見知らぬ人々
ネットカフェの窓から外を見ると辺りはすっかり暗くなっていた。そろそろ補導されそうな時間だが、何か言われたら絶をして逃げればいいだろう。
昼からの出来事を思い返しながらパソコンの画面を見つめる。
護衛アルバイト
>友人とのこれからの付き合いについて悩んでいます。誰かお話聞いてくれませんか?
私はこれからのシャルとの付き合いについてネット上の見知らぬ人々に意見を求めた。他に誰にも相談できる人がいない、というのもあるが、お互いを知らないからこそ言える話もある。
さすらいの音楽好き
>はじめまして、さすらいの音楽好きです。どうかしました?私でよければお話聞きます。
オタク暗殺者見習い
>はじめましてオタク暗殺者見習いです。俺も聞きます
盗賊団団長(笑)
>はじめまして盗賊団団長(笑)です。 俺も聞きますよ。
ニッグ
>ニッグです、はじめまして。話すことで楽になるならどうぞ。
光りモノ好き美少女
>はじめまして、光りモノ好き美少女です。あたしも聞きます。
名前と書き込みが一気に表示された。
思っていたよりもたくさん来てくれたので早速相談内容を書き込む。
護衛アルバイト
>実は友人が私の仕事仲間を殺害したんです。それで彼とこれからも友人として付き合っていくべきか悩んでいます。
オタク暗殺者見習い
>予想外にヘビーな内容ですね。
光りモノ好き美少女
>その殺された仕事仲間とは親しかったんですか?
護衛アルバイト
>親しいわけではなかったけど、職場の先輩って感じでよく話をしたので……。
盗賊団団長(笑)
>殺した側の友人とはどのくらいの付き合いの仲ですか?友人といっても色々な種類がありますよね。
護衛アルバイト
>五歳の時から付き合いがあります。今日三年ぶりに再会したんですがその時に…。
でも私にとっては初めて出来た友人なんです。
さすらいの音楽好き
>それは辛いでしょうね。実際に見ているわけではありませんが、あなたがまだ動揺しているのがなんとなくわかります。
「……動揺」
してるのかな?いや、チャットでこんなこと相談しちゃうくらいだし、動揺してるんだろう。多分。
ニッグ
>今日、仲間が殺されたんですか?殺しの後、その友人とは話をしました?
護衛アルバイト
>しました。向こうは殺したことは特になんとも思ってない感じです。深く考えてないというか、私が一人で悩んでるだけみたいです。
さすらいの音楽好き
>それはちょっと…。人を殺すのになんとも思ってないってことですよね?>護衛アルバイトさん
護衛アルバイト
>みたいですね。もともとあっさりした奴だったんで。
ニッグ
>いや、あっさりで片付けちゃダメですよ。
「だよね、どう考えてもおかしいよね」
なんか色々殺しとかについて考えすぎて何がなんだか。私は結局何について悩んでるんだろう。
シャルが人を殺したのがショックで、でも友達だと思ってて………で、久々に会ったのはいいけど一緒にいる気になれなくて旅団のみんなには着いていかないでネットカフェでハギ兄さんが迎えに来るの待ってるわけだ。
自分の現状と気持ちを整理しながら、ちょっとぼんやりしていたらチャットの方に新たな書き込みがあった。
盗賊団団長(笑)
>護衛アルバイトさんの話、俺の知り合いの話に状況が少し似てますね。俺の知り合いもずっと仲良くしていた友人に三年振りに会ったんですが、彼女の目の前で(ピー)してしまい、ドン引きされたってへこんでるんですよ
ニッグ
>それ(ピー)に何入ってくるかによって大分話変わってきますよ>盗賊団団長(笑)さん
盗賊団団長(笑)
>それはさtじぁ
オタク暗殺者見習い
>!?
護衛アルバイト
>襲撃ですか?
さすらいの音楽好き
>どうしたんですか?
盗賊団団長(笑)
>すみmせん本人が後ろに、ちょっt落ちます
さすらいの音楽好き
>もう見てないと思いますがとりあえず落ち着きましょう
光りモノ好き美少女
>話の流れ的に盗賊団団長(笑)さんの後ろにきた“本人”は(ピー)しちゃった人ですかね?
