自分探しの旅
キルアとの別れの後、天空闘技場は制覇済み(200階までだが)なので約三年振りに我が家に帰ってきた私は四六時中ゴロゴロしていた。やることがないのだ。
暇だなぁ、今の流星街に友達いないもんなぁ。そう思いながら、すっかり窮屈に感じるようになった部屋でゴロゴロゴロゴロ。
超高速回転。壁にぶつかっては方向を変えてゴロゴロゴロゴロ。

「こんな真っ昼間からゴロゴロして!働けよ!メガネに仕事でももらってこい!」

そしたらナズナさんにキレられた。
回転を止め、横になっていた体を起こす。我が家の玄関である小さなドアから入ってきたナズナさんは腕にペットボトルを抱えていた。

「そんなこと言って。ナズナさんだって、毎日ゴミ拾ってメガネと世間話してスズシロさんにパシられてるだけじゃん。もう40近いんだし老後のために働けば?」
「俺は昔たくさん働いたからいいの」
「お金あるんだ?」
「貯金はそれなりに」
「じゃあ、なんで未だにこんなごみ溜めで生活してるの?」
「落ち着くから」

話しながらペットボトルを段ボールに詰める。私に向けている背中は少し寂しそうだった。
…例のトラウマか。まだ傷が癒えてないんだろう。外出るのが嫌になっちゃったんだね、それ典型的な引きこもりだよ。
とは言えないので可哀想に…と出てもいない涙を拭うフリをしながら静かに背中を見つめていた。

「天空闘技場はどうだった?」

すると、そのまま段ボールの中身の整理を始めたナズナさんが急に振り向いて思い出したように言う。

「どうって?」
「だから修行になったか、って」
「……ああ!うん。なったなった」
「……………」

一瞬、なんのことかわからなかったが、すぐに首を縦に振った。
キルアとかハンター試験とか色々あったせいで当初の目的をすっかり忘れていた。そういや私、念無しでも戦えるようになるために天空闘技場に修行に行ってたんだった。
うっかり〜、と思っているのがナズナさんにも伝わったらしい。お前何しに行ってたんだよ、と言いたげな目を向けられたので曖昧に笑ってごまかす。

「で、どう?ハンター試験受けたら合格できそう?」

その言葉にさらにハッとする。そうだ、元はと言えばハンター試験を受けるために念無し天空闘技場修行始めたんじゃん。
口元に手をやる。私が勝手に試験を受けていたことをナズナさんは知らないのだ。やば、既に二回落ちてますとか言えねぇ。
困り果て「えっとぉ…」と返答が出来ないでいる私を不思議そうに見てくるナズナさん。
二回受けてみてハンター試験は体力勝負だけではない、ということを痛感した。次回の試験に合格できるかは微妙だ。
でも受からない…とか言ったら、また「修行しろよ」って言われそうだな。それはそれでめんどくさいなぁ。
受かるか受からないか。どちらかを答えれば良いのに言おうとしない私を見て、ナズナさんは眉をひそめる。

「あと三秒で答えないと夜飯抜き」
「受からないと思う」

即答した。飯抜きはツラい。
しかしナズナさんはというと「ふぅん」と一言。どうでもよさそうな態度に少しイラついた。ええー、お前が聞いてきたんだろ。

そこから私達の間に会話がなくなった。ナズナさんはそこまで喋るの好きじゃないし、私も特にネタないし。
床に座ってボケッとナズナさんの後ろ姿を見ていると整理していた段ボールを隅に置いて、箒を取ると掃除を始めた。
それを見てきれい好きだなぁ、としか思わない私。

……私、本当に何もしないな。
今更ながら自分が半ニート化していることを自覚する。自分でご飯も作らないとかヤバイよね。
ナズナさんの言うようにメガネに仕事貰って働く?でも一度何も仕事しない生活を体験しちゃったからツラいんだよね。
なら、せめて家の外に出て何かしてみるか?いや何をだ。流星街ってゴミしかないし、何かって言うほど出来ることない。
じゃあ、外に出て何かしてみる?だから何かってなんだよ。やりたいことないよ。
それじゃあ、ちょっとかっこよく言って自分探しの旅とか……キルアも漫画でそんな理由でゴンと旅に出てたよね、アレいいよね楽しそう。

「ナズナさん。一緒に旅に出ようよ」

ほとんど無意識にそんな言葉が口から出てしまった。
旅は道連れっていうでしょう?つまり一人は寂しいから着いてきてってことだよ、言わせんな恥ずかしい。

[pumps]