襲ってくるマフィアを手当たり次第に締め上げて鎖野郎の情報を得るつもりだったのに」

フランクリンが言うと皆それに頷いた。情報収集の方法としては雑だが、腕に自信のある旅団にとっては一番効率の良い方法だ。早いし疲れない。だが、失敗に終わった。

「仕方ないから逆にこっちから積極的に狩りに出ようと思う」

そう言いながらシャルは手に持っていた資料を一人に一部渡していった。
連絡は貰ったとはいえアポなしでふらっと来た私の分は用意されていなかったので、傍にいたマチの分を一緒に見せてもらうことにした。
ハンター用の情報サイトで手にいれたノストラードファミリーの構成員の顔写真リストらしい。サイトでそんなことも分かるのか。ライセンス上手く活用しすぎだろ。

「特にこの五人は重要人物だ。ボディガードとして組長の娘に付いてるらしいんだけど」

シャルは資料の一枚目に載っている五人を指差して言った。うわ、顔だけは全員知ってて名前も知ってるのが三人いる。
その名前もそれぞれの写真の上に記載されていた。リンセンさんとイワレンコフさんは顔しか知らなかったが、他は喋ったこともある。微妙な気分だ。出来れば狙われていることを教えてあげたいが連絡を取る術はない。

「ウボォーを拐ったのがコイツらだ。だけどアイツはこの中に鎖野郎はいない、って言ってた」

そうか、だから鎖野郎は最近雇われたってノブナガが言ってたのか。まだ雇われて日が浅いから写真がないんだ。
鎖野郎の顔は戦ったウボォーさん以外誰も知らないし、見つけられなかった。向こうもまさかこっちにプロハンターがいると思っていないだろうから“鎖野郎”は運が良い。
今のところ旅団が掴んでいる情報は最近ノストラードファミリーに雇われた、ということだけか。

見た目が分からない以上は知ってる人間から聞き出すしかない、という考えで今この場にいるメンバーは二人組でノストラードファミリーの構成員を片っ端から捜すことになった。
元勤務先とはいえ、一ヶ月もいなかった私には元から期待していないようでシャルはこちらに対して特に何も言わなかった。

「あ、コイツ俺が殺った。左上の奴に×つけといてくれ」

資料を見ながらフィンクスがそう告げた人物は、ダルツォルネさんだった。「えっ」と小さく声を出るが傍にいるマチ以外は誰も気付かず、「はいはい」とシャルからペンを借りて言われた通りに×をつけた。
この人、死んじゃったんだ。親しい人ではないがそれなりに会話もしたことのある人が、知り合いに殺されるのはなんとも言えない後味の悪さがある。私が止められたとかそういう話ではないので、ハリーの時のようにこっそり手を合わせておいた。

「んじゃ、午後10時にここ集合ってことで、以上」

シャルの言葉にそれぞれが二人組になって動き出す。さっきまで組んでいた同士なのかスムーズだ。
しかし、さっきと違っていない人もいるわけで私の傍にいたマチがシャルに声をかける。

「ノブナガは留守番だろ?あたしは?」
「ああ、セリは?手伝う気があるならだけど」

二人がこちらを見る。
私は手伝いに来たわけじゃない。そしてやろうと思っていることがある。
それを素直に話すことはせず、「私はこの後用があるから行かない」と伝えた。旅団員ではないので、別に咎められることはなかった。

「じゃあそれ以外、ちょうど10人いるんだから誰か余った奴と組みなよ」
「余った奴って…」

マチの視線がぎこちなく移る。ヒソカさんがにんまりと笑って手を挙げた。
マチは何も見なかったと言わんばかりに目を逸らして私に言った。

「セリ、一緒に来な。あんた本当は暇だろ」

どんだけ嫌なんだ。そして何故わかった。
「本人が良いならそれでもいいんじゃない?」と言ってシャルは部屋を出ていった。
残ったのは私とマチとヒソカさん。マチには申し訳ないが無理だともう一度断ると彼女は嫌そうにヒソカさんを見た。二人はまだ出発しそうになかったので、ここまでの話で気になっていたことを聞いた。

「ねえ、なんで鎖野郎は単独で行動してるって思うの?」

シャルがその可能性しか考えていない、という風だったのが不思議だった。ノストラードファミリーに属していることまで分かっているのに。
それに対してマチはマフィア側の動きが殆どないからだと教えてくれた。

「鎖野郎がマフィアの指示で動いているなら、今頃捕らえたウボォーを使って此方に対して何らかのアクションを起こすはず。それがないってことは鎖野郎は所属してる組に関係なく単独で動いた」

拉致は別だけどね、と続けた。
問題は皆が助けた後、鎖野郎とケリをつけると言ってウボォーさんが出ていった後だ。組には知らせずにウボォーさんと一対一で戦い、多分殺した。ということは私怨。
……やっぱりクラピカっぽいな、と改めて思う。

「ま、あたしは他に仲間がいると思うけど」
「なんで?」
「勘」
「…そっか」

勘って大事だよね、と思うのは言った相手がマチだからだ。これでノブナガだったら何言ってんの?と真顔で返してた。
そして私は別にマチだけに聞いたつもりじゃなかった。普通なら、こんな時に聞いてなくても何か全く関係ない事とか言ってきそうなヒソカさんが、一言も話さずに私達の話が終わるのを待っていたのが少しだけ気になった。

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