クモ
クロロが外へ出て行ってから早三ヶ月。
彼との最後の会話や旅団結成への動機に多少引っ掛かりはあるものの、そこまでクロロに思い入れがあったわけでもない私は残った旅団メンバーと今まで通り修行に励んでいた。
今のところ残り五人は誰も出ていく気配はない。フィンクスとフェイタンは早く出て行けばいいのにね。

「マチとパクはそう思わない?」
「さぁ?別にどうでもいいよ」
「そうね、多分しばらくしたら出ていくわよ」
「えー、しばらくってどれくらい?」

不満げにそう聞くとパクノダは肩を竦めて「それはわからないわ」と言った。

「一ヶ月後かもしれないし、半年後かもしれない。本人達に聞いてみたら?」
「いつ流星街から出ていくの、って?そんなこと聞いたらセリぶっ飛ばされんじゃない?」

パクノダの言葉に私の代わりにマチが笑いながら答えた。
ぶっ飛ばすじゃなくて、ぶっ殺すの方だと思う。本当にありそうで笑えない。
顔を引き攣らせつつ、手の周りを硬で少しだけ強化する。そして少し大きめの石を拾い上げ、握り潰す。手を開くと粉々になった石。
どうやら私は強化系らしく立派にゴリラへの道を歩んでいるようだ。

ちら、と右に視線を向けるとマチがオーラで作りだした糸を木の板に巻きつけ罠らしきものを作っていた。
次に左を見るとパクノダが牧師コスプレのおじいさんから貰った銃で的代わりの空き缶を撃ち抜いてる。
女子が三人集まってやることがこれか。なかなかシュールだ。そんなことを思っているとマチが「そういえばさ」とこちらを向いた。

「セリ、シャルにはもう会った?」
「シャル?今日はまだ会ってないけど」

何で急に?と不思議がりながらマチを見るとマチは「じゃあ、言わない方がいいか…」とボソッと呟いた。

「え?何どういうこと?」
「いや、何でもない」
「ええ?ちょ、すごい気になるんだけど」
「何でもないって。ね?パク」
「そうね、あれは私達が言うべきじゃないわ。シャル本人から聞くべきよ」

マチから急に話を振られたパクは、視線を的代わりの空き缶に向けたまま言った。マジで何なの?
しかしマチとパクはこれ以上話す気はないらしく、「今日のお昼何食べる?」「もうコッペパン飽きたよねー」と無理やり話題を変えた。
よくわからないがシャルは私に何か話があるらしい。

しかしお昼過ぎになってみんなで修行の時間になってもシャルは何も言ってこなかった。
いや、それどころか微妙によそよそしい。話しかけても曖昧な返事、側に行けば逃げられる。お前話あんじゃねぇのかよ。

「って、うわぁああ!?危なっ!!」
「フン、何ボサとしてるか」

ものすごい勢いでサッカーボールが飛んできた。慌てて避けるとバウンドして地面を抉る。犯人であるフェイタンは一瞬で移動するとコートの外に転がり出るところだったボールを足で止めた。
確かに『ドキッ!念能力者だらけのドッジボール大会(サッカーボールで)』の最中だというのにぼーっと考え事してたのは私だ。でも私の記憶が正しければ私達同じチームなんですけど。

「あのさ、なんでさっきから味方にボール当てようとしてるの?」
「は?何の話ね。言いがかりも甚だしい」
「ええええ」

これ言いがかりなの?
だって、あいつボール持ったら毎回わざわざ私の方に向けて投げてくるよ?同じコート内にいるのに敵認定されてるんだけど。
そんな会話を一応試合中だというのにしていると案の定敵チームからお叱りの言葉をもらった。

「オイ、そこの二人だけでボール回してんじゃねぇよ。試合になんねぇだろ」
「フェイタン、あんたの敵はセリじゃなくてあたしらだろ」

敵チーム内野のフィンクスとマチが言う。
外野にいるパクノダもフェイタンに呆れたような目を向けた。ボールが来ないためか暇そうにしている。
敵チームはこの三人。つまり私のチームはフェイタンと……ちらり、と自チームの外野を見るとシャルと目があった。
ふいっ、とすぐに逸らされた。だからお前私に話があるんじゃないのか。
一体シャルはどうしたのだろうか?首を傾げているとフェイタンが舌打ちをしてサッカーボールをフィンクス達に向かって投げた。何あの豪速球。サッカーボールってあんなに速く投げられるんだ。

投げられたサッカーボールをマチがオーラで作り出した糸(念糸というらしい)で止める。
止められたボールはフィンクスによって強化され、私に向かって投げられた。それを紙一重で避けると外野にいたパクノダが受け止める。
そして再びこちらに向かって投げられたボールを止めずに避けるとフェイタンから殺気を飛ばされた。

「何故避けるね?セリ、お前それでも強化系か」
「いや、そんなこと言われても困ります」

強化系はボール避けちゃいけないのか。
フェイタンは「臆病者め…」とでも言いたげな目で私を見てきた。すごく傷つく。
基本的に私以外は誰もボールを避けないので外野のシャルは暇そうにしている。いいな、私も外野がよかったな。
おじいさんがドッジボールで強化系は主戦力なんて言うから内野にされたじゃないか。少し離れた位置で煙草を吸いながら、試合を見ているおじいさんを恨みがましい目で見つめると普通に無視された。
次にシャルに視線を向けるとまた逸らされた。フェイタンを見たら睨まれた。

なんだよ、どいつもこいつも。

[pumps]