自分探しの旅
子供達に逃げるよう促し、立ち去ったのを確認した後に遠くで延びているジョネスの元へ恐る恐る向かう。
私より先に到着していたフェアリーさんが『死ねゴラァ!!妖精ナメんなァア!!』と叫びながら何度も飛び蹴りを喰らわしていた。
見た感じジョネスの意識はないようだ。だって釘バットすごかったもん。

なんだかんだで全部フェアリーさんに持ってかれたな…、としょっぱい気持ちになりながらもポケットから携帯を取り出す。
ジョネスの意識が戻る前に通報すべきだ。早いとこ警察に引き渡して帰ろう。
携帯を耳に当てコール音を聞いている途中でバックレたナズナさんの存在を思い出す。

「ねぇ、ナズナさんと連絡とか取れるの?」

あまり期待はせずにフェアリーさんに問いかける。コイツは釘バットくらいしか出来ないからだ。
フェアリーさんは私の問いにジョネスへの飛び蹴りを中断すると胸を張って答えた。

『ふふん。任せろ!実はテレパシーが使えるぞ!』
「テレパシー!?」

なんでそういうことだけ高性能なんだよ。
頬をひくひくと動かして「じゃあよろしく」と頼むとフェアリーさんはふよふよと飛びながら、またあの鼻唄を歌い始めた。
左耳でそのメロディーを聴きつつ、私はようやく繋がった警察に状況説明をした。

***

「えー、私の記事これだけ?」

次の日。ザバン市市長が取ってくれたというホテルの部屋で今朝の朝刊を広げて不満を漏らす。
いや、ジョネスは凶悪犯なので記事自体は大きいのだ。見出しは『ザバン市史上最悪の猟奇殺人犯ついに逮捕』
それは良いのだが、問題は内容だ。
私(とフェアリーさん)が捕まえたのに、私達についてはほんの数行触れられているだけで、名前も顔もあのときの詳しい状況も一切載ってない。さも警察のお手柄のように書かれていた。
いや、別に目立ちたいわけじゃないし、いいんだけどさ…。でも警察なんかほぼ仕事してなかったじゃん。

「ナズナさんはその辺どう思う?」

ベッドで寝転がってゴロゴロしているナズナさんに話しかける。
このオッサンは昨日私を置いて行った後ここで待機していたらしい。ふざけるなよ。
と思うも、私のためにザバン市内で行列が出来ると有名な店のチーズケーキを買ってきてくれていたので許した。私チョロすぎだろ。
ナズナさんは私の質問にめんどくさそうに答える。

「まあ、お前は流星街出身だしね。基本的に流星街のやつが新聞に載るのって事件起こした時くらいなんだよ。今回は逆に解決しちゃっただろ?そういうのを世の中の奴らは求めないわけ」
「なにその言い方。流星街出身者は良いことしちゃいけないみたいな?」
「それが世間のイメージだし。捨てられたにしろ自分の意思にしろ、ゴミ捨て場に居るような人間はろくでもない奴ばっかだって思われてんだよ」

そう言いながら、むくりと起き上がるとナズナさんは備え付けの冷蔵庫を漁り始めた。

ああ、それはちょっとわかるかも。
事情があるとはいえ、あの場所にいるのは真っ当に生きている一般人とは遠くかけ離れた人ばかりだ。
過去のことは無しにしても現在進行系で人に言えないようなことをしている人がたくさんいる。
そんな連中を受け入れてくれるほど世の中は甘くないってことだ。

「だいたい、流星街について記事が載るのなんて今のところ自爆テロ事件以来ないしね。あの事件で元々悪かったイメージがさらに下がったわけだし。今頃お前の記事が載ってもねぇ」

冷蔵庫から取り出したビールを飲みながらナズナさんが言う。これって未成年の飲酒になるのかな、となんとも言えない気持ちになったが黙っておいた。

自爆テロとは今から約三年前に流星街の一部住民が起こした事件だ。私も詳しくは知らないが、なんでも『外』で冤罪をかけられたある住民のためにその人と同じ地区出身の人々が起こしたとか。
あの事件で流星街は『外』からの干渉を拒絶するメッセージを伝えてしまった。
私的にはあれのせいで『外』で普通に暮らしたい流星街出身者が逆に肩身の狭い思いをするはめになったように感じるんだけど、どうなんだろう。難しい問題はよくわかりません。

考えるのがめんどくさくなったので、返事はせずに新聞を閉じた。
これにて私達のお使い、という旅は一応の終着を迎えた。
元はと言えば、ニート生活はよくないと思って自分に出来ることを探しにきた旅だったのに、結局何も見付からずに終わっちゃったなぁ。
そのままの君が好き!ってやつなのこれ?

[pumps]