マイ・インターン
護衛二日目、午後2時。
遅めの昼食をオリヴィア氏の部屋の前でとりながら、さりげなく横にいるハギ兄さんに視線を向ける。うん、いつも通り美形だ。
そわそわしているとか殺気がやばいとかの変わった様子は何もない。私の勘違いだろうか?カ〇リーメイト的な携帯食を食べながら首を傾げる。

紙を三枚持っていた、暗殺の文字があった、つまり暗殺の依頼を受けた。
無理だろうね、という言葉は自分が殺しに行くから護衛を雇ったって意味はないという意味だと解釈したわけなんだが、どうなんだろう。
ハギ兄さんは表向きは護衛としてオリヴィア氏に近づき暗殺する、みたいな。
もし、そうなら私はどうしたらいいんだろう。一応護衛だし止めるべき?無理無理負けるって、ハギ兄さんにボコボコにされてるところしか浮かばないもん。

どう考えても止めるのは無理だ。つまりオリヴィア氏は……犠牲になったのだ……とか薄情だろうか。でも身内でも何でもない出会ったばかりの人だし、これって結構よくある反応じゃないか?
護衛失敗しても元々私は報酬無しのタダ働きってことで参加しているし、別に氏が殺されても私にマイナスになることは一つもない。
うーん、嫌な考え方だな。人が死ぬかもしれないのに随分冷めてる。所詮他人事だからか。
でもまだ、ハギ兄さんが殺すかわからないし、私の勘違いという可能性も高い。もう一度ハギ兄さんに視線を向ける。睫毛長い。


その夜、特に何もないまま2日目も終了……と思ったところで急展開。

「あ、敵だ」
「え?」

ハギ兄さんが呟いたすぐ後、銃声が響いた。

「な、何?」

近くの窓から外−−正面入口の方を見ると銃を持った男達数十人と熊さん蟹さんが闘っていた。えええ正面から?正面から来ちゃう?

「なんだ?何が起きてる!?」

部屋の中からオリヴィア氏が言う。

「襲撃ですね。大丈夫、すぐに倒してきますから」
「え、倒すって…」

ハギ兄さんの答えに違和感を持つ。私達持ち場離れて戦いにいっちゃう感じなの?
それはまずいんじゃ、と言おうとした時したっぱさん二人が走ってきた。

「おい、敵だ!お前らも早く行け!」

したっぱさん達は私達に向かってそう言うとオリヴィア氏に、安心するよう声をかけた。此処は自分たちが引き継ぐ、ということらしい。
ハギ兄さんはしたっぱさん達に「あとはよろしく」と言うと私の手を引っ張り正面入口に向かった。
ちょ、そういうもんなの?自分たちから敵のところ行っちゃうもんなの!?

「ハギ兄さん、私、銃はちょっと無理!!」
「よし、行っておいで!」
「いやいやいやいや」
「なんだあのガキ!」
「おい、増えたぞ!撃て!」

現場は凄まじい混乱だった。熊さん蟹さん、さらに他のしたっぱさん達が同じく銃で敵に対抗する。ちょっと待って私丸腰!!
こんな状況で花柄ワンピースの子供はやはり目立つらしく、敵の男達は迷うことなく私に発砲した。
なんか動き遅くない?別にスローモーションのように見えるとかじゃない。だが、そんな実況ができるくらいの余裕が私にはある。
銃で撃つまでの動作が遅いのだ。おかげで私は足に凝をしてその場を飛び退くことで銃弾を避けることができた。

私を狙ってきた男は驚きの表情を見せるも再び銃口を向けてくる。その動きもやはり遅い。
よし、と足に凝をしたまま地面を蹴る。銃声が響いたと同時に私は相手の後ろに回り、右手に軽くオーラを纏わせ握り、ぶん殴ってみる。

「っが!」

思っていたより威力は強かったらしく男は倒れた。か、勝った…?
ええ、すごい私勝ったっぽい!ナズナさん誉めて!と同時に出発前のナズナさんの「アイツに守ってもらえ」発言を思い出した。
そういやハギ兄さんは私を守ってくれるんじゃなかったのか。アイツどこだ?と辺りを見回す。何処にもいない。

「うそ、」

おかしい、私はハギ兄さんにここに連れて来られたのだからいないはずない。
しかし何処を見てもあの人はいなかった。やっぱりあの人は……。
銃弾が飛び交う中を抜け、私は建物の中へ引き返した。


「あ!」

階段を駆け上がって廊下を走るとオリヴィア氏の部屋の前でしたっぱさん達が倒れていた。
血は別に流れていない。生死を確認しようと思ったが、まずは氏の安否確認だと考え止めた。部屋の中に人の気配を感じる。

「オリヴィアさん、大丈夫ですか!?」

返事はない。声をかけながらドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。
仕方ない、と右足にオーラを溜める。そしてオリヴィア氏がドア付近にいないことを願いながらドアを蹴り破った。

中に入ってすぐに視界に映ったのは閉まった窓、無人の椅子。
人の気配はした。いないはずない、と視線を右に向けると横たわる人の足が見えた。
オリヴィア氏だ、と確信して、そのまま辿るように視線をずらしていき、驚愕した。その横たわる人には首がなかったのだ。

「ひっ、……!」
「静かに」

悲鳴を上げそうになった私の口を後ろから誰かがふさいだ。
その誰かが誰なのか、すぐにわかったけど私は声を出すことも動くこともできなかった。

「大丈夫、目が覚めたら……」

私の口を塞いでいる手が離れる。そしてその手ともう片方の手がゆっくりと私の視界を覆った。

「きっといつも通りの朝だ」

私の意識はここで途切れた。

[pumps]