自分探しの旅

「捕まえるってどういうこと?そんな正義の味方ごっこしてると警察に怒られるよ」

そう言う自分の声に若干の焦りが含まれていることに気がついた。

だって、ねぇ?今話題の連続殺人犯がかなり危険な人物であるのは、事件を知っていれば誰だってわかるはず。
そんな奴を警察でもない一般人が捕まえようなんて、漫画か映画の正義感溢れるキャラクターの考えだ。
大抵は悪事が許せない、自分なら出来る、とか思って動き出して見事解決することが多いが、実際にやるのはどうかと思う。
相手がどのくらい強いのかわからないし、返り討ちにあって万が一にでも殺されたらやりきれない。そこで結局犯人に逃げられれば被害者が増すだけ。
警察の方々からすればここまで迷惑な話もないだろう。しかも私達、ザバン市の人じゃないし。
つまり素人は勝手に動くな、ということだ。

そこんとこどうなの?とナズナさんを見る。ナズナさんは心底嫌そうな顔をしていた。

「俺だってやりたくないって。でも仕方ないだろ、これが師匠から頼まれた“仕事”なんだし」
「スズシロさん?」

意外な人の名前が出て少し驚く。
スズシロさんから頼まれた仕事が殺人犯確保ってどういうこと?流星街にいるあの人がなんでザバン市の連続殺人犯を捕まえろなんて言うんだ。
いまいち理解出来ずにいるとナズナさんがめんどくさそうに言う。

「あの人、ザバン市の市長と知り合いなんだよ」

頭を掻きながら言った。
そのまま歩き始めたので、私も後を追う。

「詳しくは知らないけど、結構長い付き合いらしい。俺はその人のところに行け、としか言われてなかったんだけど」

そこで一度話を止めると近くにあった地図で現在地を確認する。
しばらく地図とにらめっこした後、また歩きながら話を続けた。

「ここの市長も連続殺人犯には参ってるみたいでさ。スズシロさんの代理って言ったら……うん」
「犯人捕まえてくれって?」
「そう。スズシロさんも事前に俺達のことについて連絡してたみたいだし、多分市長に恩を売っておきたいんだろ」
「恩売りたいって何それ、変じゃない?どういう関係?」
「わからないけど、仕事の関係者だろ。付き合いがあるっていっても親しい人ではないよ」
「ふーん」

なるほど、スズシロさんがザバン市の市長に「そっちに二人送るから問題あるなら適当に使って」って連絡してたわけか。怖い。
そういえば、私って未だにスズシロさんが普段何してるのか知らないんだよね。
前にハギ兄さんが仕事を貰ったって言ってたけど、何なんだろう。
気になったが、あまり深く考えないことにした。なんか仕事内容知ったら絶対に後悔する気がする。

ノロノロ歩いているとナズナさんはある建物の中に入っていった。
しかし、ナズナさんもよくそんなナリで市長に会いに行ったよね。連絡行ってるとはいえ市長ってそんなホイホイ会えるもんなの?
疑問に思いつつ、後に続く。そこは図書館だった。


「一応、犯人の目星はついてるらしい。警察がマークしている奴がいるそうだ」

ナズナさんはそう言いながら館内に設置されているパソコンを起動させた。
私も横から椅子を引っ張ってきて座る。

「警察関係者の間じゃ、解体屋(バラシや)って呼ばれてる」
「えーっと、遺体をバラバラにしてるから?」
「そう。犠牲者の遺体はどれも50以上のパーツに分けられていたそうだ」

話しながらマウスを動かしていた手が画面に一人の男の顔写真を出す。

「名前はジョネス。目撃者の証言から割り出された容疑者だ。犯行当日のアリバイ、被害者の爪から採取された皮膚のDNAも完全に一致した。間違いない」

容疑者は思っていたより老けた男だった。しかし、どこにでもいそうな顔をした男だ。あまり怖いとは感じない。
かといって人の良さそうな顔かと言えば違う。よくよく見れば、ちょっと目がイっちゃってる。

「現在地は不明。家には戻ってないそうだ。ま、本人も警察に疑われてるってわかってるだろうし、今更戻れないんだろ」
「にしては、この人の犯行って結構杜撰なやり方だよね。被害者の爪に皮膚って抵抗されたってことでしょ?しかも目撃者もいるし。銃か何かで遠くから狙った方が良かったんじゃないの?これじゃ足がついて当たり前だよ」
「別にこいつは完全犯罪を目論んでるわけじゃないんだろ。遺体をバラすことが目的なんだ。それが楽しくてたまらない、よくいる快楽殺人者だな」
「へぇー…ちょっと私には理解できないや…」

俺も、と頷いてナズナさんはジョネスがやったと思われる今までの犯行を纏めたページを開いた。
そのあまりの数に驚く。

「犠牲者はわかっているだけで146名。そりゃ市長も焦るよな」

ええええ!?それはやばいだろ!?殺しすぎだろ!?
画面に映された残虐な行為の記述に思わず顔が歪む。文字で読むだけでも大分キツい。

以前聞いたことがあるのだが、典型的な快楽殺人者は自分より弱いものを標的にするらしい。被害者は専ら非力な女性や子供、老人。
しかし今までの犠牲者を見る限り、このジョネスという男は無差別犯のようだ。老若男女問わず、ありとあらゆる人が殺害されている。
男性の連続殺人犯に多い性犯罪の傾向も見られない。しかし遺体は必ずバラバラにされている。
そしてその遺体の“解体”を含め、殺害は一貫して素手で行われていた。
やばい、勝てる気がしない。

[pumps]