新世界より
<ナズナの話>

生まれも育ちも流星街。
名前はナズナ。教会もどきのボロ家に住んでいた牧師気取りのオヤジに命名された。全然気に入ってない。
オヤジは自分の娘と捨てられた子供を拾って面倒を見ていた。
拾われたのは俺の他に三人。一応幼なじみになる。

11歳の時、オヤジの娘であるスズシロさんから念について学ぶ。
ここから俺の世界は急激に広がり、スズシロさんこと師匠を通じて仕事をもらい流星街の外に出るようになった。
そして19歳の時、運命の出会い。
ライセンスこそ無いがプロハンターにも引けを取らない念能力者になっていた俺に、ある日外じゃ有名な富豪の娘の身辺警護の仕事が入る。
結論から言うとその娘と恋に落ちました。

彼女は俺より三つ年上、いかにもな箱入り娘で美人。
お互い一目惚れで契約期間は一週間だったが、彼女の「私専属の使用人にするわ」発言により俺は恋人と職を同時に得ることになった。

そして2年後、駆け落ち……したのが運の尽きだった。
富豪の娘なので追っ手はたくさん来る。ほとんどが念を知らない奴だったので余裕で倒していく。
しかし一人だけ能力者がいて、そいつは事切れる直前に俺に念能力を使った。
で、子供の姿になってしまったというわけだ。

その後、彼女は「今のあなたを愛せる自信がないの」と言って俺の前から消えた。
なんだそりゃどこの映画の台詞だよ。ちなみにそのすぐ後に金持ちの男と結婚したらしい。
この情報をくれた幼なじみのキキョウは暗殺一家とはいえ大金持ちの家にちゃっかり嫁いでいた。なんて羨ましい。

そして、すっかり傷心の俺は誰でもいいから慰めてもらおうと故郷である流星街へ帰った。ひどく惨めだった。

「油断してたあなたが悪いわ」

これは師匠の言葉だ。
確かに相手が大した使い手ではないと判断した結果、念をかけられた。でもそこじゃなくてさぁ……俺が欲しい言葉はそうじゃなくてさぁ……。

「逆玉は失敗かぁ。ドンマイ、ナズナくん」

これは幼なじみのメガネの言葉だ。
別に俺は逆玉を狙っていたわけじゃ…………………ないよ。
ムカついたので掛けた瞬間に爆発する眼鏡を具現化する能力でも作ろうと思う。決して図星だったからじゃない。

そんなこんなで俺は華の20代を子供姿で過ごす事になった。最低だよ、俺の人生終わったも同然だ。
そして、もうだめだ女なんて信用できねぇ、とやさぐれていた俺の前に奴は現れた。俺、キキョウ、メガネと共に幼少期を過ごした幼なじみだ。
随分久しぶりに会う奴は俺がこっそり将来の目標としていたマッチョな大男になっていて、しかも赤ん坊まで連れていた。
俺の夢を全て叶えた奴はなんだか輝いて見える。

眩しい…、眩しくて直視出来ない!なんだこの差は!?
連れてきた赤ん坊は娘らしい。顔を見ると全く奴に似ていない。髪の色も目の色も全然違う色だったのでおそらく母親似なんだろう。
よかったじゃないか、奴に似たら悲惨だぞと赤ん坊に向かって言ったらキョトンとした。そりゃそうか、と部屋を出る。

惨めな気分になるのでこれ以上赤ん坊の顔を見たくなかった。
だから、しばらく師匠の部屋に行くのをやめた……のになぜか俺が赤ん坊と暮らすことになった。イジメとしか思えない。
神様、俺が何をしたって言うんですか。
教会もどきに嘆きに行ったら、すっかりジジイになったオヤジに「富豪の娘に手を出したのが悪かったな」と言われた。テメェに聞いてねぇよ。

[pumps]