私がメガネにキレた理由
ゾルディック家での訓練を終え以前より目に見えて四大行を上達させた私を見て「なんかあいつ強くなってね?」と言っていた旅団(仮)はゾルディック饅頭の魅力に取り付かれたりしていたが、基本的にはみんないつも通りだった。
そう、いつも通りだったはずなんだ。

「え、え?何つまりどういうこと?」
「つまり、なんだろうマチ?盗賊ってやつ?」
「そうじゃない?クロロは主に盗みと殺し…たまに慈善活動って言ってたし」

シャルの問い掛けにマチは淡々と物騒な答えを返した。最近お裁縫にハマってるらしく第三地区の集会所で受け取った衣服を切り、その辺で拾ったという糸と針を使って巾着袋を作っている。
器用なもんだなー、私なんてまず玉結びが出来ないのにと思いながら布を縫い合わせていく工程を眺める………ってそうじゃない!

「盗賊…………、クロロが言い出したの?」
「うん、クモみたいな感じでクロロが頭で俺達は手足。簡単に言えばクロロの命令を聞けってこと」

そりゃすごい状況だな。シャルの言葉に思わず顔が引きつる。
相変わらず適当なおじいさんの修行を終えて一息ついてた私とマチとシャルの間で「最近の出来事」について語り合っていたら、なぜかこんな物騒な話が始まった。
なに、つまり旅団(仮)から本物の旅団になるつもりなの?まだ子供なのに、もう社会進出して賞金首デビューか?ちょっと早過ぎない?

「あの時のクロロ……いつものクロロじゃないみたいだった」

裁縫の手を止めマチが言う。その言葉にシャルも頷いた。
私よりクロロをよく知っているマチやシャルがそう思うってことは、相当いつもの雰囲気と違ったんだろう。私がゾルディック行ってる間にどんな心境の変化があったんだよ。

「そもそも、いつそんな話したの?」
「えーっと一昨日かな」
「えっ」

てっきり私がゾルディック家に行ってる間かと思ったら、いつも通りみんなで修行した一昨日の話だったらしい。
あれ?なんか私普通にハブかれてるけど。

「ちょっと………急用が出来たんで帰るね」
「え、もう?もっと話してこーよ。俺ゾルディック饅頭の話聞きたいんだけど」

饅頭限定かよ。何話せってんだ。
すっ、と立ち上がり「それは明日話すよ」と言うとシャルは納得してなさそうな顔で渋々了承した。どんだけ饅頭気に入ったんだよ。
立ち上がった私をちらっと見たマチは、すぐに目線を自分の手元の縫いものに戻し、また明日ねとだけ言った。二人に手を振って別れる。

家に向かって歩きながら小さく溜め息をつく。色々ツッコみたいところはあるが、一応交流あるのにナチュラルにハブかれたいう事実が地味にショックだ。
この気持ちはあれだ。同じ仲良しグループの子達が知らない間に遊びに行ってたことを知った時の気持ちだ。いや、実はそれ嫌われてるのかもしれないけど。
旅団メンバーの顔を思い浮かべる。別に彼らを仲間だと思ったり、友情的なものを抱いたりしたことはない。初めて仲良くなったシャルは別だけど。
私は突然出てきた余所の地区の新入りだし、当然のようにみんなの輪の中に入り込めると思ったこともない。つーか怖くて入れない。

なら、このちょっぴり寂しい気持ちはなんなんだ?教えて頭の良い人。
とぼとぼ歩きながら旅団メンバーと私の関係について振り返る。よく考えてみれば、私は別に全員と仲良くしてるわけじゃないんだよね。
私が一番よく話すのはシャル。次がウボォーさんとノブナガの強化系コンビ。その次はマチで修行メンバーの中では年も近いので、さっきみたいにシャルも含めた三人でいることが多い。それから比較的落ち着いていて優しいパクノダとフランクリンも同じくらいかな。

逆に仲良くない、話さないのがクロロ・フィンクス・フェイタン。
クロロはまあ、仲が悪いわけではないがクラスによくいる話すけど同じグループじゃない、別に友達じゃないタイプだ。好き嫌い普通で表すなら普通。向こうはどう思ってるか知らないけど。
フィンクスとフェイタンはもう仲良くなるの無理だと思う。あの二人、特にフェイタンは私のこと嫌いみたいだし。
前にシャルに「なんで嫌われてるんだと思う?」と聞いたら「セリが弱いからじゃない?」と言われた。そんな理由で嫌われても困る。
これが漫画の主人公とかだったら絶対に認めさせてやる!とか言って頑張るんだろうけど、私は別にいいや。めんどくさいしフェイタン達と仲良くなってもそこまで利点ないし、まずあの人達面白くなさそう。

そんな感じで私が旅団結成っぽい話に混ぜてもらえなかったのは、その辺りの事情も関係しているのだろう。
考えられる理由としては@元々の仲間じゃないし嫌いだからA弱いから足手まといになりそうB存在を忘れてた、とこんなところか。どれでも全部ショックだわ。
いや、だからといって仲間に誘われても困るんだけどね。物を盗むのも人を殺すの嫌だし、そもそもそんな度胸ないし。普通に働いてお金を稼ぎたい。
でも流星街出身だから、まともな職には就けないだろうな。学校にも通ってないから学歴がどうとか言えないし、まず存在しない人間だから身分証明が出来ない。
あれ、じゃあ私将来どうすればいいんだ?

突然浮かび上がった問題に思わず家に帰ろうと進めていた足を止める。
今のまま何もせずナズナさんに頼り切りというのはただのニートだし。しかし外に働きには行けない………………『外』には?

「あっ外からの依頼!」

わざとらしく手をポンっと叩く。そうだ、外に仕事を探しに行けないなら流星街の中で仕事をもらえばいいんじゃん。
随分前にメガネやスズシロさんから聞いた話を思い出す。そういえばあの時、メガネはナズナさんが私を鍛えるのは『外からの依頼』を受けられるようにするためでは?と言っていた。将来私が職探しに困るとわかっていたから、あの発言をしたのかも。

そもそも流星街には問題なく働ける人がたくさんいる。その人達が誰一人として働かず無収入で過ごしているわけがない。
此処は無駄にちゃんとした制度がある流星街。住民の就職活動の手伝いくらいしてくれるだろう。
以前私では危険と言われたので戦闘メインの仕事である可能性が高いが、住民全員が戦えるわけじゃないんだしメガネが教えてくれなかっただけで非戦闘員向けの仕事もあると思う。
私はその仕事を地道にやっていけばいいんじゃないかな?なんか上手くやっていけそうな気がしてきた。

よし、早速メガネに詳しい話を聞きに行こう!と止めていた足を集会所に向けて動かす。
ちなみにスズシロさんではなくメガネに聞きに行くのは、何となくスズシロさんに自分の将来について言うのが気恥ずかしいのとどうせメガネは暇だろ?という考えからです。

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