自分探しの旅
ここまできて、殺人鬼に一人で挑むってどういうこと。
おい、あの親父逃げやがったよ…とその場に立ち尽くす私と『どっこらしょ』と言いながら頭に止まるフェアリーさん。
そんな私達に歩いている人々はすれ違い様に「何だコイツ」と目を向けるが、すぐに逸らして進んでいく。
中には私の頭に止まったフェアリーさんを訝しげに見つめる人もいたが、大抵はどうでもよさそうにしていた。フェアリーさんは結構おかしいと思うがな。
いつまでも止まっていても仕方ないので、とりあえず足を動かす。
今すぐにでもナズナさんを連れ戻したいのは山々だが、あの人は私より足が速いので今更追いかけるのは無理だ。しかも携帯を持っていないので連絡がとれない。何この丸投げ。
「信じられない……無理だ…」
『やる前から諦めるんじゃないっ!これだから今時の若者は!!』
「ちょ、うるさいんで黙っててください」
『うぎゃっ!?』
私の頭をバシバシ叩きながら、騒ぎ始めたフェアリーさんの胴体をわし掴み、服のポケットに放り込んでおいた。
うぎゃーー!!とか聞こえてきたので、ちょっとやり過ぎたかな?と反省したが後悔はしていない。
表面上は涼しい顔で歩きながらも心の中では途方に暮れていた。どうしよう、ジョネス怖い。
老若男女問わず素手で100人以上殺した猟奇殺人者だぞ?いや、素手ってなんだよマジで。
遺体はバラバラにされていたわけだから、相当力が強いのだろう。
ということは強化系?そもそもジョネスって念能力者なのか?
これだけ沢山の人を殺害して長い間捕まらないのだから、念能力者である可能性の方が高そうだけど、どうなんだろう。
ポケットに手を突っ込んでフェアリーさんを引っ張り出す。
「ねぇねぇ、フェアリーさん。ジョネスって念能力者なの?」
『ふん、ワシは答えんぞ。もう怒ったからな、バーカ!!』
「……………」
なんだろう、この生暖かい気持ちは。なんだか、小学校低学年の子を相手にしているようだ。
生温い視線を送っているとフェアリーさんは『その目やめろぉ!』とキレた。
「ごめんなさーい」
『それで謝ってるつもりか!?もっと誠意を込めろ!』
「ごめんなさいフェアリーさん!」
『様じゃボケェ!!』
「ごめんなさいフェアリー様!もし、よろしければジョネスが念能力者かどうか教えて頂けませんか!?」
『うむ、いいだろう!知らん!』
キッパリ言い切ったフェアリーさんを私は無言でポケットに突っ込んだ。
***
やはり昼夜問わずに殺害を繰り返すと言っても人が多い所には現れないのではないか。
そう思い、先程までいた場所から大分離れた人通りの少ない道に出る。
そこは人の気配はするが、視界に入る範囲には全くいなかった。建物の中、もしくはかなり遠くなのか。
すぐ近くで気配がしないなら、ジョネスもいないのか?
いや、でもジョネスが念能力者なら絶を使って完璧に気配絶ち出来る。たとえ念能力者でなくとも、気配を消すこと自体はそう難しくない…と思う。よくわかんないけど。
うーん、と首を捻りながら歩み続ける。
するとさっき押し込んでからおとなしくしていたフェアリーさんが凄い勢いでポケットから顔を出した。
『こっ、小娘!小娘!大変じゃ!』
「何?下らないことなら潰すからね」
眉を寄せてそう言うとフェアリーさんは一瞬ビクッと体を震わせた。しかしすぐに『ば、馬鹿者!それどころじゃないわ!』と言い返す。
…あれ?なんかフェアリーさん声が震えてる?
