サービスエースをねらえ!
原作前1996年(ゾル家訪問後〜ヒソカ戦までの間)頃の話です
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フロントで受け取ったカードキーを使って部屋へ入ると真っ先に目についたのはバルコニーだった。広く開放的な造りの室内はリゾートホテルらしく白と青を基調としていて爽やかな印象である。
私に続いて部屋を覗いたキルアはバストイレ、金庫、クローゼット、冷蔵庫と開けられるものを全て開けてバタバタと駆け回るとベッドルームに飛び込み「俺こっちのベッドな!」と自分の眠る場所を相談なく決めた。可愛いから全然いいけど。
既に運び込まれていた荷物をベッドルームの方へ移す。9歳の子供が眠るには大きなベッドに大の字で転がったキルアは「結構いい部屋じゃん」と満足げに言った。

「この国じゃ一番人気らしいよ」
「飯も美味いといいな〜」

楽しそうなキルアに頷きながら、荷物を開く。
私とキルアはとあるリゾート地へ遊びに来ていた。規模は小さいが世界の観光地ランキングでも常に上位に入る南国である。その国で有名なホテルチェーンのペア宿泊券をハギ兄さんから貰ったので、シルバさんから許可を貰ったキルアと飛行船に乗ってやってきたのだ。
本当はナズナさんを誘ったのだが秒で断られ、シャルやメンチちゃん、マチは残念ながら皆忙しいらしく、ダメ元でミルキを誘ったら「は?なんで俺がセリ姉と出掛けなきゃいけないわけ…?」と異常に傷つく断り方をされ、最終的に話を聞きつけたキルアが立候補してきたのだった。ちなみにキルアはここのホテルでやっているスイーツバイキングに惹かれたらしい。

南国のリゾート、となればビーチ。
バルコニーからビーチの様子を窺えば、水着姿の人々が楽しそうにしている。いつの間にかベッドから起き上がったキルアが俺達も行こうぜ!と言うのですぐに支度を済ませて必要なものだけを手に取り、ビーチへ向かう。

「ビーチで一通り遊んだらさ〜、中のプールでも泳ごうぜ」
「やだ〜、ふやけちゃう」

はしゃぐキルアを横目に私は私で久しぶりの綺麗な海に浮足立っていた。こんな風に海で遊ぶなんて随分久しぶりである。
ホテルから借りたパラソルの下に少ない荷物を置いて早速飛び出そうとしたキルアを慌てて止める。

「キルア!待ちなさい!日焼け止め!まず日焼け止め塗らないと!」
「うわ、やめろよ!なんだよ!!」

ぐっと腕を掴んで引き戻すと「強い強い強い」と客観的事実を並べられた。そうだよ、私はキルアより力が強いんだよ。
荷物から日焼け止めを取り出し、大人しくなったキルアに塗る。

「日焼けすると人によっては真っ赤になったりするから気を付けてね」
「お前に掴まれたところが真っ赤だよ」
「ホントだごめぇん…」

私は触れるもの全てを傷つけてしまうゴリラだからもっと気を付けないと。
謝りながら赤くなった箇所を擦り、自分にも日焼け止めを塗る。

「熱中症で倒れないようにね」
「訓練してるからへーきだよ」
「ゾルディックって熱中症の訓練もするの?」
「そう、あと日焼けしない訓練もする」

それは嘘だろ。
調子の良い発言は流し、早速二人で海に入る。久しぶりの海にテンション最高潮の私と家族(主にイルミとキキョウさん)の目がない状況に喜ぶキルアはひたすら遊び続けた。一般人と比べると体力無限大のようなものなので、2時間くらい同じテンションではしゃいでいた。
すると突然、キルアが勢いよく後ろを振り向く。そのまま暫く砂浜の人々を見ていた。先程までとは打って変わり青い顔をしている。
お腹が冷えたのだろうか。どうしたの?と聞くとキルアはどこか緊張した面持ちで言った。

「今、すごく嫌な感じが…見られているっていうか…」
「ジ〇ーズじゃない?」
「なに、〇ョーズって」
「鮫だよ、人食い鮫」

海で嫌な感じといったら鮫だって太古の昔から決まってるんだよ。
お気楽な私にキルアは「鮫かぁ?」といまいち納得がいってなさそうに辺りを見回す。なんだか怖がっているようなので守ってあげようと後ろから覆い被さる。瞬間、鋭い殺気が飛んできた。

