二回目のハンター試験
中々鬱な展開を迎えたクルタ族、キルアのデレ祭り、天空闘技場で190階へ行ったのにまたすぐに知らないオッサンに落とされる…。
様々な出来事を体験し、気がつけば今年もあと僅かとなった。おかしい…時が過ぎるの早すぎない?

カレンダーはとっくに12月になっている。
おいおい、この間ハンター試験受けに行ったばかりなのにもうハンター試験の時期だよ。私はひねくれ者じゃないので、もちろん応募カード提出したけど。
泣かれた前科とホラ吹かれた前科があるので、今回はキルアとハギ兄さんにもハンター試験を受けに行くことを伝えておいた。
キルアはまずハンター試験自体がよくわかっていない感じだったが、適当に説明したら「何があっても諦めんなよ…諦めたらそこで試合終了だぜ…」と言ってきた。某バスケ漫画でも読んだのだろうか。
ハギ兄さんが「え?今年?ふぅん…」と意味深な笑みを浮かべていたのが気になったが、それもシャルから届いた一通のメールによりすぐに忘れてしまった。

『セリって今年もハンター試験受けに行くよね?俺も行くから』

ええー!?
次いで送られてきたのは当日の集合場所と時間だった。一緒に行くことは確定らしい。
ここまでが1994年12月31日までの話だ。


年が明けて1995年1月7日。決戦の日。
前回は会場にたどり着くまで結構大変だったのに今年は迷うことなく、すぐに到着した。何故かと言えば全部シャルが調べてきてくれたからだ。

「遊園地に会場があるなんてね。前もこんな感じだったの?」

来る途中にワゴンで買ってきたジュースを飲みながら、シャルが聞いてくる。

「前は雑貨屋さんっぽいところだったよ。奥の方が試験会場に繋がってたみたい」
「へぇ、毎年試験会場は替わるって話、本当なんだ。面倒くさいことするね」

シャルの言葉に頷きながら、私はほぼコーンだけとなった残りちょっとのソフトクリームを食べていた。
今、私達はエレベーターの中にいる。遊園地内のジェットコースター待ちの列に並び、乗る時に係員さんに「どのくらい速いの?」と聞いた結果このエレベーターに案内された。ジェットコースター乗りたかったな。
まぁ、ジュース買ったりソフトクリーム買ったりしているので気分だけは遊園地に遊びに来たって感じだ。
私達は真面目にハンター試験を受験する気があるのだろうか。二回目の私はともかくシャルは初受験のくせにリラックスし過ぎだろ。

エレベーターが止まったのと私がソフトクリームの最後の一口を食べたのは同時だった。
どうやら下に降りていたらしい。エレベーターが開いてすぐに視界に広がるのは、相変わらずガラの悪い受験生達で前回同様こちらをジロジロと見てきた。すぐに興味を失う人もいれば、やっぱりずっと視線を送ってくる人もいる。
逆にガン飛ばしてやろうか?と思ったが、シャルがまったく相手にせずにマスコットキャラクターのところに番号札を貰いに行ってしまったので私も慌てて後を追った。何あの大人な対応。

「165番?すごい前の方になってる」
「前って、去年は何番だったの?」
「確か500過ぎてたと思う。やっぱり早かったんだね」

渡された番号札を見て驚く。迷わなかったもんな、今年は。
もし今回落ちたら次回からはシャルにナビしてもらおう、とこっそり胸に誓っていると見覚えのある男の人を見つけた。

「あっ!トンパさん!」
「!ぅお!……お、お前か」

そう、防御力53万のトンパさんだ。私がやや大きめの声で名前を呼ぶとあちらも気づく。
片手にジュースを持っているので多分今年も同じような作戦を使っているのだろう。
トンパさんは私の横のシャルに目をやるが、諦めてジュースをしまった。仕掛けを知っている私がいるからだと思う。
シャルは「誰?あの人」と不思議そうに言った。といってもそこまで興味もなさそうだが。
そんなシャルと私に、トンパさんはぎこちない笑顔で空いているもう片方の手を軽く上げると、そそくさとその場から立ち去ろうとした。
離れていくトンパさんに向かって、私はシャルへの紹介も兼ねて叫んだ。

