9月4日
何故クラピカのために協力してほしいのか。
彼の復讐の動機をキルアは簡潔に教えてくれた。私が知らないと思って話してくれたようだが、全部知ってる。漫画で読んだもん。
それだけじゃない、クルタ族が襲われた事件は当時新聞で読んだ。

そして私が来る間にクラピカの復讐計画は建て終わったらしい。後は実行のみ、それは早い方がいい。
旅団はまだヨークシンにいるのか聞かれ、多分いるはずと答えるとキルアは「協力するかしないか、お前が決めろ」と言うと私が乗ってきたエレベーターを使って消えた。おい…おい!この状況で私を放り出すのかお前!!

満足な説明も受けられず、取り残された私はゆっくりとこの先にいるだろう人々の元へと足を進めた。
いつの間にか話はちゃんと進んでいた。
これから旅団を相手にするとは思えないほど落ち着いた雰囲気の三人の姿を見て、足が止まる。最初に私に気付いたのはゴンだった。

「セリさん」

私の方へ歩いてきたゴンはとても大きな決心したような、引き締まった顔をしていた。そんな顔を私にも向けるから意外だった。もっと憎々しげな表情を見せると思ってた。

「来てくれたんだ」
「う、うん…」

直前まで全然違う話聞かされてたんだけど。
私がそう素直に話す前にゴンが言う。

「キルアからこれからのこと聞いた?」
「…ちょっとだけ」
「そっか。…俺達がセリさんに連絡をしたのは元々は旅団の懸賞金が目当てで、あいつらを捕まる協力をしてほしいからだったんだ」
「それは知ってるよ。なんとなく分かってたし、さっき聞いた」
「………でも今は違うんだ。賞金とか関係なくなった」
「それも知ってる。クラピカが旅団を恨んでることももう分かったよ」

キルアに聞いた、と続けて口を閉じた。
私はクラピカの顔をまともに見れなかった。昨日会ったときは私が旅団と近い位置にいることを知らなかった彼は今どんな顔をしてるんだろう。


「でも、クラピカのことが分かってもセリさんは俺達に協力したくないよね」

そのゴンの発言にぎょっとしたのは私だけじゃなく、後ろの方にいるレオリオもだった。
まさかゴンがそんなことを言うとは思ってなくて、彼を見つめる。真っ直ぐこちらを見るゴンの目に旅団のアジトで見せたあの怒りの感情はなかった。

「セリさんが俺達に、クラピカに協力したくないのは旅団に死んでほしくないからでしょ」

そこまで言ってから「でも」とクラピカ達には聞こえないような小さな声で、私に耳打ちした。

「本当は俺達だってクラピカを止めたいし、クラピカを殺そうとしてる旅団を止めたい。だから協力してるんだよ」

ゴンが何故そんなことを言うのか何となくわかった。クラピカが仲間だからだ。マフィアの協力も得ずにたった一人でウボォーさんを倒したクラピカが、今こうしてゴン達の協力を受け入れているのも仲間だから。

「申し訳ないが、初めから貴女の協力を受ける気はない」

そして、私はクラピカの仲間ではない。
静観していたクラピカがこちらにやってくる。それを追いかけるようにやってきたレオリオが口を開くが、彼が言葉を発する前にクラピカが言った。

「貴女が旅団の関係者なのは昨日会う前から、ゴン達に聞く前から知っている」
「え?」

思ってもみなかったことに驚く。
初めから全部知ってた?じゃあなんで昨日あんな態度を?

「私には旅団内部に関して情報提供者がいる。奴から全て聞いていた」
口を挟む間もなくクラピカはそして、と続けた。

「貴女が私に協力する気があるとしても情報提供だろうが、実行だろうが手伝ってもらうつもりはない。正直に言わせてもらうが、私は貴女を信用できない」
「クラピカ」
「貴女は奴とは違う。だから信用できない」

レオリオが咎めるような声色で名前を呼ぶが無視してそう言い切った。私からすればレオリオが私を気遣うような素振りを見せたのが意外だった。意外なことだらけだ。
私は旅団の関係者だが団員ではないから復讐の対象外。旅団の情報提供は既に別の人間がやっている。それがダメでも他のことで利用しないのは私がその情報提供者とは違って信用できないから。

……………どういうこと?
奴とは違う、と言われても奴が誰だかわからないから考えようがない。普通に考えるなら私よりその奴の方がクラピカに近い人で信頼関係が出来ているから、万一旅団にバレても口を割らない…ってことなのだろうか。

「私が信用できないのはいつ旅団に寝返るか分からないからだよね?」
「そうだ」
「クラピカは、セリさんが普通の人だと思ってるから信用できないんだよ」
「え?」

途中入ってきたゴンがあまりにも妙なことを言うので変な声が出た。う、うん?確かに普通だけど。

「旅団の活動に関わってないセリさんがアイツらに死んでほしくないと感じるのは、盗みとか殺しとか関係ないところで友達として接してきたからでしょ」
「………えっと」
「知ってる人に死んでほしくないなんて皆思うことだよ。セリさんはヒソ…………あ、えーっとアイツとは違うから」
「待って、君達みんな勘違いしてる」

まだ続きそうなゴンの話を手で一旦止める。
キョトンとしているゴンとレオリオと訝しげにこちらを見つめるクラピカを前に一度咳払いしてから言った。

「私は別に旅団に死んでほしくないなんて思ってない」
「は?」
「クラピカが旅団を殺したいのは仕方のないことだと思ってる。だってそれだけのことされたんだもん。私がクラピカなら絶対許せないよ。ウボォーさんのことだってそうだけど、報いを受けるべきだとは思った……」

段々声が小さくなっていって、最後の方は聞こえたかどうか分からない。
でも途中までは確実に耳に入ったらしいレオリオが「マジかよ」と呟いた。若干引いてる?
これは私の本心だ。でも言っててなんだか違う気がしてきたのも事実だ。なんでそう思ったかはわからない。

「だから、クラピカに協力してくれって言われたら協力するつもりだった。でも」

クラピカは私の協力いらねぇって言うし…。
とは口に出さなかったが、目で訴えておいた。ゴンとレオリオがゆっくりとクラピカの方を見る。
クラピカは何も言わない。私もこれ以上何も言わない。
沈黙を破ったのはレオリオだった。

「なあ、手伝ってもらおうぜ。なんだかんだ人手は足りねぇだろ」

次いで、ゴンが言う。

「セリさんを信用できないなら、旅団に直接関わることはない部分で協力してもらえばいい」

二人にそう言われたクラピカは、少し考えているようだった。クラピカが口を開くのを待つ間、とても緊張した。私は彼と話すとき中々普通の状態でいられない。
どれくらい時間が流れたかわからないが、結構すぐだった気がする。
クラピカは小さく息を吐いてから私を見て言った。

「セリ、協力してくれ」

[pumps]