新世界より
私を18年育ててくれたお父さん、お母さん。
元気ですか?私は死んだ覚えがないのに生まれ変わったりしたけど、元気です。

生まれ変わってからそろそろ3年が過ぎます。
最初は何言ってるかわからなかった言葉も片言だけど理解し、話せるようになりました。

今、私の面倒を見てくれてる男の子はナズナという名前らしいです。
ああ、ペンペン草ね。とちょっと親近感湧きました。
男の子のお母さんだと思われる女の人はスズシロという名前です。苗字じゃなくて名前らしいです。
二人とも和風な名前なのに、顔立ちは明らかに日本人じゃないんです。これがギャップ萌えってやつですか?よくわかりません。

二人はハンター文字という記号のような字を書いて喋ります。これは世界公用語らしいです。そんなもの知ってましたか?私はそんなの漫画でしか知りません。
そして、私が現在生活している場所は流星街という何を捨てても許されるゴミ捨て場らしいです。そんな場所知ってましたか?私はそんなの(以下略)

ちなみに今は1982年らしいですよ。これって生まれ変わった上にタイムスリップしたってことですかね?
もちろん日本以外のどこかの過去にタイムスリップですよね、まさかと思うけど漫画の世界に入り込んじゃったとかそんな………いや、何でもないです。

まだ伝えたい事はたくさんあるけど、そろそろ寝ないとナズナさんに怒られるので今日はここまでにしておきます。
また、手紙書きますね。おやすみなさい。

PS.米が食べたい

***

3歳と少しになった私の朝は早い。

「セリ、起きろ。もう朝だよ」

嘘つくなよ、窓の外暗いぞ。
とか一応転生前の年を足すと成人している私が年下の子供に言うのは大人げないので素直に起きてみる。

「おはよー」
「お早う、今日は30分以内に戻ってこいよ」
「はーい」

さて、この3年近くで衝撃の事実とか色々と発覚したんでツッコミながら行こうか。
ゴミ山で拾った懐中電灯を片手に部屋から出ると辺りは真っ暗だった。早起きってレベルじゃない。
スイッチを入れて足元を照らすとゴミだらけ。そのゴミを掻き分けながら男の子ことナズナさん(ここでは年上なのでさん付け)が作ってくれた足場を探す。

私達が生活しているこの家もどきはゴミに埋もれていて、外から見るとただのゴミの山にしか見えない。
初めてここに来た時、ナズナさんは突然ドアの前まで行った。出入りを繰り返してわかったのだがあれは地面からドアの所までジャンプしていたらしい。
簡単な言い方をしているが地面からドアまで大体5、6メートルくらいの高さがある。
垂直跳びってそんなに跳べるものなの?しかも、まだまだ余裕そうだったのが怖い。この身体能力の高さもナズナさんをさん付けする所以の一つだ。

当然3歳の私が同じ事を出来るわけないので専用の足場を作ってもらった。これは普段ゴミで隠されているので使用する時、一々探さなくてはならないのがめんどくさい。
どうして隠さないとダメなのかナズナさんに聞いてみたら、外敵から身を守るためだと返された。どこの草食動物だよ。

足場を見つけたので行ってきます、とナズナさんを振り返る。
どこに行くのかというと女の人ことスズシロさんの部屋だ。顔を洗わせてもらったり、トイレを貸してもらったり。ほら、うち水道ないんで。
30分以内に帰ってこい、というのは普通に無理だったりする。スズシロさんの部屋まで徒歩15分、往復すると30分。未だに30分以内に帰れた事はない。
ナズナさんも子供の足じゃ無理だとわかっているはずなのに毎回同じ事を言ってくる。
多分だけどあの子、私を走らせようとしてないか?歩いて15分なわけだから走れば多少早く着く事はできる。
つまり3歳児に行きも帰りも全力疾走しろって言いたいんだよナズナさんは。自分が出来るからって他人にも同じこと望むのは良くないと思う。

とりあえず起きてすぐに走るのは嫌なので今日は早歩きで行ってみた。
暗闇の中、道らしきものを懐中電灯の光で照らしながら進む。慣れてきたがちょっと怖い。
前にナズナさんに変質者とかいたらどうしよう、と聞いたらこの辺りは人の気配はしないから大丈夫だと言われた。気配とか言われてもわからない。


「…おじゃまします」
「あら、お早うセリ」
「うわ、びっくりした!」

限りなく夜に近い朝早い時間なので静かに部屋に入ったら、待っていたかのように奥から赤茶色の髪を一つに括ったスズシロさんがやってきた。
いつ行っても起きてるんだけど本当に寝てるのかこの人。

「私は向こうの部屋にいるから何かあったら呼びなさいね」
「うん」

スズシロさんはこの病院のような造りの建物で何か仕事をしながら暮らしている。
具体的に何をしているかはわからない。前に部屋を覗こうとしたら、ドアの前に立った時点でバレた。
これでもこっそり忍び足で行動していたので「そこにいるのはセリね、早く帰りなさい」って言われた時は本気で怖かった。どうしてこんな当たり前のように気配読めるの?
流石ナズナさんのお母さん、じゃないみたいなんだよねこの人。
初めてここまで一人で行くように言われた日、ナズナさんは「これからは師匠の所まで一人で行けよ、道はわかるだろ。水が使いたかったら勝手に入っていいらしいから」と言った。子供らしく師匠って誰?って聞いたらスズシロさんと返ってきた。
まさかの師弟関係に私は漫画のようなずっこけ方を披露してしまった。
親子だと思ってたのに!そりゃ顔似てないし一緒に暮らさないわけだ。他人だもん。

「スズシロさん、私もう帰るね」

用事は済んだので声を掛けるとドアが開いてスズシロさんが顔を出した。

「気をつけてね、ナズナに明日ここに来るよう伝えてくれる?」
「わかった」

こういう事はよくある。ナズナさんと一緒に来ていた時も二人だけで私には分からない話をしていた。
やっぱり師匠から弟子に伝えるべき事があるんだろうか。何の師匠か知らないが。
外は少しだけ明るくなっていた。というかようやく日の出のようだ。ちょっとテンションが上がったので走って帰ることにしよう。


「今日は37分。今までで一番早かったな、明日はもっと頑張れ」

家に帰ると開口一番にナズナさんにそう言われ、私は決意した。
明日は歩こう。

[pumps]