変態と友達
イルミは後ろに隠れるキルアを見て次に私を見るとほんの一瞬、一瞬だけ、というか気のせいかもしれないけど、眉をピクリと動かした。
その僅かな変化に驚く…前に私の顔面めがけて何かが勢いよく飛んできた。

「!?」

飛んできた何かをマトリックス状態(つまり仰け反り)で間一髪避けた。だが、そんなことをすれば私の頭は自然と後ろに隠れていたキルアの頭とぶつかるわけで。

「うわあああ痛っ!!!」
「ギャッ!!」

ゴツン!という大きな音が気持ちいいくらいに綺麗に響く。
それだけではなく、仰け反った私は普通に考えてそこから元の体制に戻れるわけがないので一気に後ろに倒れ込んだ。それに巻き込まれ下敷きになるキルア。

「……バカなの」

こちらを見下ろすイルミさんの冷めた目がすごく……怖いです。

「バカっていうかね、誰かさんが何も言わずに投げてきたものを避けようと思って起きた結果なんだけど」

しかし、そんな目に怯む私じゃない。いや、ちょっとビクッてなったけど。
急いでキルアの上から退くと、若干ビビりつつもお前のせいだろと伝えた。
それからイルミの方は見ずに倒れていたキルアの手を掴み、もう片方の手で頭を支えて上体を起こす。
キルアは「重かった!潰れるかと思った!」と失礼なことを言ってきたが、小二の上に高一が全体重をかけて倒れ込んできたら確かに潰れると思ってしまうだろう。しかも下は硬い床だ、痛かったろうに。これはどう考えても私が悪いので素直に謝る。

二人とも床に座った状態で私がキルアに怪我がないかを確認しているとき、上から突き刺すような視線を感じた。
誰だ!といってもまあ、イルミしか該当者はいない。
何、と言おうと上を向いた時またも私の顔面めがけて何かが飛んできた。

「うわあぁああ!?」

それを今度は斜め右前ダイブし、その後ゴロゴロと高速で転がることによって回避。
投げたのイルミだよね!?何を投げてきたアイツ!?
さっきまで私がいた場所に目をやるとまち針のようなもの(それにしては大きい)が針山のごとく大量に刺さっていた。何あれ!?
凝をして見てみれば、しっかりオーラを纏っている。ということはイルミの武器…?そういえば昔ゾルディック家に預けられていた時も針みたいなのを常備していたけど、武器にしちゃったの?

一先ず立とうとするも動けない。やべ、腰抜けた。
仕方なく上半身だけ起こして「ふぅ、疲れた…」という表情で座っていると、同じく座った状態のキルアがキラキラした目でこちらを見ていることに気が付いた。

「兄貴の攻撃を避けた奴、初めて見た…」

と驚いたように言うんだから、こっちもびっくりだ。
やっぱりアレ攻撃なのか、設定上のお兄さんどういうこと?設定上の妹の顔面に武器投げてくるとか悪意しか感じねぇぞ。
イルミを非難しようと口を開くも、私が言葉を発するより早くキルアのやや興奮気味の声がかかる。

「セリすっげえ!見直したすげええ!!」
「えっ、ぇえ?そう?あは、いやー、それほどでもな」
「手加減してやったからでしょ、大したことないよセリなんて」

照れる私の言葉を遮り、そう言うとイルミはプイッと横を向いた。え?なにその反応。
横を向いているイルミは無表情だが、そうは見えなかった。なんというかちょっとイラっとしてる?

私もキルアもぽかん、とする。こんなイルミ見たことないんだけど。
どうしちゃったのこの人?とキルアと目を見合わせて心の中で尋ねると、イルミが私に対して凄まじい視線を送ってきた。視線で人を殺す、ってこういうことか。また一つ賢くなってしまった。
私にだけ行われる攻撃、殺人的な視線。そこで一つの答えが浮かんだ。

ひょっとして私とキルアが仲良くなってるのに嫉妬してんじゃないの?

[pumps]