私を実家に連れてって
※時間軸はすみっこの星29話の辺り(戸籍乗っ取りまでの四ヶ月)です。原作の天空闘技場編の話です。
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6月4日金曜日。
私は死体探しを中断して、久しぶりに街中へ下りてきていた。まるで熊のような表現である。
別に食べ物を探しに来たとかではなく、とある人物と久しぶりに会う約束をしていたからだ。
うきうきしながら待ち合わせ場所となっていた駅前へ向かうと既に相手が到着していることに気が付き、慌てて駆け寄る。

「ヒユちゃん!」
「セリさん、お久しぶりです」

約3年ぶりに会うヒユちゃんはそう言ってはにかんだ。
表情に幼さは残るものの、美少女っぷりに磨きをかけた彼女(彼)は着物姿ではなく、深緑色のちょっとレトロなワンピースを着ていた。
あの可愛らしいお姫様カットから普通の黒髪ロングになっていて、成長して背が伸びたからか髪を片耳にかけているからか、昔と比べて大人っぽく見える。

「ここまで一人できたの?迷わなかった?」
「はい、今日のために予習してきましたので!」

少し頬を上気させて答える姿はもうどこからどう見ても女子。
え〜、かわいい〜。最近ずっと死体しか見てなかったから和むわ〜。
私が会う約束をしていたのはジャポン旅行で知り合いになったヒユちゃんである。元々ハンゾー先生を通じてやり取りをしていたので近況は知っていたのだが、この度ついに自分の携帯を買って貰ったらしく、大喜びで電話をしてきた。
そこから色々盛り上がって、こっちへ遊びに来てくれることになったのだ。本当は私の実家へ行って家族に挨拶がしたい、と結構重たいことを言われたのだが、ヒユちゃんは本物のお嬢様(お坊っちゃま)なので、流石にごみ捨て場に招待するわけには行かない。初心者にいきなり流星街はハードルが高いだろう。空気を吸ってそのまま失神してしまう。

ということで理由をつけて実家は断り、挨拶はハギ兄さんで妥協してもらうことになった。私は丁度パドキアで死体を探していて、暫く動く予定がなかったのでヒユちゃんが都合の良い日にパドキアで遊ぼうということになったのだ。
本当に久しぶりだったので、ついまじまじと見つめてしまうとヒユちゃんは「そんなに見ないでください」と恥ずかしそうに目を伏せた。か、可愛い…天使か…?

「ヒユちゃん皆に言われるでしょ?天使ですか??って」
「いえ、そんな恐れ多い…」
「またまた〜!才蔵さんとか挨拶の流れで言ってくるでしょ」
「才蔵は毎日挨拶すると膝から崩れて泣いていますね」
「情緒不安定かよ…」

あの人相変わらず怖いわ。
話を聞く限り姑気質のなんちゃって忍者はこの三年で何一つ成長していないようだ。ハンゾー先生はプロハンターになったって言うのにあの男前は何して……いや、これ私にもブーメランだな、やめよう。
ヒユちゃんは一週間ほど滞在予定なので、最初は観光スポットを色々と回ることになった。一口にパドキアといっても広い。駅で手に入れたガイドブックを開いて二人で覗き込む。

「旧市街と歴史博物館と天空闘技場と……あとククルーマウンテンのゾルディック家も見てみたいですね」
「あそこね〜、バスツアー参加しようか」

私の知り合いと言えど直接本人達に会いに行くのは意外と難しい事がゴン達の件で判明したので、ここは大人しくバスツアーで我慢してもらおう。
裏事情を知らないヒユちゃんは「まあ、素敵ですね!」と喜んでくれた。素敵かどうかはわからない。
一先ず現在地から一番近いのが天空闘技場だったので、そこから回ることにした。直通のバスが出ていたのでそれに乗り込み、あっという間に懐かしの地にたどり着いた。

天空闘技場とは高さ991メートルのタワーで世界中から腕自慢が集まる格闘技場である。私やハギ兄さん、キルアやイルミが腕を磨き、お金を稼いだ場所でもある。
まあ、私はここで稼いだファイトマネー借金のせいでほぼ全額失くしたけどね。