「トンパさーん!去年は睡眠薬入りのジュースありがとうございましたー!」

この言葉に、既にトンパさんからジュースを受け取って飲んだと思われる人々が咳き込んだ。
トンパさんが「ばっ!お前馬鹿!」と叫んでいたような気がするがきっと空耳だろう。私はちゃんとお礼の言える礼儀正しい良い子なのだ。

トンパさんに仕返し?っぽいものをやってから、私達は周りの空気も読まずに昆虫界のリアルファイト最強は何かというバカ話で盛り上がっていた。
精神統一をしている人もいるだろうから一応小声で話していたが元々話す人が少なく静かなので、近くの人達には丸聞こえだったらしい。周囲からの「お前らそんなの家帰って話せよ」という視線が痛かった。
なんとも言えない空気の中エレベーターが鳴り、新たな受験生が到着したことを知らせる。反射的にそちらに顔を向けると現れたのは、なんとメンチちゃんだった!

「来た来た!」

待ってました!と向こうに大きく手を振れば、メンチちゃんもこちらに気がつく。
その突然の行動にシャルはやや驚いたような顔をし、私と同じようにメンチちゃんを見た。

「何?知り合い?」
「ほら、私の新しい美人友達だって!超可愛いでしょ?」
「あぁー本当だ、セリの500倍くらい可愛いね」
「ムカつくけど否定できない」

笑顔で言うシャルに軽く殺意が湧いたが、その言葉は紛れもない事実である。美人さんっていいね。
そんな悲しいやり取りをしている間にメンチちゃんは既にマスコットキャラクターから番号札を受け取り、こちらに向かっていた。その表情は驚きに満ちている。どうした。
やってきたメンチちゃんは「久し振り」と短く言うと私とシャルを交互に見た。
これは紹介タイム、唯一お互いを知る私の出番だと片手を上げて意気揚々と話し始める。私はメンチちゃんに会えてテンションが上がっているのだ。

「メンチちゃん、久し振り!これはシャルナークね」
「え?俺のこと“これ”扱い?」
「痛い痛い髪引っ張らないで!それでシャル、この美人はメンチちゃん!」
「メンチちゃんね、よろしく。俺のことはシャルでいいから」
「どうも。あたしもメンチでいいから……セリ、ちょっとこっちに来て」
「え、何?メンチちゃん」

二人が普通に挨拶を交わしたと思ったら、何故か私はメンチちゃんに腕を引っ張られて離れた位置に連れていかれた。
私はポカーンだし、シャルもポカーンである。

「どうしたの、メンチちゃん?…あっ、こ、告白とか…?キャー!」
「違うわアホ」

恥ずかしい!と顔を覆えば冷静なツッコミ。流石だ。
一人小芝居をする私を呆れたように見た後、メンチちゃんは「それより!」とやや興奮気味に言った。

「あんた彼氏連れなの?早く言いなさいよ。気まずいじゃない、あたしが!」
「え?なんのこと?」
「シャルよ、シャル!」

私の肩に手を置いてそう言うメンチちゃんは、口では気まずいと言いながらも随分楽しげな空気を纏わせていた。
ああ、なるほど。そういうことか。待機中のシャルを目をやってからメンチちゃんに向き直り、ゆっくりと手と首を振った。

「いや、奴は彼氏じゃなくて友達。一番の親友だと思ってたけど、最近は私の中の友人ランキングで二位に落ちてきてる」
「えっ?なんだ…」

苦笑しながら、そう言うとメンチちゃんは少しつまらなそうな顔をした。女の子って恋バナ好きだよね、私も好きだけど。
申し訳ないがシャルとは絶対そういう関係にならないと思う。ストーカー行為とかクルタ族関係で私の中ではシャルの好感度が下がってきているからだ。奴に限らず旅団とは価値観に大きな違いがあることを再確認した。
なので現在の友人ランキング一位はナズナさんだ。友達じゃなくね?ってツッコミは無しで。
「なんだ、つまんね…」と本音を出すメンチちゃんはポニーテールにした私の髪をぐいぐい引っ張る。

「ちなみにメンチちゃんはトップ5に入っています!おめでとう!」
「あっそ」

反応薄いってどういうことなの。

[pumps]