9月4日
目が覚めたら泊まっていたホテルにいた。……………あれ!?
勢いよく起き上がって周囲を見回す。窓から射し込む明るい光。朝か昼か、とベッドの脇の時計を見たら14時ちょっと前。
あれれ〜?ついこの間もこんなことあった気がするぞ〜?

いや、マジで私はどうやってここまで帰ってきたんだ?旅団のアジトでジュース飲んで、ヒソカさんに向けてクラッカー放って、えっと………?
その後のことを全く覚えてない。ひたすらジュースを飲んでた気がするが、それ以外はさっぱりだ。誰と何を話したかもわからない。そもそも話してないのかも。

それくらいぼーっとしてた。ぼーっとはおかしいな、考え事をしてたんだ。クラピカのことで頭がいっぱいだった。
思い出すと段々と脳が覚醒してくる。今の自分を見つめた。髪ぼさぼさ、化粧も落としてない、風呂も入ってない、服も昨日のまま、腹減った。
のそのそとベッドから降りた。


一通りのことを済ませてから携帯を確認するとメールが一件。キルアからだ。
キルア…………キルア!?あっ!忘れてた!!

そうだ、昨日の夜に連絡する予定だったんだ!いや、ていうか捕まって…それでクロロからノブナガに言ってもらおうと…え、えええ?
メールを見る。今平気なら返事をくれ、との事だったがこのメールが来たのは今日の昼前だ。こんなメールを送れるなんて向こうは状況的にかなり余裕がある。ということは、もうノブナガの監視下にはいない。

クロロと会って解放されたのか隙を見て逃げ出したのか…どちらかはっきり分からないが、もし逃げてきたなら私が旅団とそれなりに親しい間柄なのはもうとっくにわかっているはずなので、私の側に団員がいる可能性を考慮し、脱出してすぐに此方にメールを送るわけはない。
つまり二人が旅団のアジトを離れてからある程度時間が経っている。そもそも思い出してみれば昨夜(日付変わってたかな?)、私がアジトを訪れた時にはノブナガもクロロもいた。
あの時点でまだキルア達がいるなら二人はあの場に姿を見せていたはずだ。きっと既に居なくなっていたんだろう。

そして、今日の昼前になって私にメールを寄越した。昨日結局連絡しなかったからだ。
用件は、本人達からはっきり聞いたわけではないが尾行をしていたことから旅団を捕らえることで間違いない。捕まったのに、まだ諦めてないのだ。
今だって私が旅団の側にいる可能性は十分ある。それでもメールを送ってきたのは、私のことを少しは信用しているから。私が旅団にこの事を話さないと信じている…というより賭けているのだ。

私の側には旅団はいないし、いても最初から二人のことを話す気はない。だからメールを返した。もう受信してから三時間以上経ってるけど大丈夫かこれ。

暫く正座で待っていると電話が掛かってきた。びっくりして変な声が出た。
キルアからの着信だ。もう無視することは出来ない、と覚悟を決めて通話ボタンを押した。

「もしもし…」
『おっせーよ!』

怒られた。
予想していなかった第一声に心臓がばくばくしてる。もっと暗い声でくると思った。お前俺の敵だから的な声でくると思った。

『何してた?今まで』
「寝てた」

素直に答えると溜め息が聞こえてきた。キルアは分かりやすく呆れているようだった。
私はと言えば、こんな短い会話でもこの子とちゃんと話すのは久々なのでかなりドキドキしていた。気を緩めることが出来ない、いつものように話せない。
自分から声を出すことはなく、向こうが話すのを待つ。

『あのさ、セリ。お前が“俺”に協力する気があるなら今からこっちに来てくれない』

周りを気にしているのか、声を小さくしてキルアが言った。何の話なのか私が既に理解しているような口振りだった。まあ意図せず会ってるわけだし、普通に察しはつくだろう…が、もっと細かいことをはっきりさせたかった。

復讐か、賞金目的か。あのね、と口を開く。

「ちゃんと聞いてなかったからはっきりさせるね。私に何の用?」
『…もう知ってると思うけどマフィアがお前に、旅団に懸賞金をかけてる。で、“俺”の目的はその金』

黙って話を聞く。
「俺に協力する気があるなら」「俺の目的は」という台詞からこれはキルア個人の話だとずっと強調している。

『来てくれるならお前をマフィアに引き渡すつもりはない。そりゃ金は欲しいけど』
「来なかったら引き渡すの?」
『いや、場所わかんないし。お前じゃなくて旅団を捜す。今ならアジトも分かるしな』
「危ないよ?」
『知ってるよ。だから来てほしいんだよ、お前に』
「………………」

キルアの目的は旅団と私にかけられた懸賞金。だが私を引き渡して金を受け取る気はない。連絡をしたのは旅団を捕まえる協力をしてほしいから。
ここまで一切クラピカの話は出ていない。…それが逆に不自然な気もした。一緒にいないのかな?

『で、返事は?』


***
途中タクシーを拾い、キルアに言われた場所を目指していると雨が降ってきた。傘買おうかな、と窓の外を見て思う。
旅団とキルアを秤にかけた結果、キルアを選んだ。私はあの子が心配だった。というか私が協力をしても旅団を捕まえるのは難しいだろうし、例え成功しても彼らならマフィアの元からすぐに脱出できると思ったうえでの答えだ。
ただキルアは賞金目的でもゴンはどうなんだろう。ゴンは旅団(主にノブナガ)に物凄く怒っていたし、彼の性格を考えるとクラピカに協力したい、と思うのではないか。

でも私にゴンから連絡はないし、賞金を得ることだけで話は纏まったのかなとぼんやり考えていると目的地に到着した。
建物に入り、指定された階に行こうとエレベーターを待っていると電話が掛かってきた。キルアだ。

「もしもし?」
『悪い、また話が変わってきた。ていうかセリに聞きたいこともちょっとあるけど、それはまあいいや』
「うん?」

突然過ぎてもう着くよ、と言うタイミングを逃した。エレベーターが来たのでとりあえず乗る。

「話が変わったって?」
『旅団が流星街出身ってわかってさ、奴等への懸賞金がパーになったんだよ』

あー、やっぱり。
キルアの話に心の中でそう思った。予想通りだ、マフィアは流星街との摩擦を懸念したんだろう。

『だから、お前に協力してもらう話も少し変わった。賞金じゃなくて、クラピカのために協力してくんない』

エレベーターが止まる。目的の階に着いた。
扉が開いた先に携帯を手にしたキルアがいた。私を見てびっくりしていたが、私だって驚いた。
あのね、言うのが遅い。

[pumps]