二回目のハンター試験
その後シャルの元へ戻り、三人で輪になって雑談を再開する。
昆虫リアルファイトの話は他の人たちの視線も痛いし、メンチちゃんも嫌がるとおもったのでハンター関連の話になった。

「へー、美食ハンターなんてあるんだ。初めて知ったよ」
「結構メジャーな方だとは思うけどね。まあ、ハンターっていえば真っ先に出てくるのは賞金首ハンターとかかしら」
「私も教えてもらうまで美食ハンターって知らなかったなぁ。ていうかハンターにそういう種類があったこと自体初耳」
「俺はそこまでじゃないけど、近いかも。そんなに興味もないし」
「あんたら、それでよくハンター試験受けようと思ったわね…」

呆れたようにメンチちゃんが言う。確かにハンター試験とはハンターになりたい人が来るものだ。
具体的なハンターの種類も知らず興味もないとか言い出す奴が受けに来るのは、美食ハンターという目標があるメンチちゃんからすれば信じられないことだろう。ごめんね、金欲しさで受けに来て。
心の中でこっそり謝るとメンチちゃんが私を見ながら、予想もしていなかった言葉を放った。

「ま、セリは父親捜すためだからわかるけどね。ライセンスがあれば融通利くし…」
「えっ?父親?」
「あ!」

メンチちゃんの言葉にシャルがきょとんとしてこちらを向く。
そうだ!そういえば私ってハンターの父親を捜すためにハンター目指してる設定だった!普通に忘れてた!
言った私が忘れているのに約一年経ってもしっかり覚えているメンチちゃん、侮れない。そのメンチちゃんはシャルの反応に「知らないの?」と今にもあの嘘話を私の代わりに説明しそうな雰囲気だ。
どうしよう、ついでにシャルも騙しとく?いや、でも下手なこと言って後で色々調べられても面倒くさいし。
かといって今この場で真実を言えば多分メンチちゃんに捨てられる!前回の試験での感動ぶち壊しである。
どうする?シャルを殴って気絶させる?実力的に無理!メンチちゃんを殴って気絶させる?感情的に無理!
私が一人葛藤していると天からの助けがきた。

『只今を持ちまして、ハンター試験受付を終了させて頂きます』

どこからか、少し高めの女性の声で放送が入る。
ナイスタイミング!素晴らしい!姿は見えない放送の人にグッ、と親指を立てた。日頃の行いが良いからだろう。流石私だね。
そして話題チェンジとばかりに「一次試験なんだろうね!」とやや大袈裟に二人に言った。
メンチちゃんは私の嘘話を知っていて信じてくれているので、特に気にもせずそのまま話にのってくれたが、シャルはジト目でこちらを見ていた。気づかないフリ気づかないフリ。
不自然に目を逸らすと放送が終わり、エレベーターが到着する音がした。

「棄権者ゼロ。449名全員参加ですね。それでは皆様、こちらの部屋へ移動をお願いします」

私達がここに来る時に使ったエレベーターから試験官だと思われる背の高い女性が現れた。声色的に放送の人とは別人だ。
金髪のショートカットに整った顔立ちの彼女は背の高さも相俟って、モデルのような存在感を発している。華やかな外見は街で見かけたらきっと立ち止まってしまうだろう。
女性はエレベーターの近くの壁に触れた。すると、どういう原理かは知らないが大きな音をたてて壁が動き、彼女の言う部屋への入口が現れた。エレベーター付近の受験生達が中へ進んでいく。

「中へ入ったら、ご自身の番号札に書いてある番号と同じ席に着いてください。全員の着席を確認次第、一次試験を開始致します」

席?中の様子がわからない後方の受験生達は、その言葉にざわめく。席って席だよね……席?

