見知らぬ人々
初めてのお仕事を失敗してから、私は何故か二週間に一度外からの依頼を受けている。しかも護衛。
味方に裏切られる、という初仕事にしてはヘビーな体験をした割に私の精神は意外と強かったらしい。しかも後でわかったことだが、私が倒した敵の男達はハギ兄さんとグルだったんだとか。
といってもハギ兄さんが一方的に利用しただけのようだが。まったくとんでもない奴だわ。
しかしその護衛を体験したことによって、よくも悪くも『外からの依頼』に以前ほどの抵抗を抱かなくなった私はお小遣い稼ぎと社会見学を含めて仕事に参加している。私って結構あっさり意見変えるな。

そんな生活を始めて早三年。
そう、実はもう三年が過ぎた。私は多分13歳。この三年間ぶっちゃけ特筆するような事はなかったのでひたすら護衛をしていた、とだけ言っておこう。
あえて言うなら時々ハギ兄さんが帰ってきてご飯食べていったりとかゾルディック家がやけに接触を図ってくるくらいか。


場所はオープンカフェ、目の前にはチョコレートケーキ。
護衛の仕事を頑張った私にご褒美として元祖お兄さんが奢ってくれたものだ。

「はい、これ母さんから」
「美味い、糖分………あ、だから毎回言ってるけど私は家には行かないよ」

溜め息をつきながらそう言うと目の前でキキョウさんからの招待状を差し出している元祖お兄さん、イルミは私の言葉に「だろうね」と言って頷いた。
イルミもわかっているのだ。このやり取りずっと続いてるし。
わかってないのはキキョウさんだけなんだよなぁ、とチョコレートケーキを食べながら思う。
『外からの依頼』を受け始めてからイルミは私が仕事を終えた後、必ず姿を現すようになった。手にゾルディック家への招待状を持って。
初めは偶然かと思ったが、七回目を過ぎたあたりから絶対誰か私の情報流してるだろという考えに至った。

実際それは間違っておらず、私に仕事を斡旋しているメガネが「一応保護者だし、子供が何処に何しに行くかぐらい知っとかないと!」とナズナさんに詳しい仕事情報を話し、それをナズナさんが「じゃあ養母の師匠にも話を」とスズシロさんに伝え、今度はスズシロさんが私を家に呼びたがっているキキョウさんに教えて、それにより私の居場所を知ったキキョウさんがイルミに私の元へ行くように指示したらしい。
なんだこの伝言ゲーム状態は。身近な人間がほぼ全員加担してるってどういうことだよ。
おかげで私が三年の間に最もよく会った人物はナズナさん達を除くとイルミということになった。そんなイルミは「あ、そうそう」と思い出したように言うと手に持っていた招待状をしまい、代わりにあるものを差し出してきた。

「これ、頼まれてたやつ」
「なに?…あ!」

私の目の前に出されたのはとある事件の新聞記事のコピー。
どうしてもこれが読みたくて、前回の仕事の時「次もどうせ来るだろ」と思ってイルミに頼んだのだ。

「本当に持ってきてくれたんだ、ありがとう!」
「今回はいいけど、家は情報屋じゃなくて基本殺し専門だからね。こういうことは次からはやらないよ」
「今回はサービスありがとうございます」

まったく困った奴だよ、という感じでイルミはこちらを見て頬杖をついた。
さすが設定上の元祖お兄さんイルミ。書類上のお兄さんより頼りになる。
早速持ってきてもらった記事のコピーに目を通す。記事はガラスのショーケースが割れている写真付きだ。

「にしても意外だな。セリ、“幻影旅団”に興味あったの?」

頬杖をついたままイルミが言う。
私は“美術館に襲撃!”と書かれた記事に視線を向けたまま答える。

「興味っていうか、友達が幻影旅団なんだよね」
「ふーん」

反応薄かった。
1992年、11月。旅団は既に活動を開始している。

[pumps]