自分探しの旅
意外と素早い……って今まで捕まらなかったんだから当然か。かなり素早いジョネスの攻撃を受け止めたり避けたりしながら、反撃の機会を窺う。
肉を引きちぎろうと手を伸ばしてくるジョネスの攻撃は某フェイタンさんの攻撃ほど素早くはないが、油断してられるほど遅くはない。
しかも初めは腕や腹の付近を狙ってきたくせに、身長差の関係か趣味かは知らないが段々顔や頭に手を伸ばしてくるようになった。おいおい待てよ、顔の肉抉り取られるなんて冗談じゃないわ。
頭部目掛けて繰り出される攻撃を首を軽く動かし、出来る限りの無駄の無い動きで躱していく。

必要最低限の動きで相手の攻撃を避けるというのは、強い人がよくやることだ。過剰な動きは体力を消耗するし、隙も生じやすい。
今みたいな殺るか殺られるかの状況の戦闘でこそ必要となるスキルだ。
というわけで、天空闘技場で対戦相手の方々がやっていた動きを再現してみた。

………………………再現してみたのは、いいんだけど、どうしよう。
攻撃を躱しながら、考える。なんだろう、この機械的な動き。言われたからやってるみたいな。

先にも言った通りジョネスはフェイタンほど素早くないし強くもないが、決して弱くもない。
強敵と言えば強敵なのだが、幸か不幸か私の周りは彼を遥かに凌ぐ化け物しかいなかった。
そのため初めは本気で避け続けていたが、ある程度繰り返してからは慣れてきて、死を覚悟するほどの脅威を感じない攻撃を考え事をしながら、ひたすら避け続けるという機械的な動作が現在進行形で行われているのだ。
うーん、どうしようこの状況。

反撃するのが、一番いいんだけど、反撃、反撃ねぇ?
反撃ってなんだ?ジョネスは確かにそこまで強くはないけど隙は無いぞ。ほとんど野生の身のこなしだ。
こいつ、念を覚えたら相当な使い手になるんじゃないかと思う。
それこそ今以上に無双状態になるはずだ。よりタチの悪い犯罪者が誕生するだろう。
その前になんとしてもコイツはここで捕まえなきゃならない。

よし、ちょっと頑張って、出来たら反撃しよう!!
目標を立て、今までは簡単に受け止めるか避けてるだけだった攻撃を利用し、反撃を試みた。

顔面目掛けて伸びてきた手を避け、素早くその手首を掴んで捻るが、すぐに逆の手で攻撃されそうになったので慌てて手を放し、頭を下げた。
頭上をジョネスの手が空ぶるのを音で確認したら、一気に姿勢を低くして足払いをかける。
反応しきれなかったジョネスは後ろに倒れた。
あれ!?反撃出来たぞ!?

――今なら、いける。すぐ頭にそう浮かんできた。
体勢を立て直そうとしているジョネスを視界にいれ、早く行動に移さねばと構える。とりあえず腹パンしよう!

右手で拳を作り、ぐっ、と力を込める。
屈んだ状態のジョネスが立ち上がった時、一気に腹にパンチ!!
頭の中で流れを確認し、今か今かとタイミングを測っていた。

そこで予想外の出来事が起こる。


「ねぇ、こっちの道は人が少なくて危ないってお母さんが言ってたよ」
「大丈夫だって、ちょっと横切るだけなんだし!」

不安そうな顔で話す幼い女の子とその子の手を引っ張って安心させるように言う幼い男の子。

まさかの子供の登場に私の動きは完全に止まった。なんで今来るの!?お前ら空気読めよ!
その子達に視線を向け、ポカンとする私。
そんな私の存在に気がつかないほど子供達は鈍くなかった。バチッ、と男の子と目が合う。次いで、女の子の視線が私に向く。
そこで私は我に返り、慌てて二人に向かって声を出す。

「ちょ、ちょっと…!」

早く逃げな、と言う前に子供二人の顔が驚愕の色を見せた。
立ち上がったジョネスが二人の元へ向かったからだ。

「ひっ!」
「きゃあああ!!」

上がる女の子の悲鳴。考えるより前に急いで足を動かし、走り出す。
足は私の方が速いので子供達とジョネスの間に滑り込むことは可能だった。
しかし、それは本当にギリギリでこちらに伸ばされたジョネスの右手を受け流せるほどの時間はなかった。

受け止めるしかない、と急いで堅を使う。予想外の出来事part2が起きたのはその時である。

『うおりゃああぁあ!!!』

私のポケットからフェアリーさんが叫び声を上げながら勢いよく飛び出した。その手には釘バット。
目にも留まらぬ速さで振り回されたその釘バットは、ジョネスの顔面にクリーンヒットした。鮮やかすぎる。

釘バットには凄まじい力が込められていたらしくフェアリーさんより遥かに大きいはずのジョネスは軽々と吹っ飛んだ。

「…………………え…」

なにこの展開。
呆然とする私の側で釘バットを肩に担いだフェアリーさんが言った。

『ふん、…正義は必ず勝つんじゃよ……!』

何いいとこ取りしてんのコイツ。

[pumps]