もしもくじら島で育っていたら
現代から衝撃のタイムスリップ&転生を経験した私、セリは今日も今日とて海に遊びに行く。別に夏休みとかじゃない。
私が転生した先は四季?何それおいしいの?といった感じで年中過ごしやすい気温を保っており、しかも海に囲まれた島だったのだ。
出稼ぎの漁師がよくやってくるため、彼らのために島にあるお店は飲食店(飲み屋とか)ばかり。映画館、ゲームセンター、遊園地……あるわけねーだろそんなハイカラなもんは。草と水と美味しい空気で我慢しな。

漁師達の楽園と化した島、くじら島。
正直生まれも育ちもくじら島という人は非常に少ない。その数少ない島民は、誰もが幼い頃から当たり前のように海や野山で遊んでいた。
そんな島に転生して赤ん坊から人生やり直した私も当たり前のように公園デビューならぬ海デビューと野山デビューを果たし、今に至るまで遊び場は海or野山である。以上!

すれ違う人々と挨拶を交わし、目的地に着くと一人の少年がいた。
そういえば島の状況を詳しく知らない方々には、もう一つ大切なことを伝えておかなくてはならない。

「あっ、セリ!やっときた!」

私の一番の遊び友達が8歳年下の少年であることを。


「ごめんごめん、寝坊しちゃったんだよね」
「もー、俺ずっと待ってたんだよ」

そう言って頬を膨らませるのはゴン・フリークス。先日9歳の誕生日を迎えたばかりの元気いっぱいな短パン小僧……男の子である。
彼のお父さんはハンターという職業に就いていて、くじら島にはいない。お母さんのことはよく知らないが、今は親代わりのミトさんという女性とその祖母と三人で暮らしている。

どう考えてもハンターハンターの主人公ですね…。
と名前、家族構成、重力に逆らっている髪型と好奇心旺盛で純粋な性格から私は割り出した。なにそれイミフ。
しかも子供が少ないこの島では8歳年下のこの子が私と一番歳が近いのだから、もう何がなんやら。他に子供はノウコという3歳の女の子くらいだ。私と年近い子供が少年と幼女しかいないんだぜ、すごいだろこの島。

「ねぇ、セリ!今日はどっちが長く潜っていられるか勝負しようよ」
「えっ、むりむり絶対私が負けるじゃん。ゴンって5分以上息とめられるんでしょ?私2分もムリだもん」
「大丈夫!途中まで俺が頭を抑えといてあげるから!」
「ふざけんな殺す気か」

こんな感じで私達はまるで姉弟のように仲良く微笑ましい毎日を過ごしている。
時には花火という名のキャンプファイアーをしたり、森で取ってきた幻覚作用のあるキノコを苦手なおじさんにプレゼントしたり、漁師さんたちの船にこっそり乗り込んでシージャックごっこをしたり(もちろん怒られた)………楽しい思い出がたくさん!

といっても私はもう17歳だ。そろそろ野性児全開のイタズラ生活はやめて真面目に働くべきだろう。
この島には学校はないので基本は通信教育だが、元日本の女子高生な私に死角はなかった。もうすでに一通り終わらせている。通信教育を終えたら、次に待つのは就職というのが島民の考えだ。
もちろん私もその例に洩れず。出来れば島から出て働きたいと思っている。理由は一つ、都会の方が楽しいからだ。それで、強そうな人と結婚して平和に暮らそう。

そんな島を出て社会人デビューを目論む私は、ある日ゴンの保護者であるミトさんに家に呼び出された。
何事だろう、とミトさんのおばあさんが淹れてくれたお茶を飲みながら話を聞く。

「ゴンがセリちゃん家の裏の森に行きたいって言ってるのよ。でもあの子まだ9歳だし、一人じゃ何があるかわからないから、セリちゃん一緒に行ってあげてくれないかしら?」

お願い、と頼むミトさんは私をスーパーマンかなにかと勘違いしているのだろうか。
あそこの森は場所によってはキツネグマが出るため子供は一人で行くなと言われている。私に同行を頼むということはミトさんは私を大人として見ているのだろう。
しかし私にとっての大人というのは、経済的にも精神的にも社会的にも自立していて責任感のある人のことだ。全部出来てないんですけど。
しかも、もしもの時はゴンを守るためにキツネグマと格闘しなきゃいけないのだ。私は運動神経はいいと思うけどキツネグマと戦って勝てる気はしない。
ハンター世界には念という必殺技があるが養母のスズシロさんは念能力者だけど教えてくれなかったし、私自身も覚える気がなかった。元々この世界の戦いに参戦するつもりはないし。

もしもの時のためにゴンについていくなら、私よりもっと強そうな大人の方がいいんじゃないかなぁ、と言いたい。
だが、実際その大人がいるかどうかと言えば否。みんな忙しいし、子供の遊びに付き合っている暇はないだろう。初めから行かなきゃいいとしか言われない。
それはそれでゴンが可哀想だし、やっぱり私がいってあげるべきなのか…

そう思って渋々ミトさんに返事をすれば、とんでもないことがわかった。

「大変っ!ゴンがいないわ!」
「えええええ!?」

ゴンに私が一緒に行くことを報せに行ったミトさんが慌てて戻ってきた。
部屋はもぬけの殻。机の上には「森に行ってきます」という簡潔な書き置き。既にゴンは森に向かっていたらしい。
早いよ、行動力ありすぎだよ!

「あのガキ……」と書き置きを握りしめ怒るミトさんにビビりながらも「私が様子を見に行ってきます」と言い、ミトさんとおばあさんが頷くのを見て外に出た。
途中で家に寄り何故か置いてある猟銃を持って森に入る。ぶっちゃけ使い方わからないし、免許とかもないけど大丈夫だろうか。


中々ゴンの姿が見つからないので仕方なく森の奥へ進む。キツネグマ出ないでねー、と思いつつゴンの名前を大きな声で呼びながら歩いていると、しばらくして遠くから声が聞こえきた。

耳を澄まして声が聞こえてくる方向に足を進める。
大きくなる声がゴンのものだと気がついた時、少し離れた場所でゴンの姿を見つけた。

「セリ!」
「ゴン!よかったー!!」

駆け寄ってきたゴンと抱き合いながら(猟銃が邪魔だった)無事を確認するとなんと肩を怪我していた。まさか襲われたのだろうか。
驚いて、まず状況を理解しようと視線を移動させ、私は固まった。

ゴンがいた場所に全く知らない髪の長い男の人がいたからだ。

ぽかん、とする私に気がついたゴンが私から離れ、髪の長い男の人はこちらに近づいてくる。
この時、彼の姿を見て私は心を撃ち抜かれたかのような衝撃を受けた。

「おい、ゴン。お前の姉さんか?」
「ううん、友達!セリっていうんだ。セリ、こっちはカイト!さっき俺を助けてくれた人で、しかも親父の………あれ?セリ聞いてる?」

ゴンの言葉が耳に入りつつも返事はできない。
ガチャン、と猟銃が落ちる音が森に響く。

「セリ?」
「おい、落としたぞ。というかなんで女の子がこんな物騒なもんを…」

そう言いながら私の猟銃を拾ってくれる髪の長い男の人、カイトさん。
ほら、とこちらに猟銃を渡すその手をガシッと両手で掴むと私は勢いとノリで自分でもびっくりすることを言った。

「結婚してください」

お父さんお母さん、セリは森で運命の人を見つけました。


[pumps]