見知らぬ人々
結局初日は旅団どころか盗賊らしき連中も現れず、平和に終わった。
でも、知ってた?盗賊というのは大抵の場合初日は来ないで二日三日目くらいにやって来るって!偏見かもしれないけど。

二日目、相変わらず大人気のクマオを眺めてぼーっとする。クマオ可愛い。

「あ?通じねーな」

モリスン氏から事前に警備全員に渡されていた無線機を手にカトーは眉間にシワを寄せて呟いた。

「どうしました?」
「正面入口の連中と連絡がとれねぇ」

ホールにある時計を見ると丁度12時。警備同士の定期連絡の時間だった。

「モリスン氏は?」
「今やってる」

そう言って無線で連絡を取り続けるが暫くしてカトーは「通じねぇ」と一言。
これはまさか…と嫌な予感がする。

「おい、俺は氏のところへ行ってくる。セリ、お前はここにいろ。絶対にアレから目を離すなよ」

そう言ってカトーはホールから出て行ってしまった。
連絡通じないとかフラグ立ちまくってるだろ。すぐに辺りを見回す。
盗賊らしき不審者は今のところ居ないが、油断は出来ない。どうしよう、一人でお宝の元に残されるとか不安過ぎるんだけど。
もう一度、今度はホール全体を見逃しのないようゆっくりと見回す。まあ、一応私以外にも他の警備の人がたくさんいるし、ちょっと弱そうだけど一人だけ念能力者もいる。

「あれ?」

そこで気が付いた。あの念能力者である顔色の悪い男がホールの何処にもいないのだ。
なんで?トイレ?まぁ、人間だしな……と思いつつも何かが引っ掛かる。
あそこの地点は念能力者ということであの人しか警備が居ないし、今だって……。

『セリ!』
「うわっ!か、カトーさん!」

突然無線からイヤホンを通じて聞こえたカトーの声にびくり、と肩を揺らす。
どうしたんですか?と言おうとした私を遮り、カトーは早口で捲し立てた。

『賊が侵入した!俺らの中に手引きした奴がいやがる!』
「え!」

マジかよ!?お客さん達に聞こえないように口を手で覆い小声で聞く。

「私はどうしたら?」
『今すぐクマオを持って外へ行け!』
「えっ、この状況でそれやったら私が盗賊ですよ!?」
『んなこと言ってる場合じゃねーんだよ!!とにかく賊が来る前に早く外に出ろ!』

とカトーが言って無線が切れた瞬間。

「!?」

視界は真っ暗になった。

「停電…!?」

ホールに居る人々がどよめく。何も見えない。
なので、円を使ってみた。私の円は半径3メートルくらい。ぶっちゃけハギ兄さんとかに比べたら(50メートルとからしい)全然出来てないけど、今は周りに人がいるかがわかればいいので問題ない。
位置を確認し、人を避けつつクマオの元に向かう。クマオはまだそこにいる、盗まれてない。私は念を込めた右手でガラスケースを叩き割った。
直後ジリリリリ!とけたたましい防犯ベルの音がホールに響く。

「なんだ!?」
「この停電はどうなって…」
「なんの音だ!おい!」

ホールのお客さん達のざわめきを耳に入れつつクマオの頭を鷲掴みにしてホールから出ようとした時、円の範囲内に念能力者。そして殺気を感じた。

「待つね、そいつ持てどこ行く気か」
「え?…うわっ!」

超聞き覚えのある声と話し方に気付いたと同時に突然背後から攻撃される。
あれ、これフェから始まってンで終わる人じゃないの!?と思うも暗闇なので全く姿が見えない。
円をしているので位置はわかっているが、それは向こうも同じらしい。攻撃は止むことなく、私はクマオを振り回しながら紙一重で避けていく。

「ちょこまかと…、それ置いてととと消えるといいね」
「いや、それはちょっと困るっていうか!」
「…?その声、お前…」

一瞬、攻撃の手が鈍る。チャンス!
右手に出来る限りの念を込めて、そのままフェイタンらしき人物を殴る。

「!」

私より格上のフェイタンは当然ガードしたが、仮にも私は強化系。それなりのダメージは与えられたハズだ。
すぐに足に凝をしてその場から退く。そして逃げた。
やばいやばいやばいフェイタン殴っちゃった殺されるやばい!

