新世界より
通貨はジェニー、言語はハンター語、ここは流星街。
あれー?これってなんかすごい聞き覚えあるんだけど、という気持ちになりながらそんなはずない、と否定し続け今に至る。

「セリ、俺は師匠の所に行ってくるから文字の練習でもしてて。帰ってきたら〜〜〜〜に行って〜〜〜〜〜しよう」
「えっ、あぁ、うん…?」

ナズナさんが後半何を言っているのか全然わからないので曖昧な返事をしておく。
向こうも私が理解してない事がわかったらしく、まぁ子供だもんなー、みたいな顔をして部屋を出ていった。ナズナさんだって子供じゃん、全然成長してないくせに。
ハンター文字には規則性があり、日本語との対応表を作ることで簡単な読み書きは出来るようになった。
ただ、実際に話すのは難しい。相手が早口になったら何を言っているか全然わからない。ちなみにさっきのナズナさんは早口プラス初めて聞く単語だった。
何の記憶もない真っ新な子供なら上達も早かったのだろうが、中途半端に前世の記憶を持ったまま転生してしまったのでイチから新しい言語を覚えることはとても大変だった。

それにしても暇だ。3歳の身体ではやることもないし出来ることも限られているので、一人でぼけーっと過ごす時間も多い。
そういえば私の名前が転生前と変わらず『セリ』なのはどういうことなんだろう。ナズナさんもスズシロさんも当たり前のように私をセリと呼ぶ。
なぜ私の名を…!と思っていたらお父さん(仮)に預けられた時、身につけていた服にセリと刺繍があったのだ。
本人もあの二人に名前を教えたんだろう。つまりお父さん(仮)は私に転生前と全く同じ名前をつけた、ということになる。

こんなの初めての経験だからよくわからないけど、生まれ変わったんなら名前も変わるんじゃないのか?
まぁ、明らかに洋風の名前つけられても慣れないし、今のところ周りには和風な名前の人しかいないから別にいいんだけど。でもなんか転生したって感じしないんだよね。

「ん?なにこれ」

ふと、床に目をやると小さな紙が落ちていた。
薄いけど結構しっかりしてるな、ってこれ名刺じゃない?とめくって裏を見てみたらハンター文字で書かれた名前が目に入った。

『ゼノ・ゾルディック』

本当に名刺だった。ご丁寧に住所と電話番号まで載っているそれは、とても暗殺者というアングラな職業のものとは思えない。やっぱりこれハンターハンターじゃん!?
え?嘘、本当に?いやいやいや、漫画の世界に転生って意味がわからないんですけど!
しかしゾルディックなんて名前の暗殺者が現実にいても困る。いや、これも現実か。というかなんでナズナさんが名刺持ってるの。

混乱しつつも手に入れた情報を纏めようと頭を働かせる。
とりあえず、私はハンターハンターの世界に転生して流星街というゴミ捨て場で暮らしているというのが現状だ。
私が覚えている漫画の内容といえば、えーっと、メインキャラ四人とハンター試験とゾルディックと幻影旅団とビスケとネコミミ。なんだ結構覚えてるな。

と言っても熟読していたわけじゃないし、所々飛ばしていたから詳しくはわからない。正直キャラの名前もあやふやだ。
そもそもゴンとキルアが活躍するのって2000年とかじゃなかったっけ?そうなると私はその時20歳くらいになる予定だから二人より年上になるのか。
いやでも、ここは超不衛生な流星街だし普通に過ごしていたらすぐに死んでしまいそうだ。人間って弱いもの。

昔読んだ漫画の話の流れを思い浮かべる。えーっとハンター試験があってキルアの実家に行って、なんか修行して…思い出した!幻影旅団の一部って流星街出身じゃなかったっけ。
確か殆どが20歳過ぎてそうな顔だったから、もう既に生まれているということに……うわ、なんか怖くなってきたどうしよう!
漫画じゃクロロが「俺が許すから殺していいよ」みたいな意味不明な事言ってなかったか?
なんだそれ危なすぎるわ遭遇したらボコボコにされるかも嫌だ死にたくない、って落ち着け自分!と自分で自分を一発殴る。痛かった。

しかしこれで今後の目標は決まった。『強くなって旅団らしき集団を見かけたら関わらないでそっと逃げる』だ。
幸い私は流星街にいるとはいえ世話をしてくれる人がいるのだ。他の住民に比べたら恵まれている。
今のところ飢えて死ぬ心配はないし、危ないのは病気と旅団との遭遇。強くなって流星街で静かに暮らそう。

その強くなる方法だけど『念』とかどうだろう。よく覚えていないけど、確か念を使えない人は絶対に念能力者に勝てないんじゃなかったっけ。
ということは念を上手く使えるようになれば、肉弾戦が弱くても一般人には絶対負けないってことでしょ。多分。
いいじゃんそれ、別に最強になるつもりはないんだから。
よし、と意気込んで念に関する記憶を引っ張り出そうと頭をフル回転させる。検索結果、0件。

念の覚え方、知らない。

[pumps]