9月3日
ヒソカさんと嫌々ながら組んで外へ出たマチを見送ってから、キルアとゴンが最初に連れてこられた部屋へ戻ったが、誰もいなかった。
移動したのかな、と誰もいなくなった(正確には三人残ってるはずの)アジト内を自由に動き回る。思っていたよりも部屋数があるが、元は何に使われていた建物だったんだろう。
話し声や物音などがしないか耳を澄ましながら地道に一部屋ずつ確認していく。人を捜すなら円を使うのが一番手っ取り早いが、最大で半径三メートルの私じゃ殆ど意味がない。

しかしめんどくさいな、ノブナガに電話して聞いてみるか?いや、それよりキルア達?いやいや、この状況じゃ厳しいか。
そもそも二人は今携帯を持っているのだろうか?普通なら没収されてそうだけど、旅団なら援軍を呼ばれてもどうにでもなるので持っていても取られてない気がする。
だとしても無理だ。状況的にも精神的にも電話に出る余裕はないだろう。じゃあやっぱりノブナガかな?

携帯を取り出し、ノブナガにかけるが出なかった。
@今持ってないA持ってるけど無視、のどっちだろう。一人で見張り中なわけだし、旅団員ならともかく私からだったから出なくても問題ないと判断したのかな。
仕方ない、とまた一部屋ずつ捜し回っていく。

***

微かな人の気配に円を使うと扉一枚隔てたすぐそこに誰かがいることに気付いた。
ここか、と扉を開けようとするが数十センチほどで止まる。扉の前にノブナガが座り込んでいたのだ。

「ノブナガ」
「おう、なんだオメェ電話なんかしてきやがって。大事な用か?」

そう言ってノブナガが少しだけ今いる位置からずれる。本当に少しでさらに数センチ分開いただけだった。体どころか頭も入らない。
然り気無く部屋の中に視線をやると奥の方にキルアとゴンが座っていた。どうやらこの部屋の出入り口は私達が挟んでいるこの扉だけのようで、他は窓すらないらしい。

「うーん、…うん……」
「?なんだよ」
「いや………」

思ってたより脱出条件厳しいな、と中を見て思った。
てっきり見張りって部屋の外にいるものだと思ってたから中にいて、正面から二人を見てる時点で難易度高いし、出入り口が一つだけでしかもその前に座り込んでいて極力動かないようにしてるあたり絶対逃がさないという本気さが伝わってくる。

えーっと、どうしようか。
キルアとゴンは私の出方を窺っていた。私が上手くやれば二人は隙を見つけて逃げ出せるだろう。
黙った私にノブナガが頭を掻きながら「どうしたァ?」と聞いてくる。

「俺が携帯に出ねぇからここまできたんだろ?なんだよ?」
「あー…あのさ、この子達の見張り代わろうか…?」
「あ?」

私の発言にノブナガはぽかんとしていた。
まさかそんなことを言われると思っていなかったんだろう。うん、私もそう思った。とりあえず勢いで押そうと続ける。

「皆は一人でやれって言ってたけど、流石に大変じゃない?こんな状態じゃご飯も食べに行けないよ?」
「飯の時はコイツらも連れてくから別に問題ねぇ。元々団長が戻るまでだからな」
「クロロはいつ帰ってくるの?」
「さあ?知らねぇ」
「もしかしたら考えてるより遅くなるかもよ?そしたらノブナガは満足に眠れないし、長くなればなるほど疲れてくるし、逃げられる可能性も上がるんじゃないかな」

私は別に暇だから、好きなときに交代できると伝える。
マチやシャルには用があると言ってしまったが、そこは「勘違いしてた」で大丈夫だろう。自分の予定も把握できないバカなんだな、と思われるだけだきっと。
しかしノブナガは首を横に振った。

「ありがてぇが…こいつらは俺がワガママ言って、ここに置いてるんだ。逃げたら逃げたで俺の責任ってことでな。それを他人に、ましてや団員でもないオメェには任せらんねぇよ」

とても大事な発言があった。それに気付いたキルア達の表情がほんの少しだけ変わった。
“団員でもない”という言葉は今の私にとって重要なものだ。旅団員であるノブナガがそれを言うことで私が旅団ではない、彼等の『仲間』ではないことが裏付けされた。

それは良いんだけど、この状況はダメだ。上手く見張りを代わって二人を逃がそうと思ってたのに、私が考えていた以上にノブナガの意思は固い。
こうして私と話していてもノブナガは常に二人を警戒している。全く隙がない。
ここは一旦引こう。ごねても仕方ない。ノブナガの主張に「わかった」と短く返してから扉を閉める。

う、う〜ん。とりあえずゴン(とキルア)をクロロに会わせるのが目的なんだよね?そこでクロロが団員にしないって言えばゴン達は解放される…はず。
だが、そのクロロがいつ帰ってくるか分からない。会ってダメなら解放されるって言ってもキルア達にはそんな何日もここに拘束されてる暇はないはずだ。

あり得ないとは思うけどクロロが入団を了承する可能性もあるわけだし、そしたらもう逃げられない。やっぱり他の団員がいない、今しか逃亡のチャンスはない。
もういっそクロロ呼ぶ?電話して早く帰ってこいって伝えてみる?皆が戻る前に来てくれれば、万が一入団許可されても方法次第では頑張れば逃げられそうだし。

よし、電話しよう。三人がいる部屋から離れ、かなり久々にクロロに電話を掛ける。無視されるかと思ったが何コール目かに奴は出た。

「もしもし、クロロ?」
『セリ、ちょうどよかった。今から言う場所に行ってくれ』
「えっ」
『メモの準備は?それとも地図を送った方がいいか?』
「なに?え、なに!?」
『まだヨークシンにいるだろ?確か仕事先も無くなったはずだよな』
「う、うん」
『じゃあ今から向かってくれ。場所は』
「え!?ん!?待ってメモするものない!!」

なんだ急に!?

[pumps]