「待つねセリ!!」

背後からお客さん達の悲鳴が聞こえる。それと共に殺気を飛ばしてフェイタンが追いかけてきた。
私だってバレてる!!怖っ!何あいつ怖っ!!
大分暗闇に目が慣れてきた私はホールの出入口に向かって走る。そして扉を破壊して停電していない明るい廊下へ逃げた。

廊下を駆け抜けながら、どうやってこの場を切り抜けるか考える。クマオ云々は抜きにして捕まったら多分殺されるわ私。
ちら、と後ろに目をやるとフェイタンの姿が見えた。なんかあいつ三年前より全体的に黒くなってる。
長い廊下を走りながら、冷や汗をかく。正直向こうの方が足は速い、追い付かれるのは時間の問題だ。
13年か、第二の人生も短かったな……と軽く諦めかけた時、廊下に銃声と怒声が響いた。

「あっ!」

振り向くと同じくホールの警備だった人達がフェイタンに向かって撃ちまくっていた。
フェイタンは私を追うのを一旦止めて、彼らを迎え撃つ。ナイス!警備さん達!
近くにあった非常階段をかけ降りる。此処は三階だ、とりあえず一階に行こう。
なんとなく、この先彼らがどうなるか結果はわかっていたが私は逃げた。弱い私ではどうにも出来ないからだ。
警備の人達の声を聞きながら下へと降りた。


「〜〜〜〜!」

一階に降りた私を待っていたのは誰かの怒声と銃声だった。ここもかよ!
声はこの先から聞こえてくる。ここを進まなければモリスン氏のところには行けないし、外にも出れない。
しかもこのままでは多分マジ切れしてるフェイタンが来る。絶体絶命だ。

旅団って他に誰が来てるんだろう。此処に留まってフェイタンに殺されるよりは……、と仕方なく足を動かす。
この先にいるのがフィンクスならアウトだが、パクノダとかならセーフだ。命くらいは助けてくれるだろう。いざとなったらクマオは見捨てるってことで。
どうせ絶をしても見つかるとわかっているので堂々と走っていく。正面突破だ!
徐々に声が近くなり、二つの人影が見える。そして、こちらに背中を向けている人物を見て私は一言。

「デカっ!」

めっちゃデカかった。しかもオーラがとんでもない。
思わず止まってしまうが、私の声は廊下に響いてしまったので背中を向けていた方の人物が振り向く。
そしてお互い目が合った。

「ん?お前セリじゃねーか!久しぶりだな!」

なんと、そこにいたのはアフロからライオンにイメチェンしたウボォーさんだった。
ウボォーさんはにかっ!と笑ってこちらに近付くと私の頭をガシガシと撫でた。違う、これ撫でるって言わねーや。

「う、ウボォーさん………痛っ!ちょ、痛い!!」
「三年振りくらいか?元気にしてたかよ!」

駄目だ聞いてない。
流石は強化系、力が強すぎる。感動の再会中だが、このままでは私の首が胴体から離れるのは時間の問題である。
手を退けてもらおうと右手を伸ばした時、私の体は宙に浮いた。ほぼ同時に響く銃声。

「おっと、」
「え?」

私はウボォーさんに抱えられて共に後ろに飛んでいた。
私達の居たところには弾痕。撃ったのは先程までウボォーさんと対峙していたもう一つの人影の正体――カトーだ。

「セリ、てめぇ…………そういうことかよ……!」

まるで親の敵だと言わんばかりの目でカトーは私を見て言った。

「てめぇが!賊を手引きした裏切り者か!!」

えええええまさかの勘違い!!
いやまぁ、この状況じゃそう思われても仕方ないけど濡れ衣だから!私は今たまたま同郷の人と会っただけだから!!同窓会の会場がここだっただけだから!!

「違いますよ!私は何も…、っ!」
「聞いちゃいねーぜ、あいつ」

飛んできた弾丸を片手で受け止めながらウボォーさんが言う。片手……片手!?強化系すごくね!?
とか思ってる間にもカトーはこちらに向かって撃ってくる。どうしたらいいのか。
カトーは完全に頭に血が昇っているようだった。今更私の話を聞くわけない。
ウボォーさんを倒したら信用してくれるか?いや、そんなの無理だ。

「この、バケモンが…!」

弾丸を受け止めては潰していくウボォーさんを見てカトーは言った。
確かに強すぎて同じ念能力者とは思えない。失礼だが見た目も含めて化け物という表現は正しいと思う。
銃で撃ち続けながら元々目付きの悪いカトーは凄まじい目でこちらを見て、口を開く。

「賊はくたば…」

れ、と続くハズだったろうカトーの言葉はゴキッ、と何が折れる音と共に途切れた。

「え?」

カトーの首はありえない方向に曲がっている。

「ウボォー、何遊んでるのさ……、!」

その場に崩れたカトーの背後から現れたのは、シャルだった。

「おっ、シャル!丁度いいところに!」
「え?セリ?なんでここに…」

シャルはウボォーさんには反応せず、私を見て目を見開きそう言った。
三年振りだ。だが、再会を喜べるほど今の私の心に余裕はなかった。

目を開けたまま絶命しているカトーを見下ろす。
カトーが死んだ。シャルが殺した。

[pumps]