天空闘技場
旅団との再会からしばらく。年が明けて1993年、1月。
今回も私が一人で「そば!年越しそば!」と騒いで皆に無視され新年を迎えた。そんな私の専らの関心は超難関と言われる地獄の試験だ。

「ハンター試験?無理無理セリじゃ絶対受からないよ」
「ひどくない?何を根拠にそんなこと言えるの?」
「根拠?弱いから」

他に何がある、と言わんばかりのイルミに溜め息をつく。そんな言い方しなくていいと思う。
イルミが持ってきてくれたハンター試験について書かれた紙を眺める。
場所は流星街の我が家。新年の挨拶に来た、といって手に毒入りのお菓子を持って家にやってきたイルミは一つしかない椅子に当たり前のように座った。もう少し遠慮しろよ。

「セリ、ハンターになりたいの?」

一人掛け用のソファーはナズナさんに占領されてるので、仕方なくベッドの上に座っている私にイルミは少し意外そうにしていた。そんなイルミにハンター証が欲しいだけと返す。

「ライセンスってさ、すごいんだって。何がどうすごいのか詳しくは覚えてないけど、なんか売ればずっと遊んで暮らせるらしいよ」

ってハギ兄さんが言ってた気がする。

「え、お前ライセンス取ったら売る気なの?」

今まで黙っていたナズナさんが驚いたように聞いてくる。当たり前だろ、と頷けば「…いや……ないわ…」と少し引いた感じで呟いた。
確かにライセンス取ってすぐに売るなんてちょっと勿体ない気もするけど、一番手っ取り早く幸せになれるじゃん。
そう、私は幸せになりたいんです。

「いや、だからそれはハンター試験に受かればの話でしょ?セリじゃ無理だって」

イルミはこちらを心底馬鹿にしている感じがよく伝わる異常に腹が立つ顔で私に言った。随分な言い方と表情に少しカチン、とくる。
私じゃ無理というが、そんなに無謀な話だろうか?ずっと修行は続けてきたし、護衛の仕事もこなしてきた。これでも昔に比べれば大分強くなったと思う。
大体ハンター試験を受けに来るのは非念能力者ばかりだったはず。

「私、念使えるんだよ?ハンター試験に来る人ってみんながみんな念能力者じゃないでしょ?他の受験生に比べたら、ずっと有利で強いと思います」
「確かに念能力者ってだけで合格の確率は上がるだろうけど、俺がセリじゃ無理だと思うのは念を使わないと何も出来ないからだよ」

イルミのその言葉にナズナさんも納得した様子で頷いた。

「………つまり、私が念に頼りすぎだと…?」
「うん。セリってさ、昔から全然基本の動きがなってないじゃん。元々身体能力も低いし。未だに念無しじゃ三時間も走ってられないだろ?」

何故知ってる。

「俺も詳しくは知らないけど、ハンター試験に来るのって念が使えなくともそれなりに腕に自信がある奴でしょ?セリ、そんなのとまともに戦えるの?勿論、念は使わないで」
「……………」
「念を使えば相手を殺すこともある。そういうの嫌なんだっけ?なら、念無しで他の奴等と張り合うしかない。そうなったらどう?セリじゃ絶対無理だよ」
「…………」
「正直、セリってハンター試験なめてるよね」
「…………」
「なめられるほど、お前そんなに強くないから」
「もうやめてください!!」

そんなに言うことねーだろ!事実だとしても流石に酷いだろ!?私はガラスのハートなんだからもっと気を遣ってよ!!
泣いたフリをしてナズナさんに慰めてもらおうと突進したら華麗に避けられた。あまりにも見事な反応速度に涙が出てきた。
イルミはそんな私を見て「セリどうしたの?」とナズナさんに聞いている。お前にボコボコにされたんだよ。
そんな異様な空気の中、ナズナさんが「まぁ、でも…」と切り出した。

「確かにイルミの言う通りだな。セリにはまだハンター試験は早いと思う」
「ほら、ナズナおじさんも俺と同じ意見だ」
「うるさいな!」

言い方が違うじゃん。ちょっと優しげだよ、流石ナズナさん!
感動しているとナズナさんはとある提案をした。

「もし本当にハンター証が欲しいなら、もっと実戦経験を積むべきだ。非念能力者相手のな。勿論お前も念無し」

ここで一呼吸おくと、ナズナさんは少し考える顔をするがすぐに話を続けた。

「経験を積むのにいい場所がある。天空闘技場だ」
「…聞いたことある」
「あれ、前に話さなかったっけ?」

イルミの言葉に以前ゾルディック家に行った時のことが頭に浮かぶ。ダメだ、ゼノさんにボコボコにされたことしか思い出せない。
私が覚えていないのがわかったらしいイルミは呆れたような目で私を見てきた。何年前だと思ってんだ、余程印象に残らない限り覚えてないっつーの。
そんな私達を無視してナズナさんは話を続ける。

「天空闘技場はパドキアにある。確かその近くにハギが住んでたはずだ」
「ハギ兄さんが?」

予想外の名前に少し驚く。あの人パドキアに住んでたのか。
イルミはハギ兄さんの名前にキョトンとしていたが「スズシロさんの息子さんだよ」と教えてあげると「あー、噂の…」と言ってすぐに興味を失ったようだった。まぁ、別に本人いないしね。

「ていうかひょっとしてハギ兄さんのところで下宿的な感じ?」
「ひょっとしなくてもそう。大体お前他に何処に泊まる気だよ?」

そう言うとナズナさんは思い立ったが吉日とばかりに「師匠に連絡取ってもらおう」とスズシロさんの所へ向かった。
ていうか、あれ?私、天空闘技場行くの確定なの?
ぽかん、としているとイルミが「まぁ、頑張れば」と言ってきた。マジか。

[pumps]