奥様はゾルディック
再び置いて行かれたので座って休憩していたら呆れた様子のイルミが迎えに来て、なんとおんぶしてくれた。
そのおかげで順調に進んでいく。それはつまり死に近づいているというわけだ。
「あのー、イルミさ…………違う違う今の違う。イルミ、私やっぱり中に戻りたいなー…なんて」
「着いたよ」
「早っ!」
さん付けしそうになってオーラで脅されてたら、いつの間にかホントに門の内側に来ていた。駅まで徒歩5分のマンションじゃねーんだぞ。
そのままボトッと背中から落とされる。降ろし方!私が赤ちゃんなら死んでた。
ていうかどうしよう心の準備がまだなんだけど!
「奥の方に居るみたいだね、行こう」
と言ってイルミはどんどん先へ行く。
えええちょ待って何想像したらいい?象くらい大きいライオンとか!?私の中で一番強くて獰猛な生き物ってライオンなんだけど!
とりあえず顔はライオン体は象!とイメトレしてたら何かの息遣いが聞こえてきた。
しかし気配はしない。
どこだ?と思ったのも束の間、イルミが居たと声を出した。
「ほら来たよ」
イルミが指す方向を見ると…………見ると……。
「ライオンじゃない!!」
「ミケだよ」
「それは知ってる!」
私の目の前には犬らしき生き物がいた。しかしその大きさは象なんて目じゃないくらいで顔は犬っぽいけど正直ライオンの何十倍も怖い。
ただ立っているだけなのに物凄いプレッシャーを感じた。対面してわかった。私はもうここから一歩も動けない。
なんだこの毛むくじゃら爪すごいでかいなんかオーラがやばい冷や汗が、止まらない…。
「セリ?」
ここで私は意識を手放した。怖すぎて気絶とかカッコ悪いけど仕方ない。ミケ怖いもん。
転生前のお父さんお母さん。あ、ついでに転生後のお父さん(仮)。
ごめんなさい私はムツゴロウさんにはなれないみたいです。
***
意識が浮上し目を開くとシャンデリアが視界に入り、それと同時に自分が非常に心地よいベッドに横たわっていることに気が付いてまた目を閉じた。
超気持ちいいからもう一度寝よう。
「何わざとらしく寝たフリしてるの?」
目を閉じてすぐについ先程まで一緒にいた人物の声が聞こえた。
ほぼ反射的に目を開くと映ったのは無表情のイルミのドアップ。
「!?ぎゃああああ!」
「うるさい」
「痛っ!!」
思わず叫んでしまった私にイルミは目にもとまらぬ速さでデコピンしてきた。威力が強すぎて頭が枕にめり込みベッドが激しく揺れる。まるで額を撃ち抜かれたかのような衝撃だった。効果音はパァン!で間違いない。
「イルミ?あなたは何故イルミなの?」
「随分寝てたね、もう朝だよ」
「はぁ!?」
額を擦りながら発した私のボケを華麗にスルーしたイルミは衝撃の事実を口にした。朝?朝!?
「え、あれ私がミケを見に行ったのって明るい時間帯だったよね。今もなんか明るいよね夜ご飯食べた覚えないんだけどあれ?」
状況が整理できず混乱する私を横目に、枕元に腰掛けたイルミは自分のペースで話を続ける。
「セリ、ミケに会って倒れて今までずっと寝てたんだよ」
「マジでか」
昼過ぎに倒れて目が覚めたら朝とか初めての経験なんだけど。イルミが私の額を手で覆う。
冷たっ、こいつの体温低すぎだろ。
「母さんが心配してたよ」
「それは……」
「親父も会いたがってたよ」
「!?は、はぁ、それは…」
「ミルキは特に気にしてなかった」
「だろうね」
「スズシロさんは帰ったよ」
「だろうね………いやいやいや!え!?」
一切声のトーンを変えずに話すからうっかり聞き流すとこだったけど最後おかしいぞ!帰ったって何私置いていかれたわけ!?
「え、な、なんで?」
「うちの自家用飛行船で」
「そういう使いふるされたボケいらない」
人のボケはスルーしたくせに自分はボケんのか。
無表情でこちらを見下ろすイルミに私が知りたいのは帰った理由だよ!と言いながら額に触れている手をどけ、勢いよく上体を起こす。ああ、なんか頭ぐわんぐわんする。
「さぁ?俺も詳しくは知らないけど確か『ハギに会いにいく』って言ってたよ」
イルミはどうでもよさそうに言った。萩?ハギ?
「なにそれ人・犬・猫・魔獣どれ?」
「人じゃない?母さんも知ってるみたいだったけど」
ええ?何だそれ。
初めて聞く名前だ。というかスズシロさんの知り合いとかよくわからないんだよね。キキョウさんも知ってるっぽいってことはナズナさんも含めた幼なじみ関係の人か?
意味わからん、という顔をしている私にイルミがそれで、と話を続ける。
「スズシロさんはしばらくしたら迎えに来るってさ」
………………う、うん?
「え、っと…つまり私はそれまで流星街に帰れない…?」
「スズシロさんが迎えに来るまでセリは家で預かるって」
やばいこれ死亡フラグだわ。