しかし何年ぶりだろう。七年?六年?まさかこういった形で再び足を踏み入れることになるとは思わなかった。
参加資格がめちゃくちゃ緩いせいか受付には長蛇の列。参加者が多ければその分試合数も多いので、中途半端な時間に来た私達でも今すぐ観られる試合が沢山あった。
注目選手が出る試合は何日も前からチケットが完売してしまうため観ることはできないが、モニターに映し出される選手達を見る限り、以前よりも強そうな人が多かった。
この闘技場独特の空気に、ヒユちゃんは高揚感に包まれているのか目を輝かせている。かわいい〜。

それにしても人が多い、と思ったらもうすぐ200階クラスの試合があるらしい。そりゃ見逃せないし、たとえ席が取れなくてもモニター越しでいいから観たいという人で溢れるのも頷ける。
はぐれない様にヒユちゃんと手を繋ぎ、50階クラスの観戦チケットを買う。1階からはド素人も混ざっているが、50階まで行くと大分厳選されるので“観れる”試合が多い。正直200階に近い試合は何をしているかわからないものも多いので、この辺りがヒユちゃんにとって一番理解しやすく勉強になるだろう。
などとお姉さんぶって説明すれば、純粋な好意100%の尊敬の眼差しが返ってきた。久々に人から好意を向けてもらえたので私の心は癒された。

試合会場となる階までエレベーターで向かう。降りて真っ先に目についたのは先程以上の人の数。お祭りでもあるのかと思うレベルの混雑具合だ。まあ、お祭りみたいなもんだけど。
出来る限り気を付けていたのだが、少し進んだところで予想外の人波にのまれ、私はヒユちゃんの手を放してしまった。

「ヒユちゃーん!」

慌てて手を伸ばすが、どんどん離れてしまう。やばい、私はほぼダンプカーだから人にぶつかってもビクともしないけどヒユちゃんはガラス細工みたいなものだからこのままじゃ潰されてしまう。
どうしよう、とヒユちゃんが流されたと思われる方向へ進む。

しばらくすると人の波が引いてきた。しかしヒユちゃんは見つけられない。どこに行ったんだろう。
すると近い位置から「セリさん!」とこちらを呼ぶ声が聞こえた。周囲を見回すと非常階段に繋がる通路脇でこちらに手を振る姿を見つけてほっとする。

「ヒユちゃん、よかっ……なんか後ろにいるよ!?」
「や、セリ」

側へ寄ると可愛いヒユちゃんの真後ろに長身のピエロメイク男が立っていた。いつも通り危ないオーラを漂わせているヒソカさんは、私を見るなり軽く手を挙げる。
喋った!!!本物だ!!!

「お二人は、お知り合いなんですか?」
「知らない…誰……?名前知ってるとか怖いんですけど…」
「酷いなぁ。一緒にお茶した仲じゃないか」

そして殺されかけた仲でもある。
言動が教育に悪すぎるので、私一人ならともかく子供(ヒユちゃん)がいる時には出会いたくない人だ。
ヒソカさんから離さなきゃ、と思ってヒユちゃんを自分の側へ引き寄せる。

「ただの顔見知りだし、変態だから覚えなくて大丈夫だよ」
「聞こえてるよ」

聞こえるように言ってるんだよ。
私の考えがばっちり分かっているらしいヒソカさんはくつくつと笑った。私達の、主に私が発している微妙な空気を感じ取ったヒユちゃんが「あの!」と声を上げた。

「その、でも、とても良い変態の方でしたよ!」
「変態に良いも悪いもないからね…?」
「いえ、押し潰されそうになったところを助けていただいたんです」
「そうなの?それはありがとうございます」
「どういたしまして」

ヒユちゃんのお姉さん的存在として頭を下げる。
なるほどね、だからこの人が一緒にいるのか。

「それにセリさんの居場所がわかったのもこの方が教えてくださったからで」
「そう……でももうお礼言ったからいいよ。元いた場所に戻してきなさい。うちじゃ飼えないから」
「そんなお父さんみたいなこと言わないでくれよ」

正直積極的に関わりたくなかったので「お願い帰って…」と目で訴える。この人何で天空闘技場にいるんだろう。初めて会った場所もこの近くだし、もしかしてハギ兄さんのご近所さんなの? 散歩コース?
嫌な想像をしていると目の前のピエロメイクが「ところでその子」とヒユちゃんの方を見る。

「セリの弟かい?」
「「え!?」」

思いもよらない質問を受けて私達の声が重なる。
何をそんなに驚いているのか分からないらしいヒソカさんに、ヒユちゃんが「初対面で性別を見抜かれたのは初めてで…」と口元に手をあてながら言う。
そう、せめて「妹」と聞くはずだ。こんな一瞬で見抜くとは…やはり侮れないと少しばかり感心しながら「お友達です」と我々の関係性を答える。
しかしその解答もヒソカさんにとっては意外なものだったらしい。私達を見比べると首を傾げた。