オタク暗殺者見習い
>でしょうね。慌てすぎて変換まともに出来てませんよ。
一体何があったのだろう。騒然とするチャット画面を眺めながら飲み物を一口。
盗賊団団長(笑)さんがなんだかすごく知り合いな気がするんだが大丈夫かこれ。
オタク暗殺者見習い
>まぁ、話を戻して。その友人さんとはとりあえずこれからも友人ってことでいいんじゃないですか?俺、友達いないからよくわからないけど。
光りモノ好き美少女
>いやいや、もうその友人とは付き合いやめといた方がいいですよ。なんか色々ダメそうな気がするわさ。ここでスッパリ縁切るのに一票。
「ふーん、なかなか厳しい意見。ていうかオタク暗殺者見習い友達いないとかどこのゾルディック家だ、と」
さすらいの音楽好き
>縁を切れ、とは言いませんが一度距離を置いた方がいいのではないでしょうか。もう少しゆっくり考える時間が必要だと思います。
「考える時間……、考えて答えでるかな?」
盗賊団団長(笑)
>いや、縁切るのはやめた方がいいですよ>護衛アルバイトさん
「お前どっから湧いてきた」
オタク暗殺者見習い
>あれ?帰ってきた。お帰りなさい>盗賊団団長(笑)さん
盗賊団団長(笑)
>どうも。多分その友人も反省してるんじゃないですかね?悪気はなかったんですよ多分。縁切られたら可哀想っていうか、後々面倒っていうか、やめてあげてください>護衛アルバイトさん
ニッグ
>急に物凄い勢いで擁護し始めましたね。落ちた後何があった。
「……何してるのキミ」
「チャット」
パソコンの画面を見つめたままそう言うと画面に私の背後で呆れたような顔をしたハギ兄さんが映った。
「モリスン氏は死亡、お宝は盗まれ警備も全滅って聞いたから急いで来てあげたのにセリちゃんは呑気にチャットしてたの?」
そう言うとハギ兄さんはハァー、と溜め息をついた。そんなこと言われてもやることなかったし。
じゃあ自分で歩いて帰ってこいって?いや〜、道がわからないんですよ。流星街って地図に載ってないんで。
とか思いながらチャットに付き合ってくれた方たちへお礼の言葉を書き込んでから退室する。結局ちゃんとした答え出なかったな。面白かったし、またやろう。
するとハギ兄さんが「あれ?」と言って私の背中に触れた。
「なにこれ?背中に何か付いてるよ?」
「え?」
ほら、とハギ兄さんが手に掴んでいるのはペラペラの小さい紙。
「ガムテープで貼り付けてあったみたいだね」
接着力やばい。
「誰だ付けた奴……なにこれ?」
ハギ兄さんから受け取った紙には数字の羅列。
ん?もしかして携帯の番号か?
「ガムテープで貼り付けられてたんだから、間違いなくセリちゃん宛だよね。何か心当たりはある?」
「……いや…?」
全くない。朝から着替えていないから、貼り付けられたのは今日のうちのはず。
とりあえず携帯どころか電話すら使えない、連絡手段が手紙しかない私に携帯の番号を渡されても困る。
「心当たりがないなら電話かけてみようか」
そう言って携帯を取り出すとハギ兄さんは紙に書いてある番号に本気で電話をかけた。
まさかの詳しいことは本人に聞いてみようパターン。携帯を耳に当てるハギ兄さんを見て横でドキドキする。
「あ、もしもし?うん、………え?いや、まずそっちが名乗ってくれない?……あっ」
「え、何どうしたの?」
「切れた」
ええ、マジか。
ハギ兄さんは携帯を睨みながら「男だったよ、絶対僕より年下のクソガキ」と言った。
「もしもし?って言ったら、誰?って返されてさ。相手から名乗らせようとしたら切れた。腹立つからこの紙捨てよう」
「え、………」
ハギ兄さんは貼り付けられていた紙をクシャクシャに丸めると近くのゴミ箱に捨てた。
……………これでよかったのかな?
釈然としない私にハギ兄さんは「ナズナさんがオートミールと一緒に待ってるよ」と言って家に帰ることを促した。オートミールが人みたいな言い方やめて。