変態と友達
私に脅されて真面目に頑張るようになったキルアは先日8歳の誕生日を迎えた。つまりキルアと初めて会ってからもう二年経過したわけだ。時の流れは早い。
そして年齢だけでなく肉体、戦闘技術的にも成長したキルアは本日、苦戦を強いられつつも天空闘技場200階に到達した。偉そうな言い方になるがよく頑張ったと思う。
試合を終えてこちらにやってきたキルア少年は、200階に行った達成感とこれで実家に帰る=私とお別れの二つから、なんとも言えない微妙な表情を浮かべていた。

「これでお別れか、元気でねー」
「なんでお前そんなに軽いんだよ!俺達友達なんだぞ!あの日拳で確認した友情はどこにいった!」
「いつの話だそれ」

軽い口調で言う私にキルアが地団駄を踏みながら目を吊り上げて言った。
この子の最近お気に入りの言葉:友達、友情。分かりやすい子だなぁ、と自然と頬が緩む。

「そうだね、友達だねぇ」
「なんでそんなにニヤついてんの?なんか腹立つ」
「え?ああっ、ちょっと待ってよキルアー!」

私からの生暖かい視線に気づきムッとした表情になったキルアは背を向けて歩き出す。
しまった、最近デレが多かったから油断してた。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。子供は難しいなぁ、と思いながら後を追う。
さて、これでキルアは実家に帰ることになるが、一体どうやって帰るんだろう。膨れっ面のキルアの斜め後ろを歩きながら首を傾げる。
まだ8歳なんだから一人で飛行船に乗って帰るのは無理なはず。ということは誰か迎えにくるのかな?
でも私はゾルディック家の連絡先を知らないから、キルアが200階に行ったと教えることが出来ない。
ってことはキルアの近況を知らないゾルディック家から、すぐに迎えは来ないんじゃないか?

ここで少し歩みが遅くなる。
あれ?シルバさんは最初になんて言ってたっけ?

初めてキルアと会ったときのやり取りを思い出す。確かシルバさんは200階に行くまで帰ってくるな、としか言ってなかった気がする。
え、それってまさか一人で帰ってこいって意味じゃないよね?家に帰るまでが修行とか……シルバさんなら言いそうだけど、いやでもそれは流石に8歳には可哀想っていうか…。

「ん?」

ズカズカと歩くキルアの後ろに続きながら一人シルバさんの言葉の意味を考えていると、どこからかこちらを見張っているような人の視線に気が付いた。
かなり分かりにくいが、間違いなく誰かが私達を見ている。驚いて、相手を確認しようとこっそり目だけを動かして周囲をを見回すと、私達から大分距離のある斜め前の位置に明らかに闘技場には浮いている黒スーツ姿の男性が居た。
あいつか?と思ったと同時にバッチリと目が合う。すると男性は一瞬でその場から消えてしまった。
アッ、忍者!じゃない、常人よりも遥かに素早い人なんだろう。つまり相当な実力者だ。

なんでそんな人が私達を見ていたんだ?
その答えは次の日の朝、家に泊まっていったキルアとランニングをしようと外へ出た時にわかった。

「久しぶりだね二人とも」
「あれっ、イルミ」
「キャアアアア!!」
「!?」

標準装備の無表情で私達の前に…というか家のドアの前に立っていたのはイルミだった。
本人も言う通り久しぶりな彼の姿を目にした瞬間、キルアが朝だというのにご近所さんへの迷惑も考えずに叫んだ。
子供特有の声の高さも相俟ってまるで痴漢にあった女子高生みたいだった。そのまま光の速さで私の後ろに隠れる。
なにこの反応。予想以上なんだけど。

「キルア、大丈夫?」
「あ、兄貴がなんでここに…」

小刻みに震える手で私の服を掴み、怯えた声で言う。ビビりすぎじゃないの?マジでゾルディック家では何が起こってたの?
朝っぱらからすごい展開だな、と少し他人事のように思っているとイルミが口を開いて疑問に答える。

「なんでって、キルが200階まで着いたって様子を見に行った使用人が言ってたから迎えに来たんだよ」

淡々とした様子で話したイルミの言葉に、昨日の出来事を思いだしてポンっと手を叩く。

「あの黒スーツか!」
「うん。気付いてたんだセリ。意外ー」
「何その言い方バカにしてんだろ」

無表情のままトーンも変えずに語尾を伸ばして適当な感じで言うイルミ。なんだろう、イライラする!
しかしイルミは青筋を立てている私を無視して「セリごときに気付かれるなんて人として終わってるな」と酷いことを呟くとすぐに私の後ろのキルアに目を向けて言った。

「じゃ、帰ろうかキル」

イルミがそう言うと私の服を掴むキルアの手に力が入ったような気がした。

[pumps]