はじめてのハンター試験
目を開いて最初に飛び込んできたのは白い天井だった。あれ?と顔を横に向けると見覚えのある奇抜な髪型をした少女がパイプ椅子に座って眠っている。
え、なんでメンチちゃん寝てんの?今試験中なのに、と思ったところでハッとして横になっていた体を勢いよく起こした。

「試験は!?」
「っ、はっ!!何!?」

眠っていたメンチちゃんが目を覚まし、驚いた顔で周囲を見回した。
それどころじゃない!まだ三次試験の途中のはずだ制限時間は…、と焦っていると段々落ち着いてきて自分の今の状況がおかしいことに気がついた。
何故私は眠っていたのだろうか?しかもベッドの上で。ここはどう見ても三次試験のあの場所ではない。

「どういうこと…」
「セリ!あんたやっと起きたの!」

私の声に起こされたメンチちゃんはパイプ椅子から立ち上がると私の肩を掴み、揺さぶった。

「心配したのよ馬鹿!アホ!いつまで寝てんだぁぁあ!!」
「あっ、ちょ、酔う、あの」

暫くガクガクと私の肩を揺らしていたメンチちゃんは充分満足したのか、この状況の説明を始めた。
なんでも私がトンパさんから貰ったジュースには睡眠薬っぽいものが入っていたらしい。そのまま眠りこけ、時間切れで三次試験は不合格。
今いるこの場所は不合格者のためにハンター協会が用意した飛行船の中で、あの試験会場から一番近い空港に向かっている途中だとか。
そこまで説明され、軽く混乱する私にメンチちゃんは「ていうかねぇ!」と一気に捲し立てた。

「あんた寝過ぎ!いくらジュース大量に飲んだからって寝過ぎ!ほぼ一日寝てたわよ!?何それ、ついでにいつも寝不足だから睡眠とっちゃおー!とかそんな感じなの!?」
「いや、そんなこと言われても私もびっくりなんだけど!」

ほぼ一日ってマジかよ!すげぇな!
どんだけ強い薬だったんだ。それとも盛られた量が多かった?過剰摂取とかで死ぬんじゃないの私。
一応毒関係はゾルディックで鍛えたはずなんだけど、それが全く効かなかったってことは単純に薬が強かったのか昔のこと過ぎて耐性?何それ状態なのか。両方ありそうだな。
毒耐性スキルを失って少しばかり残念に思うが、ふと、あることに気づいた。

「私が寝てて不合格はわかるけどメンチちゃんも不合格?」

私を宝箱に放り込んで扉を開けなかったの?とメンチちゃんを見て言う。不合格者専用の飛行船に乗っているということはつまり、彼女も不合格ということ。
メンチちゃんは眠っていた私を置いていかずに残っていたわけだ。おいおい、ライバルが自滅したんだぞ。私なら「わぁ、馬鹿で良かった!」って言って試験通過する。うん、今回はその馬鹿が私なんだけどね…。
メンチちゃんは迷うような表情を見せた後、斜め下に視線を向け言った。

「そんな卑怯な真似出来るわけないでしょ。話し合いだって途中だったのに」

私は出来…以下略。

「あたしはね、そんな合格の仕方じゃなくてもっとこう、正攻法で……あー、もういいや!来年頑張るって決めたからいいの!」
「ま、マジか」

メンチちゃんは勢いで言いきると「あー、もう」と恥ずかしそうに片手で顔を半分覆った。絶対に合格できるチャンスだったのにそれをしなかったとは、この子すごい。
偉いなと尊敬の眼差しを送っているとそれに気づいたメンチちゃんは「見るなバカ野郎!」と照れ隠しに私が座っているベッドを蹴ってきた。めっちゃ揺れた。

***

「で、セリ、あんたさ。来年もハンター試験受けるでしょ?」
「ん?うーん、そうだね」
「それならアドレス交換しない?携帯持ってんでしょ」

ベッドを蹴り続けて落ち着いてきたメンチちゃんは、そう言うとポケットから自分の携帯を取り出す。
これはもしかして友情が生まれかけているのだろうか。
ついに犯罪者予備軍じゃない普通の女友達ゲットだぜ!ピカチュウ!と私の中のサトシがガッツポーズをした。ハンター試験を受けている時点で普通じゃないとか突っ込まないように。

いいよ、と何度も頷き久々に携帯の電源を入れるとシャルからの着信がすごいことになっていた。何これ、何これ?
着信はすごいがメールは一通も届いてないことから誰も私の新しいアドレスを教えていないようだ。なるほど、だから電話で……と思っていたら、ちょうどシャルから電話がかかってきた。

「うわっ……」
「鳴ってるわよ。出たら?」

あたしは別に気にしなくていいから、とメンチちゃんは片手で携帯を弄りながら言った。
恐る恐る通話ボタンを押して耳に当てる。

「もし」
『やっと出た!今まで何してたの?言いたいこといっぱいあるんだけど!』

もしもしくらい言わせてくれ。

「えーっと、何か用?」
『何か用?じゃないよ!どういうこと?なんで勝手にアドレス変えてんのさ。しかも俺以外は全員知ってるとか何それ。聞いてみてもマチは「教えて欲しかったら金払え」って言うし、フランクリンは「セリにもプライバシーというものがあってだな…」とかわけわかんないこと言い始めるし。その上家にも居ないなんて俺がどれ』

携帯を耳から離し、静かに通話終了ボタンを押す。

「あら?終わったの?」
「うん。なんか間違い電話っぽい」
「ふーん…?」
「ほらほら、いいからアドレス交換しよーよ!」

めんどくさくなって途中で一方的に切った私は、またすぐにかかってくるだろうシャルからの電話に邪魔される前にメンチちゃんとのアドレス交換を済ませた。そして即行で電源を切る。お家帰るのこわい。

結果、初めてのハンター試験は不合格で終わった。

[pumps]