変態と友達
イルミの知り合いヒソカさんと謎の邂逅をした私はコンビニで買い物かごに大量のお菓子とジュース時々つまみを入れていた。キルアとのお別れ会のためだ。
種類もお金も気にせず目についたものをどんどん放り込んでいく。プリンやケーキなどのデザート系も一通り買っておこう。
すれ違う人はみんな私の買い物かごを二度見して「!?」となっていた。確かにコンビニでここまで買い物する人はあまりいないだろう、と思う。
でも私もキルアもお菓子好きだし、別に一日で全部食べるわけでもないので変なことではない。キルアはセレブ育ちのせいかチープなお菓子やジャンキーなものを好む傾向にあるので店選びも間違っていない。

それなりにたくさんお菓子を入れた買い物かごを持ってレジに向かう。店員さんが総動員でお菓子やジュースを袋に詰めているのを見て申し訳なくなった。売り上げには貢献しているが同時にすごく面倒な客だろう。
お金はとっくに払い終わっているので暇だ。袋を受け取るまでやることがないので、何気なく店の外に視線をやると、少し離れた場所でこちらに背を向けて立っているキルアを見つけた。

詰め終わった両手いっぱいの袋を持ち、外に出る。特に気配絶ちはせずにキルアの近づく。結構近くまで来ているのに気がつかない。
キルアは楽しそうに笑い合っている男の子達をどこか寂しそうに眺めていた。
後ろから声をかける。

「キルア」
「!セリ……なんだよ、びっくりした」
「何してるの?」
「別に…」
「エリカ様かお前は。素直じゃない子にはお菓子あげませんよ」

たくさんのお菓子がつまった袋をほれ、と目の前に出すとキルアはパチパチと瞬きをした後、凄まじいテンションで叫んだ。

「えええっ!?なにこれなんでこんなにお菓子あんの!?なにそれ食べていい!?食べるぜ!」
「早い早い早い」

ものすごい食いつきを見せ、中身を漁ろうとしたキルアから両手を後ろに回し袋を遠ざける。

「これはお家で食べる分だから今はダメ」
「家に行ったら食べていいってこと?じゃあ早く帰ろう!」

キルアは嬉しそうに私からいくつか袋をひったくった。そして私を置いて我が家の方向へ足を向けると、一人ずんずん進んでいく。お、おお……確かにそうだけど…。
さりげなく早歩きで急いでいる様子にそんなにお菓子が食べたいのか、と苦笑する。鍵がなきゃ家には入れないんだが。
私には急ぐ理由はないので、キルアの後をゆっくりと追いかけた。

「キルアー」
「なにー?」

なんやかんやで子供の足は遅い。キルアは同年代の子供に比べれば速いが、私よりは遅かった。ゆっくりと歩きつつもある程度距離を詰めた私は少し前を行くキルアを呼ぶ。
キルアは振り向かずに前を向いたままのんびりとした返事を返した。人と話すときはこっち向けよ、と思いつつ話を続ける。

「私200階に行ったのー」
「知ってるー。しねー」
「生きたいー」

ちょっと物騒な言葉が聞こえたが語尾を伸ばしているせいか、のほほんとした空気は崩れなかった。
やはりキルアは私が200階に到達したことを知っていたらしい。なら話は早い、と本題を伝える。

「で、実家に帰ろうと思うのー」

ドサッ!という音が響く。
これまでの会話のノリのまま語尾を伸ばして言うと、前を行くキルアは買い物袋を落とした。

「キルア、袋はもっと丁寧に扱って。ケーキが崩れちゃう」
「帰るって……ここにはもう来ねーの…?」
「うん。ここって家から遠いし、来るのめんどうだから明日くらいでお別れかな」
「…………」

足を止めてその場に立ち尽くしているキルアに近付きそう言うと、キルアは俯いてそれっきり黙ってしまった。
あれ、これってもしかして寂しがってる?とちょっと嬉しく思いつつ口を開く。

「キルアくーん、ひょっとして私がいなくなって寂しいとか思ってる?」
「うん」
「キルアが私相手にそんなこと思うわけないか……………あれ?」

今この子「うん」って言った?
下を向いているキルアの顔を覗き込むとキルアは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「ええ!?あ、え!?ごめんなさい!!」

かつてない状況にどうしたらいいのか分からず慌てて謝る。
なにこれどういうことなの?てっきり調子に乗んなよ!とか言いつつビッキビキに変化させた指で襲いかかってくるかと思っていたのにこの展開何!?完全なるデレじゃん!!
混乱している私を置いて、キルアはぽつりぽつりと話し始めた。

「俺、嬉しかったんだ」
「何が?」
「…今まで家ではさ、家族くらいしか遊び相手なんかいなくて。人はいっぱい居るのに、一緒に遊んでくれる奴なんて、ほとんどいなかった。みんな、立場が違うって」

その言葉をキルアが落とした袋を拾いながら聞いていた私はポカン、とした後すぐに納得した。
そうだ、ゾルディックは子供を立派な暗殺者に育て上げるためにお前に友達なんていらねーよ教育を施しているんだった。ただでさえ、拷問とか一般家庭にないイベントがあるというのになんて恐ろしい家だろう。
余計な感情はいらないとか馬鹿なこと言ってないでもっと情操教育に力入れろって。手遅れのイルミお兄さんを見ろ。

「セリは、俺と兄弟じゃないんだろ?」

心の中でゾルディック家にツッコミを入れている間にキルアは小さな声で私に確認するように言った。それに対して頷くと「だから…」と続ける。すでに目からは涙が溢れていた。

「家族以外で、俺と仲良くしてくれて、すごく嬉しかったんだ」

ぐすっ、と鼻を啜る。
そんなキルアに私はもう何をしたらいいのか分からなくて、その場に膝をついてキルアの顔をただ見つめていた。
えーっと、なんか言わなきゃだよね。一度空を仰ぐ。なんだか雨が降りそうだ。
しかし私に気の利いたことなど言えそうにないのだが、大丈夫かな。
一先ず状況(キルアの考え)を整理しようと口を開く。

「つまりキルアは私と友達になれて嬉しくて、このままお別れは嫌ってことだよね?」
「……うぅっ、…ともだち?」
「そう、友達。あっ、鼻出てるよ」
「なに、それ」
「え?」

ポケットから取り出したティッシュをキルアの鼻にあてると鼻声のキルアは眉を下げつつ不思議そうに言った。
こいつ、友達という言葉を知らない……だと……?

「何って、えーっと…自分といつも遊んでるような仲良い子のことを友達って言うんだよ。知らない?」
「…はじめて、知った」

泣きながら話すキルアに愕然とした。
ゾルディックって本当に友達を作るとかいう概念がないんだな。まず言葉すら出さないとか怖いわ。
相変わらず、ぐすぐす言ってるキルアに今度はハンカチを押し付けながら、何か分かりやすい友達の例はないかと頭を捻る。
ゴンとはまだあってないもんなー、ゴンがいたら二人のその関係が友達ってやつだよ!って言ってやれ…………あっ!
ここであることを思い出した。キルアは私と仲良くできて喜んでいる。私もキルアとは仲良くできたと思っている。
つまり私たちって友達じゃん!さっきも言ったけど!

「私とキルアは友達だよ!」

明るくそう言った私のことをキルアはハンカチを両目に当てていて見ていなかった。

[pumps]