その時歴史が動かなかった
自分で自分の首絞めるとか私馬鹿すぎて笑えない。

「緋の眼?…それって何の話?」

クロロさんの目がやばい。表情もやばい。これはアレだ、場合によっては消されるやつだ。
クロロは邪魔になったら本気で私のことを躊躇なく殺しそうだから困る。シャル含め旅団全員、私が奴らにとって有害だと判断したら容赦なく殺りそう。
あいつら怖すぎるよ、どんな思考回路してんだろう。知りたくもないわ、ってそんなのはどうでもいい。今は目の前の敵に集中しろ。
あらためてクロロの方に向き直ると奴はほぼ無表情だった。怖すぎて震えた
しかし、ここで怯むわけにはいかない。勇気を出せ!自分の命のためにも言葉を選んで話を続けろ!作戦、命大事に。

「えーと、いや、シャルがなんかクルタ族について調べてたみたいでさ、そういえば兄さんが緋の眼を持ってて綺麗だったなーって思い出して。…てっきりクロロも存在を…知ってるものかと……」

最後の方に近づくにつれ、声は小さくなっていった。
うん、ちょっと話す順序間違えちゃった感じもするけど意味は通じる!何の脈絡もなく緋の眼の話になったから、すごく不審だけど意味は通じる!
これで私がクルタ族の話題を出したのも最悪シャルのせいに出来るだろう。実際間違ってないし。
だが作戦は命大事にからガンガン行こうぜになっている気がする。ぶっちゃけ本当に命大事にでいくなら「シャルがクルタ族〜」のくだりは必要なかったかもしれない。

「兄さん?兄なんていたのか?流星街で一緒に暮らしてたのは家族じゃないんだろ?」

食いつくのそこか!
すぐにハギ兄さんの簡単な説明をする。

「うん、兄さんは五年くらい前に突然現れたんだ。で、兄妹になった」
「…セリ、お前ちょっと落ち着いた方がいいんじゃないか?所々重要な部分を抜かしているだろ。話が分かりにくい」
「いや、重要なところしか言ってない」
「なら、もう少し言葉を足そう」

クロロは国語の先生のように文法がどうたらこうたら言ってきたが、私の頭は小難しい内容は理解できないように作られているので耳から耳へと通り抜ける。今日の夜は何食べよう。
夕飯について考えている間も先生による国語の授業は続いた。

***

「で、緋の眼か?そうだな、興味はある。欲しいとも思っている」

国語の授業から急に話が戻り、ビクッと肩が揺れる。お前こそ文法を学べ。
クロロの欲しいな発言に「じゃあハギ兄さんのあげますよ!」とは言えなかった。後が怖い。
私はやっときた本題に緊張しながら言葉を紡ぐ。

「欲しいって、どうする気なの?」

その私の質問にクロロは驚いたように言った。

「セリ、本気で分からないのか?」

そのままククッ、と笑う。
何がおかしいのかさっぱりわからない私は悪くないよね?これ国語関係ないよね?
クロロはこちらを見て、静かに続けた。

「俺達は旅団という盗賊団だ。欲しいものがあったら……どうするかなんて限られているだろう」
「やめなよ」

無意識に出た。こんなことを言うつもりはなかった。
しかも、まるで小学生女子の委員長がクラスの男子の悪戯を咎めるような言い方だった。もー、やめなよ男子ー!である。
恥ずかしくなったが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
クロロが何か言おうと口を開いた。それを遮るように次の言葉を発する。

「緋の眼っていうのは…人の目なんだよ」

いや知ってるよ、というツッコミがどこからか聞こえたような気がする。

「人体の一部だよ?生きている人間からそれを取るなんて、同じ人間のすることじゃない」
「セリ、知っているか?緋の眼というのは感情が昂った時しか出ないそうだ。その時に死亡すれば瞳の色を保つことが出来る」

クロロは私の目を見て、軽い口調で言った。

「つまり、生きながら目を抉るなんて真似はしない。殺してからだ」
「そういう問題じゃない」

今度は本当に咎めるように言う。
こいつ頭おかしい。前からわかってたけど、完全に流星街にいた頃よりも悪化している。

「生きながらとか殺してからってことじゃなくて、まず目を取るっていうのがおかしいの」

私の言葉をクロロは鼻で笑う。

「そんなの今更じゃないか?俺達が何をしてたか知らないわけじゃないだろ?」
「知ってるけど、…」

私が知っている範囲では宝石とか絵とか、盗む対象はモノばかりだった。
それでもたくさんの人を殺しているし、盗むという行為が許されるものではない。だが、あくまで対象はモノだった。人ではない。

「何の関係もない人を殺して奪うなんてどうかしてる」
「そうか?俺はただ欲しいと思ったから奪うだけだ」

クロロはさも当たり前のように言った。ダメだこいつ早くなんとかしないと。
ドン引きしている私にクロロは爆弾を落としていった。

「セリと俺達の感覚は違う。まぁ、この場合異常なのは俺達だろうが、俺からすればセリも十分異常だよ」

そう言うとクロロは静かに立ち上がった。そのまま一度も振り向かずに去っていく。
私は言われた言葉の意味がよくわからず、かといって離れていくクロロを止めることも出来ず、小さくなるその背中をただ呆然と見つめていた。
私が異常ってどういうことなの。


その後、クルタ族が旅団に襲われた、という話をハギ兄さんから聞いて吐き気がした。
結局私は止められなかったのだ。これは私の主張が弱かったのとクロロは私の言葉になど何も感じなかった、という二つが合わさった結果だと思う。
何を思い上がっていたのか知らないが、私ごときに旅団が止められるはずがない、という事実に直面した気がした。
とりあえずシャルからのメールには死ねとだけ送っておいた。

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