クモ
ドッジボール大会が終わってもシャルは何も言ってこない。ていうかどっか行っちゃった。
こうなるともうなんか、実はあいつ私に話とかないんじゃないの?って気がしてくる。
でも確かに様子がおかしいんだよね。私何かやったっけ?覚えないなぁ。
なんて、先程まで使用していたサッカーボールを軽く蹴りながら考える。私が何かしたわけじゃなければ何だろう?

「フェイタンとフィンクスに私の悪口吹き込まれたとか…」
「テメェの悪口なんざ言うわけねーだろ。時間の無駄だ」
「!?うわっ、フィンクス!!」

いつの間にか後ろにフィンクスが居て驚く。
思わず声を上げた私にフィンクスは「もっと女らしい悲鳴上げろよ…」と呆れたように言う。大きなお世話だ。

「ていうか私の悪口は時間の無駄って…」
「詳しくはお前の話をするのが、だな。いや、もう名前出すのも駄目だわ」
「そこまで!?」

酷くない?最早これが悪口だろ。フィンクスは私を睨み付けている……ように見えるが、これが奴の標準装備なので気にしないでおこう。
チンピラにしか見えないお兄さんは口を開くと「で?」と言った。

「俺とフェイタンが誰にお前の悪口を吹き込んだと思ったんだよ?」
「え?……」

その話続けんの?

「んだよ、答えらんねぇのか?」
「別にそういうわけじゃ…………その、シャルの様子が変でさ、フィンクスなんか知らない?」

マチとパクは教えてくれないけどなんか知ってるみたいだったので、フィンクスもわかるんじゃないだろうか。
そう思って聞いてみるとフィンクスは「あ?お前ひょっとして話聞いてねぇのか?」と驚いたように言ってきた。

「マチとパクも言ってたけど話って何?」
「本当に聞いてねぇんだな。シャルが明日流星街から出ていくって話」


フィンクスが立ち去った後、私はシャルが出ていくという事実に驚きを隠せないでいた。
だってシャルは私とそんなに歳の変わらない子供だ。なのになんでチンピラのお兄さんより先に出てくんだよ。
しかし様子がおかしかった理由はなんとなくわかった。多分シャルは私に出て行くことを伝えたいんだ。でも何故か伝えられない。
…………なんで?あの子って結構あっさりしてるし「明日出て行くんだよね〜」とか普通に言いそうなんだけど。
う〜ん、それとも何か他に言いたい、でも言えない…って事でもあるとか?

「ねぇ、セリちょっといい?」
「いや、今考え事してるから駄目……………じゃないです」

声をかけられ後ろを向いたら今話題のシャルさんがいた。

***

「……………」
「……………」

何故黙る。
ちょっといい?と声をかけてきたシャルは私達が初めて会った第三地区のゴミ山まで移動した。そしてそのまま何も言わず黙り続けている。
上手く表現出来ないが、なんか全体的にもじもじしてる。時々地面に視線を落とすなど普段から言うべきことははっきり言う彼らしくない。
これは何て言うか……好きな人に告白しようとしている感じだ。ほら、本人目の前にして緊張して上手く言えない的な……え、これ別に告白タイムじゃないよね?

「あのさ、」

馬鹿な事を考えていたら、決心したようにシャルが口を開いた。
いつも以上に真剣な眼差し。空気がピンッと張りつめる。とりあえず私も背筋を伸ばしてみた。

「俺、明日流星街を出て外に行くんだ」
「…そっか」

事前にフィンクスに聞いた通りの言葉だ。
シャルは特に驚きもせず静かに聞いている私をじっ、と見て話を続けた。

「しばらくはウボォーのところでお世話になるつもり」
「うん」
「多分、流星街には……ずっと戻ってこないと思う」
「…うん」
「だからセリとはこれでお別れになる、よね」
「まぁ、そうなっちゃうね」
「……それはさ、寂しいでしょ?セリが」
「え?まぁ、…」

確かに寂しいけど私限定?
シャルは「お、俺は寂しくなんかないけどセリが寂しいなら寂しいかもねっ」とちょっと何言ってるのかわからない微妙なツンデレを披露してくれた。最後かもしれないからか、サービス精神旺盛だ。

「それでさ」
「うん」
「寂しいよね?」
「はい」

そんなに…、とか言うのは失礼なので黙っておく。するとシャルは私の目を真っ直ぐ見て、言った。

「だから俺と一緒に来ない?」
「止めとく」
「え、えええええ!?」

シャルからの誘いを0.1秒くらいの差で断った。まさかこんなに早く断られるとは思っていなかったらしいシャルは驚きを隠せないようで、普段の私みたいなリアクションをしてきた。
さすがに酷いなって自分でも思う。思うけど、ほら、私まだ子供だしさぁ。勝手に出ていったらナズナさんも心配するだろうし、と心の中で言い訳する。

「悪いけど私はしばらく流星街を離れるつもりないんで。せっかく誘ってくれたのにごめんね」

ビシッ、と指を立てて宣言するとシャルは暫く固まったあと「は、はは………もういいよ。どうでも…」と青筋を立てながら笑顔で言った。あ、ヤバい静かに怒ってる。

「あ、えーと、まぁ、元気でね!」
「…は?ちょっとセリ?どこ行くの!?」

軽く殺気を感じたのでとりあえず全力で逃げた。友達に殺されるのは嫌だ。

[pumps]