見知らぬ人々
いかにも高そうな座り心地の良いソファーに私は居心地悪く座っている。
目の前には髭が素敵なおじいさまモリスン氏と喧嘩売ってんの?ってくらい目付きの悪い青年。
すごく…………視線が痛いです……。

こんな状況になる十分前のこと、今回の仕事場であるモリスン氏の屋敷まで私を送り届けたハギ兄さんは「頑張ってね!」と紹介状を押し付けると颯爽と去っていった。あいつ毎日楽しそうだな。
インターホンを押して「紹介状持ってまーす」とアピールし、中に入った私を待っていたのは依頼人モリスン氏による面接。

「ハギは来れなくなって代わりに君が来た、ということか」
「はい…」

頷くとモリスン氏は何か考え込むような様子を見せる。
その間、目付きの悪い青年は私にガン飛ばしてきた。こいつ何なんだよ。勝負するか?

「セリといったか…、君は念を使えるのかい?」
「はい、一応」

そう言うとモリスン氏は隣の青年に「この子はどうだ?」と聞いた。
目付きの悪い青年は私を上から下まで見た後、言った。

「念が使えるってのは嘘じゃないですね。おそらく他の警備の奴よりは役に立ちますよ」

ふん、と鼻を鳴らしてそう言う青年は念能力者。青年の言葉を頷きながら聞いていたモリスン氏は非念能力者だ。
他より役に立つってことは私以外に念能力者はほとんどいないのか。
幻影旅団が来るかもしれない、って言って警備増やした割にはそこまで危機感を持っていないような…。

「ではセリ、君はカトーと同じホールA地点での警備を頼む。詳しい話は彼に聞いてくれ」
「カトー?」

突然知らない名前が出てきた。
誰ですか?と尋ねるとモリスン氏は自分の隣の目付きの悪い青年を見る。こいつかよ!


「いいか、新入り。俺達の仕事はなんとしても賊をアレの側に近付けないことだ」

モリスン氏と別れてホールA地点に移動すると目付きの悪い青年、カトーは私にそう言ってホール中央に展示されている『アレ』と表現されたお宝を指差した。

「テディベアって……」

お宝は可愛らしいテディベアだった。
え?なにそれ予想外過ぎるんだけど。なんでアレが盗まれるんだよ。説明を求めてカトーを見ると彼は頷き言った。

「なんでも伝説のぬいぐるみ職人が作り上げた幻のクマらしい」

それどのくらいすごいんだ。

「名前はクマオだ」

待って、ダサい。

「いいか、命に代えてもクマオを守るぞ」
「…………」

ごめんなさい、ハギ兄さんが正しかったです。

***

もし、此処に幻影旅団が来るなら聞きたい。テディベア盗んで…どうするんですか…?って。
テディベアを抱えるクロロを想像して震えた。絶対近づいちゃいけないやつじゃん。

「みんなクマオ見て楽しいんですかね」

ホール中央のクマオを見て歓声をあげる人達に視線を向けながら呟く。あれはモリスン氏がクマオをお披露目したくて招待した客だ。
近くにいたカトーは腕を組みながら言った。

「正直つまんねぇだろうな」

お前までそんなこと言うなよ。
確かに見た目ただのぬいぐるみだもんな。しかし伝説のぬいぐるみ職人とやらが作った逸品らしいし、見る人が見ればその価値がわかるのだろうか。
ふと、凝をしてみようかという考えが頭に浮かんだ。見る人が見れば、というのは念能力者にも当てはまるのではないか?人の隙間から凝をしてクマオを見る。
するとクマオの体を覆うようなオーラがあることに気がついた。しかも腹のあたりは特にオーラが濃くなっている。

………なんだアレ?
ちらり、と横に居るカトーに視線を向けると欠伸をしながら頭をボリボリと掻いていた。やる気あんのかこの兄ちゃん。

「カトーさんはクマオの警備始めて結構長いんですか?」
「いや、昨日から雇われた」

短っ!よくそれで先輩面したな!

「でも、それにしてはモリスンさんの側近みたいな感じでしたよね」

面接の時に隣にいて、意見まで求められてたし。
昨日雇われたばかりにしては距離が近いような気がする。

「ああ、ありゃ俺が念能力者だからだ。賊が来たときの頼みの綱だからな」

感じたことをそのまま聞くとカトーは少し誇らしげに言った。彼はおそらく人に頼られたいタイプなんだろう。

「他に念能力者は?」
「俺ら以外にはあそこにいる奴だけだ」

カトーが顎をしゃくって示した方を見るとひょろっとした顔色の悪い男がいた。
確かに念能力者のようだが、全く強そうに見えない。あの人ちゃんとご飯食べているのかな。
一応辺りを見回してみるが、他は見た目が厳ついだけで全員非念能力者だった。やはり旅団が来るかも、という割には警備が甘い気がする。
相手は数でどうこうできるもんじゃないのに、此処の警備は人数が多いだけという印象を持った。

「…大丈夫なんですかね?念使えるのが三人だけなんて。A級賞金首に対する警戒が足りないような」
「A級賞金首?お前何の話してんだ?」
「え?」

カトーは意味がわからない、という顔をして私を見る。

「いや、何の話って、クマオ盗みに来るかもしれない連中のことですけど」
「幻影旅団だろ?それがなんでA級賞金首なんだよ」
「え、え?」

私をからかっているわけでもなく、本当にわからないという声色だった。なんだ、どういうことだ?
旅団は熟練ハンターでも手が出せないとか言われてるくらい凶悪で、オークションでお宝盗んだりクラピカの仲間殺したりするんじゃなかったか?

「あ、そっか」

そこまで考えてポン、と手を打つ。
私は漫画での旅団を思い浮かべて話をしていたけど、今の旅団は実際にはぽっと出の盗賊集団。まだA級賞金首とかじゃなくそこそこ強い奴らというのが世間での評価なのだ。

「なるほど、なるほど。理解しました!」
「いや何がだよ」

自己解決してたら突っ込まれたので笑って流しておいた。

[pumps]