「姉弟じゃないのかい?君達よく似てるから血縁なのかと」

どこが?私達は顔を見合わせた。
自分達でも似てるとは思わないし、他の誰からも言われたことはない。

「こんなに可愛いヒユちゃんと私のどこが似てるんですか」
「おや、君だって可愛いじゃないか」
「え、ええ!?」

まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなかったので、驚いて半歩下がる。そんな私にヒソカさんは目を細めた。
この人は冗談の時はもっとわざとらしい笑みを浮かべてこちらの反応を伺う。ということは、からかっているわけじゃないのか。

「ヒソカさんって……そんなに悪い人じゃないんですね」
「よく言われるよ」
「ほら、やっぱり良い変態の方でしたね!」
「よく言われるよ」

それは嘘だろ。
しかし、ほんの少しだけ好感度が上がる。確かにヒソカさんは初対面の時も私のこと可愛いって言ってくれていた。
流石に首を切られたことは水には流せないが、今までうざいと思っていた所は一部訂正しよう。

「でもただの友達同士か。僕の予想が外れるなんて残念」
「ただじゃありません!セリさんは私の命の恩人で、憧れの人なんです…!」

やだもう、やだ〜!
ヒユちゃんの熱い視線を受けて、私の体温も自然と上がる。二人でうふふ、と手を叩き合う。一生こうしてたい。
そんな私達を見てピエロメイク男は「仲が良くて何よりだね」と笑った。ヒソカさん暇でしょう?帰って大丈夫ですよ?
しかし人の思い通りにならないのがこの男である。

「僕は仲良くなりたい人と上手くやれないから羨ましいよ」
「何の話ですか?妄想?」
「ううん、願望」

クロロの話かな?この人副業でクロロのストーカーやってたはず。
と思って聞いてみたら、奴のことだけではないらしい。

「今は他にも気になる人がいてね、でも声をかけられないのさ」

ほら、人見知りだからと続けられる。そのネタいつまで引っ張るんだ。
本音を言えば死ぬほどどうでもいいが、私の中でヒソカさんの好感度はほんのり上がっているのでここは是非彼の恋を応援してあげよう。
ぶっちゃけそのわけわかんないメイクと服装と話し方をやめれば大分人間関係も円滑に進むと思うのだが、それが彼のアイデンティティーだというなら私が口を出せる話じゃない。頬を掻きながら口を開く。

「どの人ですか?よかったら代わりに電話番号とか聞いてきましょうか?」
「ホントかい?」

私の提案に少し意外そうな顔を見せたヒソカさんは、すぐ口角を上げる。
実はあの子なんだ、と指差された方を見ると丁度始まったばかりの200階クラスの戦闘を映すモニター画面があった。
そこに選手として映っていたのは見覚えのありすぎるツンツン頭の短パン小僧。

「ゴンだ!」
「権田?」

ひっくり返りそうになる私の横でヒユちゃんが権田さん?と聞き返してきた。権田さんじゃない。
ヒユちゃんにゴンのことを知り合いの子だと紹介すると「可愛い子ですね」と微笑んだ。そうなの可愛いの。しかもめっちゃ良い子で…じゃなくて何をしているんだあの子は。
一体いつの間に200階クラスの選手になったんだろう。確かにポテンシャルはあるからおかしくはないけど、まさかこんな所にいるとは思わなかったし、何が“気になる人”だよ。面白そうに試合を眺めるヒソカさんを肘で小突く。

「ヒソカさんって本当紛らわしいですね」
「僕は好みの子を答えただけだよ。何一つ嘘は言っていないさ。仲良くなりたいのもホント」

にこりと笑った彼に、つい顔が引きつる。上がったはずの好感度がまた下がる音がした。

「セリはどんな子が好みなんだい?シャルナーク?」
「いえ、私の好みは目付きが悪くて、尖ってる感じの人ですね」

突然振られた女子トークに動揺しつつも素直に答える。長身で細身で強くて頼りがいのある一見クールで、でも熱い心を持った人。厳しく見えるけど本当は優しくて動物にも好かれるような…どこかにいないだろうか、そんな素敵な人。
欲望のまま自分の好みを羅列する私にヒソカさんは「見つけたらすぐに教えるよ」と言ってくれた。よろしく頼む。

