キルア
天空闘技場では100階を超えると専用の個室がもらえるようになる。つまり100階以下の選手は自費で宿をとらなくてはいけないのである。
キルアが闘技場で修行するにあたってゾルディック家で問題になったのは、普通の宿にキルア一人では泊まれないということだ。
金はある。が、世の中の一般常識を持ち合わせる大人が6歳児が一人で宿泊することを認めるわけがない。自分達には問題なくとも世の大人達がそれを阻止しようとする。
ここで悩んだシルバさんは使用人を一人くらい付けるべきかと思うも心身ともに鍛えたい、という考えから「頼れる人間がいるのは駄目だ。やっぱりキルア一人だけにしよう」となったらしい。

問題の宿泊先だが家族会議を開いた時イルミが「多分セリが今天空闘技場にいるよ」と発言。
それに元々キルアを外に出すことに反対していたキキョウさんが「セリちゃんと一緒ならまぁ………」と言い、とりあえず確かめてみようと仕事と偽ってナズナさんを呼び出し聞いてみたところ「セリ?うん、天空闘技場にいるー」と返ってきたんだとか。
そこまで聞いてもう一度ナズナさんを見たら、私に完全に背を向けていた。

「頼む、セリ。100階に行くまでの間だけでいい。姉としてキルアの面倒を見てやってくれ」

説明を終えたシルバさんは私に向かって再度『頼み事』を口にする。
姉云々の突っ込みは置いといて、嫌です。と私は言いたかった。言いたかったけど、筋肉モリモリで威圧感半端ないシルバさんにそんなこと言えるか?
多分、言ってもシルバさんは優しいから「そうか」という一言でその場は終わる。でも、なんかそんなこと言える空気じゃないだろ今。

「………わかりました」

結局私はシルバさんの真っ直ぐな視線と筋肉と威圧感と私達を「親子……?誘拐……?」という目で見てくるお客さん達によって作り出された店内の異様な空気に耐えきれず、承諾したのだった。
というわけでその日から私とキルアとハギ兄さんの全員他人なのに何故か兄弟という設定になっているメンバーによる共同生活が始まった。
するとナズナさんによってキルアの紹介をされたハギ兄さんが、以前にまして家に帰ってこなくなるという事態が発生。どんだけ子供嫌いなんだよ。
ナズナさんも流星街に戻ってしまったため、ほぼキルアと二人暮らしということになった。
で、結論からいうとキルアは鬱陶しいです。以上。


「セリ!セリ!!」

まず、キルアの朝は早い。
私も今まで朝早いタイプだったが、ハギ兄さんの家に来てからはうるさく言う人が居ないので好きな時間に寝て起きるようになっていた。
基本的に私は9時過ぎくらいまで寝てる。しかしキルアは子供特有のテンションの高さで私を叩き起こしにくるのだ。

「セリ!“変質者ライダー仮面野郎”が始まるぜ!!」
「…………まだ7時半ですよ」
「早く起きろよ!今日は万引きGメンと戦う日で……あっ、オープニング始まった!」
「…………ほら、行ってきな」
「セリも来るの!お前『仮面野郎まじ必殺仕事人』って言ってたじゃん!」
「言ってねーよ、話勝手に作るなぐえっ!」
「はーやーくー!!」

キルアは寝てる私に馬乗りになって騒ぎ始めた。ハギ兄さんの子供嫌いな気持ちがなんとなくわかった気がする。
もっと寝かせろよ!昨日は2時過ぎまで深夜番組観てて寝てないんだよ!私もテレビっ子なんだよ!とか思っても結局はキルアの煩さに負けて一緒にテレビを観ることになる。

「Gメン強えぇぇぇ!」
「監視カメラの映像出してくるなんてやるね。これはもう言い逃れできないよ」

Gメンは仮面野郎に「生活が苦しいから盗った?妻には知らせないでくれ?馬鹿なこと言ってんじゃないよ!警察に連絡するからね!」と正論を言っていた。これは強敵だ。
被害にあった店長も「君が盗ったもやしを他の人はちゃんとお金を出して買っていくんだよ。たとえ生活が苦しくともね」と仮面野郎の肩をポン、と叩いて携帯で警察に連絡しようとしている。絶対絶命だ。
どうなるのだろうか……手に汗握る展開に私とキルアが釘付けになっていると画面に映ったのは『次回に続く!』という文字。
番組スタッフは的確に視聴率を上げようとしてくるな。次週は頑張って起きて観よう。
キルアは続き気になるー!と床に転がりバタバタした後、テレビのリモコン持ってチャンネルを変えた。

「セリ!次は朝ドラ観ようぜ!」
「……………」

さて、ここまでのやり取りを見てもわかるように、キルアは結構友好的である。いや、6歳に敵意丸出しの目で見られても困るけど。
しかし、最初に「何者だ貴様」という目で見てきた割には警戒心を解くのが早い。
シルバさんが最後まで私を生き別れの姉だと言っていたからだろうか。それにしては呼び捨てにしてくるんだけど。

朝ドラが始まるのをうきうきしながら待っているキルアを見て、今までの彼の言動を思い出す。ひょっとして、キルアは姉とかじゃなくて友達感覚で私に接しているんだろうか。
確か漫画でこの子は友達が欲しいみたいなこと言ってたはずだ。そう思うと可哀そうでちょっと涙が出てきた。確か「お前には友達なんかいらないんだよ」的なことを家族から言われてた気がする。
漫画の一場面を思い出し気が付いた。そうか、きっとキルアは私と友達になりたいんだ……!
ちょっと自惚れた考えだが間違ってはないと思う。それなら邪険にせず、私もその気持ちに答えてあげようじゃないか。
静かに涙を流しながらそう決心する。

「あっ、そうそう。セリ、俺昨日冷蔵庫にあったセリのプリン食べといたから!美味しかったから!!」

涙引っ込んだ。

[pumps]