マイ・インターン
目の前のこの人をどう説明すればいいのか。私のボキャブラリーが少なすぎて上手く言えないので困る。
とりあえず断言できるのは転生前でも転生後でもこんなに綺麗な顔の人を見たのは初めてだということだ。
赤茶色の髪の超絶美形さんを失礼だがまじまじと見る。肌は白いわ睫毛は長いわ。カッコいいというより美人って感じだ。いや、やっぱりカッコいい。もうなんか意味わかんないんだけど、美形すぎて怖い。
例えるなら王子様だろうか。私のイメージでは王子様は金髪だったが赤茶も全然アリだな、と一人考えていたら超絶美形さんとバッチリ目があった。

「キミがセリちゃん?ナズナさんから話は聞いたよ」

というと超絶美形さんは素晴らしい笑顔を披露してくれた。アイツってこの人かよ!なんとなく予想はしてたけど!

「僕はハギっていうんだ。本当は小さい子嫌いなんだけど、セリちゃんは書類上では僕の妹だし今回は特別に守ってあげるね」

超絶美形さんことハギさんは素晴らしい笑顔のままそう言った。ハギってどっかで聞いた名前なんだけど、それより話の内容の方が凄まじい。色々すごい事言ってたぞ。
詳しく話を聞こうと口を開いた私より先にハギさんは「とりあえず出発しましょう」と私の後ろの三人に向かって言った。そういえば仕事しに行くんだった。
登録所の中に入って行った三人の後に続くように、私はハギさんに肩を押されて足を進めた。この人力強い。

建物の中に入ると駅の改札のようなものがたくさん並んでいた。外へつながるゲートみたいなものなんだろう。
各ゲートの横に人が立っていて、何か紙を配っていた。よくわからないので前の三人に着いていくと先頭にいた隻腕さんが「オリヴィア氏の護衛、人数は五人」とゲート横の人に告げる。
横に立っている人は小さなノートにボールペンで何かを書くと私達一人一人にプリントみたいな紙を手渡した。

「護衛報告書?」
「仕事が終わった後、その紙に自分の名前と依頼人もしくはその代理人のサインを書いてまた提出するんだよ。それがないと報酬がもらえないから、無くさないようにね」

私の呟きにハギさんが丁寧に答えてくれた。なるほど、めんどくさい。
色々細かいんですね、と言おうと後ろを向くとハギさんは一人一枚のはずの紙を何故か三枚持っていた。

「なんで三枚…?」
「ああ、これはちょっと、ね」

ハギさんは意味深に笑う。……なんか一瞬暗殺って文字見えたけど気のせいだよね。

***

今回の仕事は流星街から少し離れた場所で移動は汽車。
ガラガラの汽車に乗り込むと熊さん達三人は全員バラバラのコンパートメントに入って行った。どうやら移動時間は一人で静かに過ごしたいらしい。
私も適当なコンパートメントに入って座るとその隣にハギさんが座った。

「!?」
「隣いいよね」

キラッキラの笑顔で言われた言葉に思わず頷いてしまった。座った後に言った上に疑問系ですらなかったんですけど。
隣に過去最高の超絶美形が居るのでリラックス出来ない。二人きりとかなにそれ物凄く緊張する。
しかし、今は聞きたい事を聞くチャンスじゃないか?目的地に着くまでおよそ一時間。それまで無言というのもキツいものがある。覚悟を決めろ!頑張るんだセリ!
と自分を応援しながらハギさんに向かって「あの、聞きたい事があるんですけど…」と控えめに声をかける。

「何?」
「さっき私は書類上の妹って言ってましたけど、あれってどういうことですか?」

よし、よく言った自分。
ハギさんは目をパチパチさせた後「あぁ、それか」と思い出したように呟いた。

「流星街の登録所にある書類上、ってことさ。セリちゃんは母さんの養子として登録されてるだろ?だから僕とは一応兄妹なわけ」
「母さん……って」

あ、あれ?私って確かスズシロさんの養子ですよね。ハギさんは今私を母さんの養子って言った。

「ハギさんってひょっとしてスズシロさんの噂の息子さんですか?」
「どういう噂かわからないけど、そうだよ」

ハギさんはあっさりと肯定した。ええ?嘘だろ、どうやったらスズシロさんからこの超絶美形が生まれてくるんだよ。
いや、スズシロさんは普通に綺麗な人だけど綺麗な人から超絶美形は生まれてこないんじゃないか、って話だ。これは相当お父さんが美形だったとしか思えない。
一人忙しく考えているとハギさんが「それでさ」と話し始めた。

「僕、ブスって嫌いなんだ」
「!?」

急に凄い事言い出した!!

「だから僕の家族になるならそれなりに顔が整ってくれてなきゃ嫌なんだ。で、セリちゃんはまぁまぁなんだけど特別に将来性から合格にしといたから、感謝しなね」
「は、…………ありがとうございます…?」

こいつ何言ってんの?
なんか流れでお礼言っちゃったけど、私がこの人に感謝する要素ないよね?なんでこんなに上から目線なんだろう。守ってくれるから?
ハギさんの横顔を盗み見る。この人は念能力者だ。
でも守ってもらう、っていっても実際ハギさんがどのくらい強いのかわからない。私よりは明らかに強いと思うけどハンター世界においてはどのレベルなのか詳しく知りたい。

「ぶっちゃけハギさんってどのくらい強いんですか?」

視線は前の座席に向けて聞く。ハギさんの顔は綺麗すぎて眩しいので長く見ていると目が疲れるからだ。
横で「キミ、結構…」とハギさんが苦笑しているのがわかった。

「どのくらい、って言われると難しいな。一応ライセンスは持ってるけど」
「ライセンス…?」

なんだっけそれ。
と疑問符を浮かべる私にハギさんは「ハンターライセンスだよ、知ってる?」と言った。ハンターライセンス……ハンターライセンス?

「え?ハンター試験の?」

最初にパッ、と浮かんだのはゴンのライセンスを曲げたミトさんだった。なんでだろう。

「そうだよ、そのハンターライセンス。意外と知ってるんだね」

ハギさんは少し驚いたように続ける。
ええ、ちょ、ハンター試験ってあのめちゃくちゃ走るやつでしょ?死んでも自己責任なやつでしょ?この人そんなの受けてプロハンターになったのかよ。
驚いてうっかりハギさんの方を向いてしまった。眩しすぎる笑顔を直視してしまい、目が潰れる。こういう念能力かな??
目をこする私にハギさんがとある提案をする。

「とりあえず敬語ってやめない?書類上とはいえ兄妹なわけだし」
「えっ?殴りません?」
「あっはは、キミは一応合格だからそんなことしないよ!」

合格じゃなきゃヤバかったのか?
と思うも口には出さなかった。肯定されたら辛い。そんな私の心中など知らないハギさんはさん付けを止めた新しい呼び名候補を挙げた。

「お兄ちゃん、はウザいから却下。お兄様…はないな。ここは無難に兄さんでよろしく」
「はぁ、わかった…」

ハギ兄さん、と続けると呼ばれた本人は満足そうに頷いた。どういう基準だよ。

[pumps]