「待って!私も今殺意感じた。これいるわジョ〇ズ」
「だよな!やっぱりなんかいるよな!」

バッ、と背中合わせになるとキルアは「多分刺客だな…」と呟いた。刺客はお前だろ?
二人で目を凝らして警戒するが周囲に分かりやすく不審な人物は見当たらず、とりあえず水から上がることになった。
キルアは正体が分からないのが気持ちが悪いらしく刺客を探すと言って遠くの方まで走っていった。私はそこまで積極性がないのでパラソルまで戻り、休憩する。
私が感じた殺意はキルアにくっついた一瞬だけで、今は特に何も感じない。けれどキルアは海から上がった後もずっと「嫌な感じがする」と言っていたのでもしかしたら狙いはあの子なのかもしれない。
ゾルディックは裏稼業だから、恨みも買いやすいんだよな〜と飲み物に口をつけると「セリー!セリセリセリ〜!!」と叫びながら笑顔のキルアが走ってきた。仕留めたのかな?

「向こうでビーチバレー大会やってんだってさ。飛び入り大歓迎らしいからやろうぜ!俺達なら無敵だって!」
「ホントに〜?」

まるで刺客のことなど忘れたようなキルアに無理やり引っ張られ、私達はビーチバレー大会に参加することになった。勝ち進むと何だか良いことがあるらしい。バレーのルールってよくわからないのだが、大丈夫だろうか?
大会といっても参加者はビーチのお客さんが多いので全体的に緩い雰囲気である。

「さあ、続いては飛び入り参加の姉弟セリ・キルアペア!」

司会者のお姉さんに呼ばれてコートへ移る。楽しめればいいか、とキルアと笑い合う。
さて、相手は…と向こうのコートに目をやって戦慄した。

「対するは同じく飛び入り参加のイルミ・ハギペアだ〜!!」

つ、強そう〜敵めっちゃ強そう〜。
ラフな格好のハギ兄さんはその輝く容姿でお姉さま方を虜にし、ビーチの声援を一心に受けていた。違くない?そうじゃなくない?
司会のお姉さんと審判のお兄さんに待ってもらい、ネットの側へ寄る。

「ハギ兄さん何してんの?」
「何ってここ彼女の家がやってるホテルだから。キミにも券あげたでしょ」
「イルミは?」
「俺はただの通りすがり」

絶対嘘。こんな浮かれた場所にイルミ・ゾルディックが通りすがる訳がない。
ビーチが似合わな過ぎて合成のように見えるイルミは長い黒髪を一つに括った。なんでそんなにやる気満々なの?
夢を疑う意味不明な状況に混乱しつつもハッ、としてキルアを振り向く。キルアは気候のせいではない汗を浮かべながらイルミの圧に耐えていた。もうだめだ、死を決意した顔してる。
私が側に寄るとふっ、と小さく笑う。

「俺…兄貴に勝てない相手とは戦うなって教えられたんだ…」
「それビーチバレーでも適用されるの?」

確かに勝てない相手ではあるけど。
正直キルアは立っているのもやっとの状態だった。何故こうなっているかというとイルミがオーラを向けているからだ。
イルミに殺すほどの悪意はないにしても念の使えないキルアがこれ以上無防備な状態で晒されるのはまずい。

「今回は相手が悪いよ、棄権し…ギャー!!?」
「セリー!!?」

話途中だというのにとんでもない剛速球が私の頭目掛けて飛んできた。もう始まってるの!?
打ってきたのはイルミのようだ。無理無理無理無理!あんなの当たったら死ぬって!返そうとしたら腕もげるって!!殺す気だったじゃん!100%悪意の籠った念だったじゃん!

「キル、こういう時どうすればいいか教えたよね」
「ああ、わかってるよ兄貴…」
「いや、だから私達棄権しようと…」
「セリ、お前は必ず殺す」
「なんで!?」

めっちゃキレてるじゃん!なんで!?
その後キルアが離脱し、ハギ兄さんがビーチのお姉さんたちと握手会を始め半ば崩壊した試合で残った私はイルミに執拗に顔を狙われた。
心当たりは全くないのだが、どうやら私はイルミの機嫌を損ねてしまったらしい。もしかして一緒に遊びに来たかったのだろうか?最初から除外してたから怒ったのかも。
そう思って誠心誠意謝罪をしたら無言で海に沈められた。こわ〜、何あのお兄ちゃん。

[pumps]