「シャル、メンチちゃん、どういうことだと思う?」
「そうだなー。1.ペーパーテスト、2.ペーパーテスト、3.ペーパーテスト。好きなの選んでいいよ」
「それ全部ペーパーテストじゃない!………冗談よね?」

シャルのツッコミどころ満載な三択に百点満点のツッコミをいれた後、メンチちゃんが恐る恐る聞く。シャルは特に焦りも見せず何でもないような顔で「冗談半分、本気半分かな」と言った。

「一応、事前にハンター試験について調べてみたんだけど、過去にも課題にペーパーテストが出たことあるみたいだし」
「えぇ、それ本当?ハンター試験なのに?」
「うん。どんな試験にするかは試験官の自由だから、あり得なくはないよ。去年だって一次試験は○×クイズだったんでしょ?」
「あー、そういえば……アレ随分ふざけてたわよね」
「うわぁ、どうしよう。私バカなのに」
「知ってる」

頭を抱える私にシャルは深く頷きながら言った。ショックだった。
メンチちゃんでさえ、困った顔をしているのに何故シャルはそんなに平然としているのか。1.頭が良いから余裕、2.もう諦めている、私は2をごり押ししたい。

***

「ねぇ、本当にペーパーテストっぽいんだけど…」

部屋の中に入るなり、メンチちゃんがげんなりした様子で言った。
広い空間に並べられた長机、椅子。各自の席には消しゴムと二本ずつ置かれたシャーペン。元女子高生には馴染み深い受験会場だ。私達は入試でも受けにきたのか。

席に着かないことには試験は始まらないので、私達は素直に自分の番号の席へ移動する。メンチちゃんは203番なので少し離れた席だ。くそ、これじゃ三人でカンニングが出来ないじゃないか!
私とシャルの席は全体的に前の方だった。隣との距離は人が多いからか、そこまで離れていない。やろうと思えば簡単にカンニングが出来そうな距離だ。
他の人達もそう思ったのか、ほとんどの受験生は大人しく席に着く。いかにもパワータイプの脳筋っぽい方々はだらしなく座り怖い顔をしているか、ブツブツ言っているかのどちらかだった。みんな怖い。

ある程度時間が経ち、ようやく受験生全員が着席した。
いよいよ一次試験か…とドキドキしているとそこで予想外の出来事発生。

「それでは皆様、すぐに一次試験の試験官が参りますので暫しお待ちください」

と言ってあの金髪ショートカットの美人さんが私達が入ってきた入口から部屋の外に出ていってしまったのだ。しかもその入口はすぐに塞がれた。あの人が試験官じゃなかったの?
これには皆も驚いたようで、さっきの移動の比ではないほどのざわめきが起こる。私もこのざわざわに参加しようと隣に座るシャルに話しかける。

「ねぇ、試験官あのお姉さんじゃなかったんだね。私の好みのタイプだったのに…」
「いや、そんなの聞いてないから。待っていれば本当の試験官が来るんだろうけど、この分じゃ一次試験が始まるまで時間かかるだろうね」

シャルは頬杖を着いた状態で退屈そうに言った。
試験官だと思っていたお姉さんが急にいなくなり、しかも入ってきた入口まで塞いでしまったため、何人かの受験生は席を立って室内を動き回っていた。

「とりあえず座っとけばいいのに。生き埋めにされたわけでもないんだからさ」
「でも出口ないし、実質生き埋め状態じゃない?」
「あるよ、ちゃんと後ろに。風が入ってきてるし」
「えっ?風を……感じる……みたいな?」
「セリって意味わからないこと言うの好きだよね」

シャルは呆れたように言った後、ため息をつく。今のは私も自分が悪かったとは思う。
手を伸ばして机の上にうつ伏せになる。眠いから寝ちゃおうかな、と思った時だった。
後ろの方からガコン、と何かが開くような音がする。後方の受験生達のざわめきが大きくなるのと同時に床を歩く音となんだか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「これより一次試験を開始致します。立っている受験生は速やかに着席するように。僕が一番前に行くまでに席に着かない場合は失格にしますから、そのつもりで」

そこまで聞いた時、私は勢いよく顔を上げた。一番後ろから前まで、結構な距離があるというのにその試験官は既に一番前にいて、私達受験生を見ていた。

「6番、52番、101番、112番、230番、428番。今言った番号の受験生は全員失格です。後ろの出入口から退室してください」

その試験官が素晴らしい笑顔でそう言うとこの部屋の全員が黙った。もうすぐ一次試験が始まるからとかじゃない。おそらく試験官の顔を見たからだ。
遠目からでもわかるその美しさは受験生たちに言葉を失わせた。作り物みたいに綺麗な顔をしている男だった。
一生に一度会えるか会えないかレベルだろう。ちなみに私はこの最高レベルの美形の家に住んでいる。

新たに姿を現した試験官はすごく…ハギ兄さんです……。

[pumps]