放火
※主人公7〜8歳頃、流星街での話


牧師コスプレのおじいさんに芋を作ったから持っていけと言われたのは昨日のことだった。
趣味なのか生きるために仕方なくやっているのか知らないが、おじいさんは教会もどきの近くに専用の畑を持っているらしい。盗難を危惧してか場所は教えてもらえなかった。一応弟子みたいなものなのに全く信用されてない。
その畑で取れたものをお裾分けしてくれることが時々あるのだが、そのお裾分けしてくれた作物が、どうもまぁ、見た目が良くないと言うか、あの、はっきり言うと不味そうなのだ。
そりゃこんなゴミだらけの空気の悪い環境レベル最悪の場所で美味しい作物が育つわけがない。以前貰ったかぼちゃはナズナさんが煮て一口食べて顔を顰めた後メガネに押し付けていた。
そして今回貰った芋。両手一杯に貰った芋達は私の知っている姿より明らかに小さいし、所々色がおかしい。

「やばくない…?これ火通さないと食べれないって…いや、火通しても怖い…」
「そもそも芋って生で食うもんじゃないけどな」

ナズナさんがこの中では比較的大きい芋を片手に掴んで言う。口には出さないが、わかりやすく「俺はいらないお前が処理しろ」という顔をするのでさあ困った。
どんなものでも火を通せば大体食べられると思うが、それは『腹は痛くならない』という意味で美味しいかは別だ。こんな不味そうな芋でも火を通せばほくほくして美味しい焼き芋になるのだろうか。これ品種なんなんだ。甘いのか。
考えた結果、一人で試すのは恐ろしいのでとりあえず何人か巻き込むことにした。


「というわけで焼き芋を作ろうと思います。食べたい・手伝いたい・なにそれって奴は私の元へ来なさい。それ以外の感情を抱いた者には興味ありません、だから帰れ以上」
「ええ…?」

芋を抱えた私の暴言にシャルがドン引きしている。
まあ、なんだかんだ言って友達だもん、シャルは一緒に焼き芋作るよね?という意味を込めて見つめると奴は静かに目を逸らした。おいおい、ドン引きじゃないか。

「どうしたお前」
「またどっかで頭打ったか?」

しかしノブナガとウボォーさんが来てくれたので私の人望は中々だと思う。ちなみに私はそんな頻繁に頭を打たない。ウボォーさんの軽く悪意を感じる発言とこちらを見て「最近暑いからな」と頭を指差し小バカにしたような言い方をするフィンクスは無視だ。

「って、これだけ?マチとパクとフランクリンとついでにクロロとフェがつく人は?」
「知らねぇよ、その辺で遊んでんだろ」

なんてフィンクスはどうでもよさそうに話すが、私は内心焦った。
えー!?いやいやまずいってこれ脳筋だらけじゃん!今ここにいるの私含めてバカしかいないじゃん!めっちゃ嫌な予感するんですけど!

「ちょ、やめよっか…」
「なんでだよ、やろうぜ?俺腹減ってんだよ」

ウボォーさんの腹ペコ情報とか知らん。
いやぁ、正直この面子で焼き芋とか大惨事の予感がするからやりたくないのだが、ウボォーさん以外も“食えるなら食う”という考えらしく「やるならとっととやれや」と言ってきた。ドン引きしてたはずのシャルもいつの間にか隣に来てる。なんだこいつらツンデレかよ。

「じゃあ、火をつけなきゃいけないから、とりあえず落ち葉集めて」
「ねーよ」

即答された。えっ、困るんですけど!焼き芋って言えば落ち葉じゃん!
ノブナガが呆れた声で言う。

「周りよく見ろ、落ち葉なんかねーだろ」
「じゃあなんか代わりになりそうなゴミでいいよ」
「正気かお前」

今度はフィンクスが引いてる。
流石に食べ物を作るのにゴミを使うのはどうかと思ってるらしい。でも火をつけるライター以外何も持ってないから必要なものはゴミで代用するしかないぞ。

「みんな普段落ちてるもの食べたりしてるじゃん。それと変わらないって」
「えー、セリって発想が雑だよね」

発想が雑ってなんだよ初めて言われたわ。

「まあ、試しにセリの思う方法で作って見ようぜ。で、美味そうなら食えばいいだろ」

とウボォーさんが言ってくれたので他のメンバーも納得してくれた。意外とみんな細かいよね。確かに菌とか怖いけど人間は強いし、とりあえず熱を通せば大丈夫だと思う。私たち若いし念能力者だから人より丈夫だし、イケるよ!
そんな感じで焼き芋を始める。その辺から集めてきたゴミ(紙類)を家からくすねてきたペットボトルの水を使って湿らせ、芋に巻く。ぶっちゃけ外で焼き芋なんてしたことがないので正しいやり方がわからない。アルミホイルで包まないといけない気がしたが代用品が見つからないので、そのまま落ちてた段ボールらしきものを細かくした簡易落ち葉の中に入れた。
ライターで着火。した瞬間ものすごい勢いで火が上がる。ここは流星街、道なんてあってないような流星街、そこら中にゴミが落ちていて酷いところは地面なんて見えない流星街。段ボール落ち葉から火は近くのゴミへ引火した。

「やばいこれやばい完全に私達放火犯だ」
「巻き込まないでよ、火をつけたのはセリじゃん」
「えっ!シャル、えっ」
「落ち着け落ち着け、消せばいいんだよこんなの」

とノブナガは年長者らしく冷静に言うと私の手からペットボトルを取り、中に残っていた水を火にかけた。なんの効果もなく、燃え続けていた。そりゃそうだ、火の勢いってのは想像以上に強いのだ。

「ふん……予想通りだこんなもん」
「まあ、本気で消えると思ってたんならやべぇな」

フィンクスが呆れたように言うとノブナガは「あたりめェだろ!おら、周りのゴミ遠ざけろ!」と足でまだ引火していないゴミを蹴り飛ばした。本物のバカかと思ったが、すぐにまともなことを言い出したので私達も火から周りのゴミを遠ざける。移動が困難なものは破壊した。引火しないように周りのもの壊すって江戸時代の火消みたいだ。途中ウボォーさんのアフロに引火しないか心配だったが、なんとか無事隔離することができ、それ以上火が広がることはなかった。が、火葬場でもない場所でこれだけ燃えて煙が出ていれば他の人も気が付くわけで、様子を見に来た第三地区の大人がやってきて消火してくれた。
一歩間違えば大惨事なので流石に怒られた。何度も何度も頭を下げたが、ふと気が付けば他の連中の声が聞こえない。慌てて後ろを振り返れば誰一人居らず全員逃げた後だった。嘘だろ、確かに実行犯は私だけど人ってこんな簡単に裏切るのかよ。

次の日シャルに「えー、残って謝ってたの?逃げればいいのにバカだなぁ」と言われて未来の旅団の恐ろしさを知った。ちなみに芋は黒焦げで食べられなかった。

[pumps]