今日からアサシン
なんでもゼノさんが言うには、ナズナさんは結婚を考えていた女性に子供になっちゃったから無理と捨てられショックで故郷の流星街に帰ってきたらしい。

「……………うわぁ」
「ナズナおじさん可哀相だね」
「今でも引きずってるかは知らんが、まぁ、この話を聞いたことは黙っておけ。蒸し返すと面白いが気の毒だろう」

そう言うとゼノさんは私とイルミの肩にポン、と手を置いた。面白いって聞こえたぞ。

「あ、そういえばスズシロさんとはよく会うんですか?」

これ以上ナズナさんの話を続けると本人に会った時気まずい空気になるので話題チェンジ。
直前に名前が上がったスズシロについて聞くことにした。ゼノさんはのんびりと話し始める。

「そうじゃの、頻繁に会うわけでもないがそういう機会は多いぞ。この間もあいつと息子の二人と会ったな」
「へぇー、息子さんと……………………え?」

あ、あれ?今すごい事言われたような気がするけど聞き間違い?

「スズシロさんと……ゼノさんと………シルバさんで会ったんですか?」
「違う違う。ワシとスズシロとスズシロの息子の三人じゃ」

スズシロの息子………………………?

「はぁ!?息子!?スズシロさん息子さんいたんですか!?」
「なんじゃ、知らなかったのか?」
「全然!」
「俺も知らなかった」

聞き間違いじゃなかった。イルミでさえ驚いた顔をしている中、私は驚くなんてレベルではなく衝撃の事実に疲れが吹っ飛び今までの流星街での生活を振り返る。
息子?いたか?流星街にいたか?それっぽいの一度も見たことないぞ!

驚く私にゼノさんは「知らなくとも無理はない」と言った。

「セリお前は今8歳。あいつの息子は今16歳でちょうどお前さんが生まれる前くらいに流星街の外に出ていったからの」
「え?で、でもそれって8歳くらいですよね?そんな小さいのにどこに行くんですか」
「そんなもん決まっとる。天空闘技場じゃ」

どこだよ。
ゼノさんは当たり前のように言うが全く知らん。闘技場と名がつくなら戦い関連の場所なんだろうけど天空って何?
イルミは「ああ、あそこね」と納得したように呟く。お前も知ってんのか。

「え、えーとそれどこですか?」
「セリ知らないの?」

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と小学生の時に担任の先生に言われた言葉を思い出し聞いてみるとイルミにありえないコイツという顔をされた。
すごい傷つくんだけどそんなメジャーな場所なの?知らなきゃダメなの?ショックを受けている私を見てゼノさんが笑いながら言う。

「まぁ、仕方ない。セリはこれまで流星街から出たことがないらしいからな。天空闘技場とは簡単に言えば戦って勝てば金がもらえる場所じゃ」
「はぁ…」

天空の謎解決してない。

「スズシロは息子に金稼ぎと修行をさせに行かせたんじゃよ。うちも一度イルミが修行しに行った」
「金稼ぎと修行…」

そんなこと8歳でさせられたのか。可哀相だなスズシロさんの息子さん。
心の中で顔も知らない息子さんに同情する。いや、実はノリノリで行ったのかもしれないけど。

「とは言っても何度か流星街に戻っていたはずだがな。会ったことがないなら入れ違いか」

と言うとゼノさんはよくわからない体操を始めた。首めっちゃバキバキいってる。
うーん、なんかゾルディック家来てから新情報が多いなぁ。

「さ、続きを始めるか」
「えっ」
「なーにがえっ、じゃ。まさか終わりとでも思ったか?」

思った。
あからさまに嫌そうな顔をする私を見てイルミが溜め息をつくと言った。

「今日やったことは明日に繋がるよ。明日のために頑張れ」
「イルミの言う通り。明日のために特訓だ」
「明日の……ために?」

その言葉で私の頭の中に懐かしい記憶が浮かんでくる。
それは立て!立つんだセリ!!みたいな感じか。少年院に入ってたジョーのために段平のおっちゃんが送った葉書の内容があしたのためにその1ってやつだった。そうか…これはあしたのジョー方式だったのか。

ゼノさんとイルミを視界に入れる。それならゼノさんは段平のおっちゃんか。イルミはライバルってことで力石にしてあげよう。
ミルキは夜中にうどん隠れ食いしに行った西で私が腹パンチして「ぶざまだな…みじめだな(省略)」って言えばいいんだろ。
葉子お嬢さんはキキョウさんでホセ(シルバ)と戦いに行く私を「好きなのよあなたが」と衝撃の告白で止めるわけだ。そんな素振り全くなかったのに。
なんて現実逃避を含めて考える。想像すると配役がひどい。ミスキャストにもほどがある。
しかし余計なことを考えて気分転換になったし、なんかやる気もでてきた。

「私、ジョーのように頑張ります!」
「誰だジョー」
「さぁ?」


***

子供部屋にしては広い空間で真っ先に目につくのはアニメか漫画か知らないが何かのキャラクターのポスターだった。

「美少女だね…」
「かわいーだろ?セリ姉とは全然違う」
「お前調子のんなよ」

ポスターの横で腕を組んでフン、と鼻を鳴らすミルキを睨めば怯むどころか「事実じゃん」と言われた。5歳児に殺意を抱くなんて初めてだ。

あの後ジョーのように頑張る!と宣言したものの気持ちだけで急に動きが変わるわけではないのでやっぱりゼノさんにボコボコにされた。
そして地獄の昼食タイムが終わり「あーあ午後も訓練か」と思っていたら、なんと教育係のイルミに仕事が入り午後の予定が空いたのだ。
一応自主練しろと言われたが、たまには休みも必要だと自分に言い聞かせて屋敷探検を始めたところミルキを発見。ついさっき拷問の訓練が終わって今は暇だと言うので午後は一緒に遊んでもらう……いや遊んであげることにした。そんなわけでミルキの部屋へお邪魔している。

「このポスターどうしたの?この空間の中ですっごい浮いてるよね」

美少女ポスターを眺めながら言う。まるでホテルの一室のような部屋の中であまりに異彩を放っている。

「あれはこのまえ執事に買いに行かせたんだ。俺は訓練もあるし一人じゃ外に行けないし。げんてーひんだから買えなかったらぶっ殺すって言って」

胸を張って誇らしげに言う。
こいつ立派にゾルディックだな。この家の執事さん本当に大変だわ。

「そんなにこのキャラクターが好きなの?」
「キャラクターじゃなくて魔法少女マリアちゃんだ!毎週火曜の夜にアニメやってんだぜ」

ちゃんと録画させて見てる、とミルキは続ける。そうかキャラクターじゃなくて魔法少女マリアちゃんか…。それはキャラクターだろ。
と思ったが彼は好きな女の子の話をするように目を輝かせ、嬉しそうにマリアちゃんの良さについて語っているので黙っておいた。
まぁ、私も漫画の世界に転生したんだし、ミルキも希望を持ち続ければいつかマリアちゃんの世界に行けんじゃね?と後半部分だけを伝えたら一言。

「別にそういうのいいや」
「…………え」
「マリアちゃんは好きだけど別に実物に会いたいわけじゃないし」

もっと喜ぶかと思ったら5歳児にしてはやけに冷静に言われた。
お前アレか。アニメとか好きだけどキャラクターに本気で恋とかは絶対しないタイプか。普通に現実見てるタイプか。

「だいたいアニメの中に行けるわけねーじゃん!」

ミルキは何馬鹿なこと言ってんだといわんばかりに笑う。なにこれつらい。漫画の中に来た人だっているんですよ!

[pumps]