くだらない話をしている間にもゴンの試合は進んでいく。彼の相手は念能力者のようで、強化したコマを飛ばしながら本人も一本しかない義足を軸に高速で回転していた。
飛んできたコマを弾き返さずに身体で受け止めたゴンは、ほぼ無傷だった。どうやら彼も念を習得したようだ。
といっても恐らくまだ初歩の初歩、といった具合なので見ていてハラハラする。念能力者を相手にするには危なっかしい。
相手も回転により攻撃をすべて弾き返してしまう中々厄介な選手だ。人によっては攻略が難しいんじゃないか?私なら地面砕いてバランス崩させて動き止めた後に足へし折るかな。
と思ってたらゴンは釣竿を使って床板を剥がし、似たようなことをした。誰よりも夢中で試合を観ていたヒユちゃんは拳を握り「すっげー!」と目をキラキラさせていた。興奮しすぎて素が出てる。
義足を折られた相手選手は試合続行不可能、ということでゴンの勝利が宣言された。ぱちぱちと手を叩いていたらすぐに次の試合が始まる。本日のメインイベントとされるほどの注目試合らしい。ゴンの余韻もあり先程以上に盛り上がる会場に現れたのは、またもや見覚えのある銀髪の少年。そうだよね、ゴンがいるならキルアもいるよね。

「彼も気になるんだよね」

にやにやしながらヒソカさんがこちらを見る。もう喋らないでほしい。
ゴン同様念を身につけたらしいキルアの対戦相手は車椅子の念能力者だった。オーラの感じからキルアも覚えたてのようだが、彼に関しては元々戦闘慣れしているのでそこまで心配しなかった。
実際キルアは終始余裕があり、彼のペースであっという間に試合を終わらせた。圧勝と言っていいだろう。
その試合を三人並んで眺めていた私達はキルアへ拍手を送る。良い試合だった。さあ、行くか。

「待ってよ、電話番号聞いてくれるんだろう?」
「ええ〜…」

ヒユちゃんの肩を抱いてその場から離れようとした私を目敏く見つけたヒソカさんが呼び止める。そうは言ってもゴンって携帯持ってないんじゃないか?
クロロかイルミの番号で勘弁してくれ、とお願いしたが知っているからいらないと一蹴されてしまった。クロロの連絡先って絶対何台かある飛ばし携帯の一つだろうな。私もそうだけど。
するとヒユちゃんが何かを見つけたらしく声を上げる。

「あれ、見に行ってもいいですか?」
「え?何?」

ヒユちゃんの示す方を見るとこの殺伐としたタワー内部に似つかわしくない大きな帽子を被った猫のキャラクター像が配置されていた。絶妙に可愛くない謎のゆるキャラである。
近寄ってみるとどうやらフォトスポットになっているらしく、猫の後ろには周囲から浮きまくったメルヘンな背景が作られていた。
側にある説明書きを見るとパドキアで人気のゆるキャラと天空闘技場が期間限定でコラボしているようだった。コラボ相手間違えてるだろ。
私の目にはあまり魅力的に映らなかったが、ヒユちゃんがうずうずそわそわしていたので、ここで写真を撮ることになった。

「それなら僕が撮ってあげるよ」
「えっ、ありがとうございます」

ヒソカさんのお言葉に甘えて撮ってもらうことにした。この人に携帯渡すの怖いな…と思いながらカメラモードを起動してお願いする。
ゆるキャラを挟んで撮りたかったのだが無駄に大きく、カメラマンに「もっと近づかないと入らないよ」と言われてしまったのでその前に二人で並ぶことにした。
ヒユちゃんと照れながらくっつく。突如鳴り響く大量のシャッター音。連写!?

「はい撮れた」
「ねえ、誰が連写しろって言いました?」
「連写は基本だよ」

なんて言いながら返された携帯を確認する。あーあー、181枚。カメラロール埋まってるよ。
撮ってもらった写真を無感情で眺める私とは対照的に満足気なヒユちゃんは丁寧にお礼を言っていた。

「ヒソカさんもお一人で撮ってさしあげましょうか?」
「あれ、僕はソロ限定なのかい?」

ヒユちゃんが酷いこと言ってる。
だが、このメルヘンなフォトジェニックスポットで写真を撮るヒソカさんなんて想像するだけで面白すぎるので「撮りましょうよ〜!」と私も乗っかった。その結果、何故か三人で撮ることになった。
なんだよ、これ…何してるんだ私…。

