変態と友達
結局デレたキルアの「帰らないでよぉ」なオーラに負けた私は、キルアが200階に行くまで天空闘技場に残ることになった。
まぁ、帰って何かすごくやりたいことがあるわけではないし、寂しがって泣いている子供を置いて行くのは酷いと思うし、あの子はもうすぐ200階に着くだろうからいいかなぁって。

しかし、なんだかキルアにうまいこと騙された気もする。
だってあの子家に帰って私がしばらく残るって約束してからは、すごい笑顔で一人でずっとお菓子食ってたぞ。あんなにたくさん買ったのに全然残らなかったし、私の分もほとんど取られた。
今となってはすべて作戦だったのではないかと勘繰ってしまう。

「セリー!」

そんなキルアくんは最近調子が悪いようだ。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえたので、ゆっくりと振り返るとキルアが手をブンブン振りながらこちらに駆け寄ってきた。
ここは天空闘技場、キルアはたった今180階で筋肉モリモリのおじさんとの試合に負けたばかりなのに無傷で走れるくらい元気。ついでに言っておくと試合開始一分であの子は負けを宣言した。
一言いいですか?お前分かりやすい手抜きやめろ。

私の目の前まで来てニッコニコしてるキルアは「俺、温泉卵ってやつ食べてみたい!セリ作れる!?」とか言い出した。急すぎるだろ、どこでそんなもん聞いたんだ。
流石子供は色んなものに興味が移るな、と思いつつキルアの額を軽く小突く。はぁ、と溜め息をつきながら注意の言葉を口にした。

「キルア、あんまり不真面目にやってると保護者に連絡するよ。温泉卵も作れません」
「えー!!って保護者……?」
「シルバパパとかイルミお兄ちゃんとか」
「ぎゃあああ!!ごめんなさいやめてえ!!!」
「え!?」

少し強めに言った私の冗談にキルアは悲鳴をあげながら頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
えっ、何!?私トラウマスイッチ押しちゃった感じなの!?お前何されたんだよ!?
真っ青になって私の足元でガタガタ震えているキルアに通行人の皆様の視線が集まり、すぐに私に「え?こんな子供に何したの…?」という訝しげな視線が突き刺さる。
何もしてない!したかもしれないけど何もしてない!焦りながらなんとかキルアを落ち着かせようと口を開く。

「ごっ、ごめんねー、キルア!そんなに二人が嫌だとは思わなくて!あっ、じゃあキキョウママに連絡しようか!」
「もっとやめてえ!!」
「悪化した…!?」

半泣き状態で叫びながら勢いよく立ち上がったキルアは、私の両手を掴むと「これから真面目に頑張るから連絡はやめてください!!」と凄まじい速さで私の手を上下させた。ちぎれるかと思った。
名前出しただけで息子を取り乱させるゾルディック家……。

「じゃあ、これからは頑張ってね。全力で戦うんだよ」
「ぐすっ、うん…」

そう言ってゆっくりとキルアの手を引いて歩き出す。ちょっと周りの視線が痛いので今日はもう帰ろう。
と思って歩きながら、涙を拭いているキルアにしっかりと釘をさしておく。

「明日から、ちょっとでも手抜きしたらシがつく人とキがつく人とイがつく人に連絡いくからね」
「やだ……」
「うん、嫌だよね。きっと悪い子はいねがぁ〜!!って三人が出刃包丁持って襲いにきちゃうよ。超怖い」
「武器使用可……!?」
「そりゃ武器がある方が素手より強いし」
「そんな…どうしよう……絶対勝てない…」
「豆かきびだんご用意しとけば、撃退もしくは仲間になるよ」
「仲間にはいらない…」

私と手を繋いで歩くキルアは鼻を啜りながら弱々しく言った。仲間になったらすごく頼もしいのになぁ、と思う。
暢気なことを考えている私の隣で「じゃあ豆か…」とキルアが呟いた。
なんか色々混ざっちゃってるんだけど大丈夫だろうか。そもそも私はゾルディック家の連絡先を知らないのだが。

[pumps]