自分探しの旅
さっきまで作戦会議をしていた路地を出て、フェアリーさんを肩に乗せた状態で移動する。

私達の足なら、そう離れてはいないホンザ六番地に向かって進みながら周囲にも気を配る。フェアリーさんの能力はあまり信用できないからだ。
まだ明るい時間だからか、相変わらず人が多い。焼肉定食を食べてきた店もそうだったが、とんでもない殺人鬼が彷徨いてるわりにはみんな防犯意識低くないか?
昼夜問わずに襲われてるんだから、日が沈んだら外出しないで家に鍵掛けて閉じ籠ってればいいってもんじゃないと思うんだけど。

それをそのままナズナさんに言ったら「仕方ないだろ」と返ってくる。
まぁ、人それぞれ生活があるしなぁ。学校や仕事に行かなきゃいけない人は嫌でも外に出ることになる。
一番いいのはジョネスが捕まるまで全部休みになることだけど、結局捕まらないまま100人以上死んでいる。
捕まるまで家でじっとしてたら、それこそ皆の生活が成り立たないだろうし。
あらためて大変な状況だと理解する。その間にフェアリーさんが髪を引っ張ってきてイラっとした。


しばらくしてホンザ六番地に着いた。
今まで同様、人が多いだけでジョネスは居そうもないし、特におかしな所もない。

確かに自信ないとは言ってたけど…という目を二人に向ければ、ナズナさんは平静を装いながらどことなく困った空気を纏っていた。
元凶のフェアリーさんはというと私の肩から降りて、ふよふよ飛びながら、また鼻唄を歌っていた。
あれ?また捜してるの?と思ったと同時に、フェアリーさんが声を出した。

『むむっ!』
「!どうしたフェアリーさん」
『近い、近いぞ。ジョネスは近くにおる』
「本当か?」
「え?でも…気配も何も感じないけど」

無表情ながらも少し安心したような反応を見せるナズナさん。反対に私はその発言に戸惑う。
ジョネスは殺人鬼だし、おそらく常人とは違う雰囲気というか強い殺気を放ってるだろうから、近くにいるなら一応私でも気配くらいは読めると思うのだが、全くわからない。
殺気も違和感も感じないのだ。なんで?と首を傾げている私にフェアリーさんから衝撃の発言が飛び出した。

『ジョネスは半径十キロ以内におるぞ』
「え!?範囲広っ!!せめて一キロ以内になったら教えろよ!」

それで気配なんてわかるわけないだろ!
というか最早ホンザ六番地にいないだろ!?なんでホンザ六番地にいるって最初に言ったの!?

『なんじゃ小娘、ワシに文句あるのか?ん?お?』
「おいセリ!謝れ!フェアリーさん帰っちゃったらどうする気だよ!」
「えぇ………ごめんなさい…」

おそらく正しいと思われるツッコミを入れたらフェアリーさんに凄まれ、さらにナズナさんにものすごい剣幕で怒られたので素直に謝る。
えっ、これ私が悪いの?え?
理不尽さを感じているとフェアリーさんが鼻を鳴らした。あっ、私あいつ嫌い、と思った。

一気に悪くなる空気。それを無くすようにナズナさんがとりあえず、と口を開いた。

「十キロ以内に居るならなんとかなるな」

地図を広げ、現在地であるホンザ六番地からその回りを円で囲むように指でなぞった。

「ある程度ジョネスが近くにきたら、わかるだろ?」
『ふん、当然じゃ』

フェアリーさんはふよふよ浮いたまま腕を組んで自信ありげに返した。さっき自信ないって言ってたろお前。どっちだよ。
未だにフェアリーさんを信用できず、胡散臭げに見つめる私にナズナさんが言う。

「セリ、お前はフェアリーさんと一緒に行動してくれ」
「えっ、やだ!!」
『ぁあ?』
「フェアリーさん顔こわっ!ていうか私とフェアリーさんだけ!?ナズナさんは!?」
「俺?俺はほら、悲鳴上げて通報する役だから」
「どっちかと言えば、私の役目でしょそれ!?」

フェアリーさんに髪を引っ張られながら必死に訴える。何を楽しようとしてんだこの人。
肩を掴んでガクガク揺らす私にナズナさんは「お前、俺が今念能力使えないってわかってるか?」と少し呆れたように言った。

「具現化系で格闘できない俺が念が使える強化系のお前より強いと思う?」
「思う!!」
「お前はあの天空闘技場を200階まで制覇した。念の修行も時々、というか最近ずっとサボってたけどまぁ、上達した。いい加減自信持て」
「持てない!本当に持てない!」
「ジョネスくらいならお前でも倒せるよ」
「ジョネスの何を知ってるの!?」
「フェアリーさんのこと頼むぞ。じゃ!」
「え?……え!?」

それは突然だった。突然過ぎて反応できなかった。

あの、ナズナさん走っていなくなったんだけど。

[pumps]