マイ・インターン
そんなこんなで次の日、おじいさんと一緒にシャルを見送った。
私達が微妙な空気を漂わせていることに気付いたおじいさんは、喧嘩したと思ったらしく「ほら、仲直りの握手しろ」と私達の手を引っ張った。
シャルの奴、ごめんねとか言いながらめっちゃ力込めてきて怖かったです。骨が軋む音聞こえたからね。
ひょっとしたらもう会わないかもしれないのに、随分軽い別れだったな、と思った。私が悪いんだけど。

シャルが出ていってすぐ、残りの旅団メンバーも後を追うように流星街から居なくなってしまった。俺も俺も〜的なノリで出て行くなんてひどい。

一人取り残されてしまった私は現在、黙々と石を粉に変える作業を繰り返している。旅団って居たら居たで怖いけど、居なくなったら居なくなったで寂しい………かも。石を潰しながら思った。

旅団との付き合いはシャルが五年くらいで他がだいたい三年。思い出の濃さに比べたら意外と短い。例えるなら中学三年間同じクラスだったって感じか。
同窓会とかありますかね?十年後とか会うの怖いわ。
まぁ、フェイタンとフィンクスは奴ららしく何も言わずに出ていったので、ひょっとしたらこのまま縁が切れるかもしれない。嬉しい。
対するマチとパクノダはちゃんとお別れをしてくれた。ただ最後の言葉が「ゾルディック饅頭ってどこで買えるの?」だったのは納得いかん。
でも二人は貴重な女子組なのでこれからも出来れば仲良くしたいと思う。犯罪者予備軍なのが問題だけど。

新しい石を拾おうとして止めた。私以外はみんな夢に向かって……っていう言い方はおかしいけど、やりたいことを見つけて外へ出ていった。
それなのに私は何をしてるんだろう。むなしいなぁ。



「セリ、お前もう硬は出来るんだよね?」
「まぁ、一応」

石潰しに飽きたので家に帰ってぼーっとしてたら、突然ナズナさんがそんなことを聞いてきた。
私の返答にナズナさんは「なら、基礎はもう完璧か…」と言うと何かを考え込む様子を見せる。嫌な予感がする。

「お前、今暇?」
「驚くほど忙しい」
「だよな、暇でしょうがないよな。ちょうどアイツが帰ってきてるらしいし、仕事に同行させてもらえ」
「え?何、どういうこと?」
「お前ももう10歳だし、社会見学的な、ね」
「いや、ねとか言われても困るんだけど」
「セリ、今からランニングだ。集会所まで」

そう言うとナズナさんは私の手を引っ張り、家を出た。なんだこのスピード感。
転生前のお父さんお母さん、転生後の私の周りには何故か人の話を聞かずに自分の言いたい事だけ言う人ばかりです。

***

「あれ?二人一緒に来るなんて久しぶりだね」

集会所に到着しメガネの姿が視界に映ったと同時に向こうも私達に気付いて声をかけてきた。

「今日、もうすぐ護衛の仕事始まるよな?こいつもメンバーに入れてやってくんない?」

不思議そうな顔をするメガネに向かってナズナさん掴んでいた私の腕を引っ張って前に出しながら言った。護衛って何の事だ。
メガネは驚いたように私を見る。

「セリちゃんを?もう定員埋まってるんだけど…」
「報酬はいらない。自分の身は自分で守らせるし、何があってもそっちは気にしなくていい。本人も覚悟の上だ」
「!…そうなのかい?セリちゃん」
「いや、全然」
「えっ」

んな覚悟あるわけねーだろ。

「私、詳しいこと何も教えてもらえずに連れて来られたんだけど」

じとっ、とナズナさんを見ると「じゃあ今言ったからいいだろ」と言われた。何これデジャヴ?前もこんなことあった気がする。
ナズナさんはそのまま話を勝手に続けていく。

「この後すぐに護衛の仕事に向かう奴らがいるんだ。それに着いてけ」

なんて簡潔な説明なんだ。嫌な予感は見事に当たり思わず顔がひきつる。
わざわざ集会所まで来て、仕事内容は護衛ってどう考えても外からの依頼だ。しかも流れ的にこのままだと私は護衛の仕事をしに行く事になる。それはまずい!

「あ、あのさ、今メガネさんが定員いっぱいって」
「うん、でも報酬無しでいいなら大丈夫だけど」
「そういうこと言わなくていいから」

余計なことを〜!と睨みつければメガネは苦笑しながら「そうかセリちゃんもお仕事デビューか……あの赤ちゃんだった子が…」と感慨深そうに呟いた。こいつも人の話聞かないタイプか。

「ちょっと待って、やだよ私護衛なんて」
「あ、お前諜報が良かったとか?」
「そうじゃなくて」
「暗殺をやり」
「違う」

めんどくさいなコイツら!

「私、護衛っていうか、まだ仕事とか出来る自信ないし。何だかんだ言って結局外からの依頼って危ないんでしょ?10歳で死ぬとか冗談じゃないわ」
「最後の本音すごいね」

メガネがおかしそうに笑いながら言う。当たり前だ、人間は自分が一番かわいい生き物なんだから。
嫌がる私の肩にナズナさんが手を乗せた。

「そんな心配性なセリに素敵なボディーガードを紹介してやろう。だから安心して護衛してこい」
「ナズナくん、護衛にボディーガードっておかしくない?」
「アイツにお前の事守ってやるよう言っとくから。断られたらごめん。諦めて」

メガネの言葉を無視してナズナさんは続ける。
オイ、諦めてって何だ。それは酷いだろ。

「やっぱり嫌だよ私」
「大丈夫だって、護衛って言ってもここに来る依頼では雑魚しか相手にしないし」

渋る私にメガネはそう言うと護衛の良い所を語りだした。どうでもいい。
嫌そうな顔をしていると今度はナズナさんが口を開く。

「とりあえず一度やってみな?ああ、こんなに簡単なんだって思うから。で、アイツ今どこにいんの?この仕事に参加すんだろ?」

後半はメガネに向かって問われた。いまだに一人で護衛の良さについて語っていたメガネは、途中で話を止めナズナさんの質問に答える。

「アイツって姉さんの息子さん?あの子なら教会に寄ってから集合場所に来るって言ってたよ」
「オヤジの所か。なら、ちょっと話つけてくる。お前はセリを集合場所に連れていってやって」
「了解」
「え?ちょ、ナズナさん!?」

引き止めようと手を伸ばすも何も掴めなかった。足速っ!!

「じゃ、セリちゃんは先に集合場所へ行こうか」
「ほ、本当に?マジで私仕事しに行くの?ていうかメガネさんは引き換えコーナーの人でしょ!」

行きたくない行きたくない!と心の中で繰り返していたら、突然引き換えコーナーで暇そうにしているメガネの姿が浮かんだ。
そうだよ、なんでこいつが外からの依頼の定員とか集合場所知ってんだ。と半ギレ状態で聞いて見るとメガネはキョトンとした後、笑いながら言った。

「そりゃ、一応僕が斡旋してるんだし。知らなきゃまずいでしょ〜」

ダメだ、逃げられない。
どうして私の周りはこんなに敵ばかりなんだ。

[pumps]