9月4日
計画に加わることになったが結局詳しい内容は教えてもらえず、何か起きたら連絡すると言われ、携帯片手に私はタクシーでレオリオが運転する車の後を追っていた。

あれだけ私を信用できないと言っていたクラピカは私から携帯を取り上げなかった。
まあ、今回私に与えられた役割は臨機応変に動く雑用係なので、連絡が取れなくちゃ意味がない。でもこの携帯には旅団の連絡先も入っているのだ。直接教えた訳ではないが、クラピカはそのくらい気付いているだろう。
今私が旅団に誰かに連絡を取ったらクラピカ達の計画は終わる。信用できないと言って、私を信じている矛盾がおかしかった。

外は雨が酷い。道も少しずつ混んできた。
と思ったら突然前の車のドアが開いて、人が飛び出してきた。視界が悪くてよく見えなかったが二人だ。
乗っているのはレオリオとクラピカとゴン。レオリオが運転しているから飛び出したのはゴンとクラピカだろう。
レオリオ一人が残った車は少しの間、端にも寄らずにその場に止まってから急発進した。慌てて追ってもらう。
ベーチタクルホテル方面に車を走らせるが、運悪くラッシュにハマってしまったようで中々進まない。

……何がどうなってるの。
全くついていけない。詳しい作戦内容を話してくれていない時点で分かってはいたが、この計画に自分も関わってる気がしない。ずーっと関係ないところで、でも何も知らない人よりは近くで見てるだけって感じ。クラピカは私のことを信じてるけど信じてない。

意味がないと理解していても何かしたくなるのか、渋滞に対する苛立ちから辺りにクラクションの音が鳴り響く。すいませんね、とタクシーの運転手さんから謝罪されるが私はあまり気にしてない。
ただ黙って外を眺めながら待っていると少ししてクラピカから連絡が来た。

『今どこに?』
「言われた通りレオリオの車の後ろについてる」
『そうか、ならできる限り急いでベーチタクルホテルに向かってくれないか?そこの裏口で私の仲間と落ち合ってほしい。悪いが、その後については彼女から聞いてくれ』
「え?ちょ」

切れた。
もう一度掛けようが迷ったが諦める。いつもと違って早口だったし、何か予定外のことでも起きたんだろう。
ベーチタクルホテルはこの先だ。でも今は渋滞してて車は全然進まないし、その上私の知らない仲間と会えって。ハードル高いわ。
レオリオはどうするのかな、と思ったその時、前の車は狭い隙間を通り抜けて無理矢理進んでいった。おい、……おい。
今まで追い掛けていた車がいなくなってしまい、運転手さんがどうします?と私を振り返る。流石にあんな事故一歩手前なことはさせられないので「ここで降ります」と告げて料金を払い、走ってホテルまで向かった。

***

簡単な道だったので迷うことなくベーチタクルホテルまで着いた。途中コンビニで買ったタオルで雨に濡れた頭を拭きながら裏口に回ると「こっちよ」という女性の声が聞こえた。

「あなたがセリさんね」

そう言ったのはかなり小柄な方だった。失礼だが、見た目だけでは性別の判断ができなかっただろう。鈴を転がすような声の彼女はセンリツさんというらしい。なんか聞き覚えがある名前だ。いや、旋律とか戦慄じゃなくてね?何処かで聞いた…というより見覚えのある名前か。多分、彼女も漫画に出てたんだろう。そうでなきゃ、とてもじゃないがこんな計画に関わる人とは思えなかった。

「時間がないから、話は歩きながらしましょう」

そう言われ、絶をして二人で中に入る。
私達がするのはこのホテルのブレーカーを落として停電させること。それだけだ。いや、かなりすごいことなんだけど、クラピカの計画から見ると小さいことだろう。
まず一人で歩いていた従業員を私が締め上げ、ブレーカーの場所を聞く。気絶させてからセンリツさんの能力(ものすごく聴覚が良く、離れた場所でも人がいるかどうかすぐに分かるらしい)を利用し、従業員に遭遇しないようにブレーカーの場所まで進んでいった。

「良かった。なんとか時間に間に合ったみたいね」
「これどれ押せばいいんですかね?全部押してみます?」
「その必要はないわ。ほら、よく見て。ここだけで良いのよ」

そう言ってセンリツさんが指差す。この人いて良かった。一人だったらとりあえず全部弄ってた。

「でも落とすのはまだよ。あと5分」

そう言って彼女は私に腕時計を見せた。今は6時55分。

「よく覚えてちょうだい。このブレーカーを落とすのは7時きっかりよ。あなた、時計は持ってる?腕時計の方がいいのだけれど」
「一応あります。時間もあってるはず」
「なら大丈夫ね。私はこれで車に戻るわ」
「えっ、行っちゃうんですか!?」
「ごめんなさいね、別のことをクラピカに任されてるの」

センリツさんは肩を竦めて「終わったらすぐにここから離れてね」と続けた。
さらに私をじっと見つめ、にっこり笑う。

「クラピカは複雑みたいだけど私、今のあなたは信用できると思うわ」

そう言って彼女は、走っていなくなってしまった。彼女の発言を頭の中で反芻する。
センリツさんは、言い方は悪いが見張りみたいなものだったんだろう。クラピカはそんなこと言わないだろうし、彼女も聞いてないだろうけど、でも多分そう。
さっき初めて会った彼女は私をよく知らないはずだが“今”の私は信用できると言った。

考えすぎるとすぐに時間が経ってしまうのでそこで一旦止め、腕時計を見る。センリツさんがああ言ってくれたのだから私は私に与えられたことをやり遂げないと。
7時ぴったりに私はブレーカーを落とした。
途端、真っ暗になる。分かっていたけど見えない。
しかし、いつまでもここにいたらホテルの従業員に見つかってしまうので、携帯で足下を照らしながら出口を目指した。


[次は飛行船の手配を頼む。リンゴーン空港で二機確保してくれ。費用は私が負担する]

無事ホテルから脱出したものの何処に行けば良いのか分からずうろうろしていると、クラピカからそんなメールが届いた。
なんで飛行船、そして今度はなんで電話じゃなくてメールと思ったが私が気にしても仕方がないと自己完結し、指示通りに空港へ向かった。

[pumps]