今日からアサシン
この家って居心地悪いけど居心地良い。

突然だがこれが約二週間ゾルディック家で過ごした私の最終的な感想だ。完全に矛盾してる。
この屋敷の造りと一部待遇は素晴らしい。きっと一流ホテルにも引けをとらないだろう。行ったことないからわからないけど。
毎日ふかふかのベッドで寝て広いお風呂に入れて綺麗な服(最終的にカーテンとテーブルクロスとリボンが合体したような服になった)を着て使用人さんにはお姫様のように扱われて。
中々の贅沢振りに再び流星街で生活出来るのか不安になる。だって此処汚くないんだよ?

ちなみに私的には髪型を整えてもらえたのが一番嬉しかった。流星街に美容院は存在しないので、今までは髪が伸びたらナズナさんにその辺で拾って来た鋏で適当に切ってもらっていたのだ。
おかげで酷い有様だったが、この家に来てから整えるどころか全身コーディネートみたいなことをしてもらい、今の私はぱっと見良いところのお嬢さん。
キキョウさんには足を向けて寝れませんね。ほぼ毎日二人ファッションショーがあるのはちょっとアレだけど。

まぁ、ここまでの出来事が私に居心地が良いという感想を抱かせた。では何が居心地が悪いと感じさせたのか?そんなもんわかりきってる。
毎朝散歩という名のミケとの追いかけっこをして三食すべてまさかの毒摂取。イルミのスパルタ念修行時々ゼノさんにボコられる。
ざっくり簡単に言えばこんな感じのことがあったからだ。拷問の訓練がなかっただけよかったと思うべきか?それを除いても毒摂取で受けたダメージはすごい。
しかしゾルディック家の暗殺者養成コースを受けた今の私は以前より格段に強くなっただろう。

で、なんで急にこんな話をしているかっていうと。

「このクッキー毒入ってるでしょ?」
「あら、お姉様は毒が苦手でした?」
「苦手って言い方はおかしくない?嫌いな食べ物の話じゃないんだから。ダメじゃないけど平気と言った覚えもないわ」
「大丈夫だよスズシロさん。このクッキー、セリでも食べられるんだから」
「あら、いつの間にセリは毒が平気になったの?」

ようやくスズシロさんが迎えに来てくれたからです。
何事もなかったかのようにしれっと現れた彼女は、私とキキョウさんとイルミによる3時の毒入りおやつ会にこれまたしれっと参加した。
私でも大丈夫な毒、と聞いて驚いたように言うスズシロさんに少しムッとする。誰のせいでこんなことになったと思ってんだ。

「スズシロさんがいなくなってから大変だったんだよ…」

目を伏せてちょっぴり寂しげに言ったらまるで「ママが家を出ていってから大変だったんだよ!」というドラマ的な言い方になってしまった。なんか恥ずかしい。
しかし私以外は特に気にしてないようで「紅茶のお代わりいかが?」やら「強くなれたみたいでよかったじゃない」やら「セリもっとクッキー食べる?」やらみんな言いたい放題だった。これはこれで恥ずかしい。

「どうでした?ハギは元気にしていました?」

スズシロさんのカップに紅茶を注ぎながらキキョウさんが言う。
そういえばスズシロさんはハギって人に会いに行ってたんだっけ?とイルミに無理矢理勧められた毒入りクッキーをかじりながら耳を傾ける。
スズシロさんはカップを持ちながら思い出したようにああ、と口を開くと呆れたような声色で言った。

「そんなに元気じゃなかったわ。この間女の子にフラれたみたいでものすごいショック受けてたわよ」

はぁー、と溜め息をついた後「馬鹿よね自分に釣り合わないとか自信満々に言っておいて」と続ける。それはまたすごい人だな。

「まぁ!ハギは昔から落ち込みやすいから心配だわ。大分前に年上の女性にフラれた時も毎日お姉様に電話を掛けてきては泣いていたでしょう?」
「あれはホントにうざかったわ」

苛々したようにスズシロさんは言った。持っていたカップを乱暴に置くとガシャン!という音が立つ。
確かにそれはうざい、と心の中でこっそり同意していると隣に座っているイルミが声を掛けてきた。

「スズシロさんも来たしセリはもう帰るんだよね?」
「ん?多分ね」

このまま二人が盛り上がって「お姉様一泊していったら」「いいわね」というノリにならなければね。
という意味を込めての私の言葉にイルミはじゃあ、と言う。

「次はいつ来るの?」
「えっ………」

できれば二度と来たくないんだけど。
考えてもみなかった質問に動揺する。え、なんて言うべき?たとえ嘘でも社交辞令で「またすぐにでも来たいな!」とか言ったほうがいいの?バレた時どうなるかわからないけど。
と一人悶々と考えていたらお母さん組が会話に入ってきた。

「あらあらイルミったらセリちゃんと別れるのが寂しいのね!気持ちはわかるわ私もよ。どうです?お姉様、もう少し我が家に………」
「いや、そろそろ帰るわ。あまり長いこと流星街から離れるわけにも行かないし」

その言葉にキキョウさんは残念そうにする。
あっぶね〜スズシロさんナイス!とテーブルの下で親指を立てたのもつかの間、突然キキョウさんは素晴らしい笑顔をつくるととんでもないことを言った。

「なら次は私達から行けばいいわ!ねえイルミ!」
「ん?まぁ、それもいいかもね」

急に名前を呼ばれたイルミは特に動じず紅茶を飲みながら言う。よくねーよ。

こうして私の初めての外出は幕を閉じた。
ちなみに帰りにシャルのお土産として買っていったゾルディック饅頭が旅団内で大ブームを巻き起こしたのはまた別の話。

[pumps]