フェアリーさんはポケットから顔だけを出した状態で、今まで騒がしかったのが嘘のように小さな声で話始めた。
『いっ、いいか?聞いて驚け。ジョネスが近くにおる!』
「十キロ以内に?」
『違う!二十メートル以内じゃ!』
「え!?」
静かなこの場所に私の声が響き、遅いとわかりつつも慌てて口に手をやる。
足は止めず首も動かさず、目だけで辺りを伺う。しかし周囲に変わった様子はない。
私が先程から感じている気配は忙しなく動くものや、ずっと止まっているものばかり。隠す気のない、その辺の一般人の気配だ。
でも二十メートル以内って相当近いじゃないか。
相変わらず人はいない。ということは建物の影か何かに身を潜めているはずだ。
『おい……近いぞ…』
そんなこと言われても。
それが私の正直な気持ちだった。なんで急にレーダーとして本気だしてくるんだよフェアリーの馬鹿野郎と心の中でこっそり悪態をつく。
心臓はバクバクいってるし、どうしようと焦っている。けど、相手がどこにいるかなんてわからない。
背中を冷たいものが伝う。落ち着け、落ち着け自分。
「っ!!」
すると突然後ろに人の気配を感じ、振り向いたと同時に右腕を掴まれた。咄嗟に堅を使い防御を高める。
振り向いた私の目に映ったのはどこかイっちゃってる感じの目で笑っている男、ジョネスだった。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
私がジョネスを認識してすぐに、そう声をかけられると右腕に凄まじい力が込められた。
ジョネスは笑いながら左手で私の右腕を掴んでいた。やばい、腕持ってかれる!本気でそう思った私は負けじと腕を此方に引く。
私の力にジョネスの体は一瞬揺らぐも向こうの方が体格が良い。
逆に私の方がバランスを崩して後ろに倒れそうになるが、その時に思いっきり左足でジョネスを蹴り上げた。
当たるかどうか微妙だったその蹴りは胸の辺りをかすった。
あまり効果は無さそうだったが、一瞬だけ私の腕を掴む力が弛む。
これでも修行は続けていた。その一瞬を見逃すほどボケッとしてはいない。素早く腕を引き、脱出。
蹴りと腕を引いた反動で後ろに倒れるが、両手を地面に付いて後ろに反った状態(所謂ブリッジ)になったあと両腕に力を入れて足で思いっきり地面を押し、バク転の要領で体勢を元に戻した。
ある程度距離を取る。
転生前の私では考えられない行動だ。体操選手みたいなことをやってしまった。
なんか成長したなぁ、と少し感激する。
そんな私と対峙するジョネスはというと、さっきまで私を捕らえていた左手を見つめていた。
「掴めなかったのは初めてだ」
そう呟くと背筋がゾッとするような目でこちらを見る。
「お嬢ちゃん、何者だい?」
言いながら、ジョネスはこちらに手を伸ばす。
十分距離を取っているので当然その手が届くことはないのだが、私は自然と一歩、二歩と後ろに下がっていた。
どうやらジョネスは私の右腕が無傷なのが不思議でたまらないらしい。
この男は今まで一切武器を使用せず、素手で殺害を行ってきた。腕を掴まれた時にわかったが、とんでもなく力が強いのだ。
本人的には、あの時点で私の腕を引きちぎるつもりだったのだろう。だが私の右腕はちゃんとある。
ジョネスを警戒しつつ、右腕に視線をやると真っ赤な手形がくっきりと残っていてビビったが、特に外傷は見当たらない。堅を使っていたからだ。
ジョネスはオーラを垂れ流していた。つまり念は使えない。
それなのに堅を使っていた私の腕にはしっかりと痕が残っている。油断したら絶対に体の一部持っていかれるわ。
すぅ、と息を吸い込んだ。
非念能力者なら、多分負けない。問題は勝つ方法だ。
非念能力者への念能力での攻撃は非常に危険だ。基本の四大行しか使えないような者ならまだしも中途半端に応用技が使える私がやると相手の命を奪う可能性がある。
今、求められているのは生きている状態での確保。
残念ながら私はジョネスほどの強敵を上手いこと気絶させたり、手加減してギリギリのところで生かしておけるほど器用じゃない。護衛の仕事で遭遇するしたっぱマフィアほどの隙が無いのだ。
天空闘技場でも180階付近ではKO勝ちなんて出来なくてポイント制での勝利だった。
今回の勝負、殺すか負けるかだ。多分。
出来る限り、それこそピンチになったとき以外、念は使わない方がいいだろう。
適当に捕縛系の能力作っときゃよかったな、と後悔する。
念能力という使い方次第では最強になれる便利なものを全く利用できていない辺り、私は要領が悪いらしい。仕方ないだろ強化系なんだし。ナズナさんも能力作らなくていいって言ってたし。
ふと、ナズナさんの念能力フェアリーさんの存在を思いだし、ポケットに目を向けた。
すると上からでも分かるくらいポケット付近は震えていた。時々『ひぃぃい…』とか聞こえてくる。
ダメだ、こいつ使えねぇ。
「あっ!、と!」
地面を蹴り、後ろに飛ぶ。いつの間にかジョネスがすぐそこまで近づいてきていたからだ。やばい、コイツ意外と素早い。
ジョネスの手が再び私を捕らえようとする。
それを避けて、こちらに伸びたジョネスの手を両手で掴む。力を込めて、一気に横に振り回して投げた。
「!?」
「おらっ!って、うわぁあ!!」
そしたら私もバランスを崩して転けた。中々格好よく決まらないものだ。
痛い…と膝を擦りながら立ち上がる。結構遠くに投げ飛ばしたジョネスも体を擦りながら起き上がる。
そんなにダメージを受けてない様子だった。べ、別に手加減してやっただけだし。本気だしてないし。念使ってない私とかただの雑魚だし!
心の中で言い訳をしているとジョネスは薄ら笑いを浮かべながら口を開いた。
「お前くらいの年の女が一番解体しやすいんだ。どいつもこいつもトロくて弱い」
「自分より弱い相手に手を出すなんて人間のクズですよ」
「ああ、わかってるさ、そんなこと」
そう返してくると何がおかしいのか、額に手を当て笑い続ける。
その様子に私はギュッと眉を寄せた。