私がメガネにキレた理由
「そもそもどうして急に外からの依頼について聞きに来たの?」

メガネは不思議そうに聞いてきた。……えーっと、そういえばなんでだっけ?
確か旅団がいつの間にか社会人デビューしようとしてて、ハブかれたのがショックで私は盗みなんかじゃなく真面目に働いて金稼ぐけどねと心の中で決めたのはいいけど自分が戸籍無しでまともな職には就けないことが判明。じゃあ流星街の中でなんか仕事探せばいっか、ってノリになったんだ。

「友達が就職先を見つけたから私も自分の将来について考えようと思った……んだと思う」

嘘は言ってないけどちょっと変な風になった。でも盗賊団結成して仲間に入れてもらえなかったとか言えないし。
メガネはより不思議そうな顔をしていて、イマイチよくわかってないようだったが口を開いた。

「うん…?そうなんだ?えーっと、お友達すごいねー、セリちゃんと同い年くらいでしょ?」
「え?あ、うん。でもまだやる事が決まっただけで実際に活動はしてないみたい」
「そっか。でも偉いなぁ、今からちゃんと仕事を決めるなんて」
「だ、だよね………」

あれ?なんか表面上は会話が成り立ってるぞ。想像しているものはお互い違うけど。
メガネは感心したような言い方をすると「それで仕事について聞きに来たんだ」と私に向かって納得したように言った。

「なんならセリちゃんも今すぐ依頼受けてみる?暗さ」
「嫌です」
「早いね。なら護衛は?」
「えー、ていうか私8歳だよ?こんな子供がマフィアの依頼受けていいの?」

元日本の『一般人』として当然の疑問を口にしてみる。普通ならランドセルを背負った年頃である。
正直私がマフィア側なら仕事の依頼をして子供が来たらバカにしてるのかと思う。しかしメガネは事もなげに大丈夫、と言った。

「子供といっても普通より身体能力は高いし、何と言っても念能力者。セリちゃんなら三流マフィアの構成員よりは明らかに強いから特に問題はないよ」
「……?強ければいいわけ?」
「うん。まぁ、見た目的にナメられることは多いけどね」

やっぱりそうなんかい。
メガネはでも、と話を続ける。

「子供という立場を利用して出来ることもたくさんあるよ。基本的にターゲットは念に関しての知識がないから子供はただの子供としか思わない」
「大人相手ほど警戒しないってこと?」
「そう、子供は間違いなく大人より下って思ってるからね。そこを利用するんだ。例えば諜報なんかはターゲットの子供に近付いて仲良くなるとか。念も何も知らない普通の子供って捻てなくて単純だから仲良くなったら何でもベラベラ喋るし」
「あー、なるほど」

メガネの言葉に不本意ながらも感心する。確かに小さな子供を最初から警戒する大人は中々いない。少なくとも転生前の私はそうだった。
まぁ、今は身近にナズナさんっていう外見でサバ読みまくりの人がいるし、旅団っていう危険過ぎて意味不明な連中がいるからそんなこともないけど。
とにかく普通の大人は子供を脅威に感じることはない、と。だから護衛なんかは最初ナメられるんだろうけどそれは実力で黙らせればいい。

「どう?セリちゃん、何か仕事やってみるかい?」
「やめときます」
「え?今仕事受けそうな流れじゃなかった!?」
「いや〜、だって〜」

それはあくまで実力があればの話でしょ?
確かに私は念を使えるけど護衛とかできるほどの実力はない。諜報は怖いし暗殺は論外。

「ということで依頼受けるのは、もう少し修行して強くなったらにするね」
「何がということなのかわからないんだけど」

別に大丈夫じゃない?とメガネは続ける。この人は私を過大評価し過ぎだと思う。
念なんて基礎が出来れば十分というが、その基礎が最近ようやく出来るようになった私に非念能力者相手とはいえ戦闘はキツイ。

「とりあえず今日はもう帰るね。話してくれてありがとうございました」
「うん。あ、待ってセリちゃん」
「はい?」

お礼を言って帰ろうとしたら呼び止められた。
何だよ〜、と心の中で思っているとメガネは私に「いつ気付くか待ってたんだけどさ」と言った。

「気付くって何に?」
「えっ、ホントにわからない?今日会った人結構みんな気付いてるよ」
「わかんない」
「……うーん、ヒント!僕のあだ名」
「メガネ!あっ、眼鏡変えた?」
「そうそう!やっと気付いて…」
「とうとう老眼鏡にしたんだ」
「……………キミ、そういうところナズナくんに似てるよね」

そんなこと言われてもメガネとナズナさんが普段どんな会話してるか知らないからわからないわ。

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