ヒソカさんとヒユちゃんと三人で写真を撮るという夢にも思わなかった展開に混乱して固まる私を放置をして、二人はセルフィーだと背景が上手く写らないので道行く人に撮ってもらおう、と頼みに行った。
ピエロメイク男に声をかけられた通行人の男性は遠目からでも分かるほど怯えていた。私も怖いよ。カメラマン役を確保した二人が戻り、早速撮影が始まる。

「あ、あの〜、皆さんもっと近づいてもらわないと…その……撮れなくてですね…」
「ごめんごめん」
「ちょっとヒソカさんこっち来ないでください!警察呼びますよ!」
「それは困るなぁ」
「お二人とも落ち着いてください、私が間に入りますから」

全員写るように出来るだけ近づき、私達の間に入ってくれたヒユちゃんの肩に手を乗せる。
これ家族写真の構図だ…と気が付いたのは無事に撮れましたと震える通行人の男性から携帯を手渡された後だ。
男性にお礼を言ってから、顔を付き合わせて写真を確認する。

「よく撮れてるじゃないか、みんな可愛いね」
「ヒソカさんは写真映りが良いですね。あ、もちろんセリさんも!」
「いや半目だよ私」

だから連写がいいんだよ、とヒソカさんに笑われる。貸して、と彼に言われたので携帯を渡すと何やら操作し始めた。

「良い写真だからイルミに送ってあげよう」
「人の携帯勝手に操作しないでくださいよ」
「僕のアドレスも登録しておくね」
「えー、消さなきゃ」
「正直だね、キミは」

せめて写真を送ってから消してくれ、と頼まれたので取り返した携帯から二人に写真を送る。
ヒユちゃんは余程嬉しかったのか大感動していた。記念になったかい?とヒソカさんに尋ねられ、何度も頷く姿が可愛かったのでもう細かいことはいいかなって思いました。

「折角だから壁紙にするよ」
「私も壁紙にします!」
「ええ…、じゃあ私も…」

二人が揃ってそう言ったのでつい勢いで壁紙に設定してしまった。仲良しの友達グループかよ。あとでヒユちゃんだけトリミングして壁紙に設定し直そう。
私達が観る予定だった試合のチケットをヒソカさんも持っていたらしく、流れでそのまま一緒に観戦した。そしてその夜、何故か三人で中華料理を食べることになった。
箸って不思議だよねぇ、と言うヒソカさんに持ち方を教えてあげるヒユちゃん。なんなんだ、この状況。なんでこうなるんだ?

恐ろしいのはヒソカさんとヒユちゃんがちょっと仲良くなってしまったことである。ヒユちゃんからすれば彼は気のいいお兄さんなんだろう。
楽しそうに会話をする二人を見て複雑な気持ちになった。ちなみに、何故ヒソカさんが天空闘技場にいたのかというと「戦いが好きだから」らしい。

「セリは試験が終わってから何をしてたんだい?」
「私は死体探してますね」
「へえ」

尋ねられてうっかり本当のことを言ってしまったが、ヒソカさんは特に驚かなかった。物騒なワードを聞いて顔色一つ変えないのは流石である。
ヒユちゃんはヒユちゃんで、そういう仕事だと思っているのか「大変ですね」と気遣ってくれた。そうなの、大変なの。
ヒソカさんは私が死体を探す理由に何となく気が付いたらしく、顔の一部に視線がいくような人を選んだ方がいいと言った。
顔に一つ大きな特徴があるとそれ以外のことは印象が薄くなるからだ。アザがあるとか、眼帯をしているとか。
後でその人のことを振り返っても特徴的だった部分以外は覚えていなかったりする。彼のペイントにも実はそういう意味が含まれているのだろうか?

「キミも別人になりたい時はいつもと違う目立つ特徴を一つ作っておくといいよ。泣き黒子とかさ」
「参考にします」

私のように脛に傷のある人間には重要なアドバイスである。
覚えておこう、とターンテーブルに手をかける。固定されたかのようにビクともしない。
ま、回らない……?ハッとしてヒソカさんを見ればにやにやと愉しそうにしていた。こいつこんなところで念を…!
目の前が麻婆豆腐で固定されてしまったテーブルを必死に回そうとする私を横目に奴は「やっぱり食事は誰かと一緒にとるのが一番だね」とか言っている。絶対に動かして目の前ピータンで固定してやるから覚悟しろよ。

[pumps]