黄金の国ジャポン
自分探しと言って結局何も見付からずに家に帰った私は、そのまま年明けまでずっとゴロゴロしていた。ナズナさんは特に何も言わなかったからいいかなぁ、って。

来年から、来年から就活始める!と胸に誓い、年が明けて1996年。
今年も当然ハンター試験が実施されたが色々考え今回は見送ることにした。なんだか受かる気がしなかったからだ。
過去二回にまともな試験がなく、それこそ予想外のことばかりだったため、もう少し体力以外で自分の出来ることや特技を増やした方が良いかもしれない。
その事をあけおめメールと共にメンチちゃんに伝えておいた。メンチちゃんはちょっと納得してなさそうだったけど最終的には「まぁ、あんたが決めることだし」と言って今年のハンター試験に一人で挑んだ。

そしたらさ、メンチちゃん受かっちゃったんだって…。

いや、“受かっちゃった”って言い方はよくない。見事合格か、おめでとう!
それは私もとても嬉しい。でも、うん、どうせなら一緒に受かりたかったな、と思ってしまった。

やっぱり受験すれば良かったと年明けからいきなり後悔した。
念願のプロハンターとなったメンチちゃんはこれからは初めて会った時に言っていたように、美食ハンターとして活動していくらしい。
自身の夢を着実に叶えていっているメンチちゃんは、メールの文面だけのやり取りなのに全てが輝いて見えた。なんかツラい。私が真性のダメ人間みたい。

そんな輝いているメンチちゃんから三月下旬頃、再びメールが届く。

『セリ、あんた今暇?ちょっと行きたい場所があるんだけど、一緒に行かない?』

私はこれを二つ返事でOKした。
この時目的も行き先も知らなかったが「これって多分遊びの誘いだよね、どこに行くんだろう」とぼんやり考えていた。
どうせ毎日暇だしどこでもいいや、という気持ちだったので行き先を聞いて本気で驚いた。

『じゃあ、パスポートの準備と荷造りしといてね。行き先は知らないと思うけど、ジャポンっていう島国だから』
「ジャポン!?ってジャパン!!?」

まさかの展開に私のテンションはすごいことになってしまった。
どのくらいっていうとメール見てすぐナズナさんに向かって携帯投げた。ナズナさんが色々文句を言ってきたが、ほとんど聞いていない。
だって!ある意味故郷!転生前とは別物だってわかってるけどさ!
興奮した私はすぐにメンチちゃんに電話を掛け「行く行く行く行く行く行く行く行く行く」と呪文のように唱え続けた。これで一回着信拒否されたのは内緒だからね。

何はともあれ、こうして1996年の三月下旬、私は意気揚々と荷造りを始め、メンチちゃんと共に心の故郷ジャポンへと飛び立ったのである。

***

この時期のジャポン基日本と言えば、卒業入学シーズン。
親しい友人と別れ、新たなる出会いが待っている。それを彩る桜。
ジャポンへ入国した私達は満開の桜に迎えられた。

「すごい、久々に見るなあ〜」

一面に広がる桜を見て、やや興奮気味に口を開く。
ジャポンに来たのが嬉しくて堪らない私は、事前に雇った観光ガイドを指定の場所で待っているメンチちゃんを置いて勝手に移動していた。まったく世話の焼ける奴だ。
そんな私の行動にメンチちゃんは怒るというより吃驚していた。私がここまでジャポンに興味を示すとは思っていなかったんだろう。
確かに、このハンター世界で普通に暮らしていてジャポンなんてマイナーな国を気にかける人はあまりいないと思う。

それを良いことに勝手に移動(近くをうろうろしているだけだが)を続けていると日本らしい、綺麗なアーチ型の木橋を見つけた。
その木橋に誰かがいる。目を細め、ゆっくりと足を進めて近付いていくとその人物は着物を着た長い黒髪の女性だった。

ジャリ、と私の足音が響く。その音で彼女は私に気づいたようで、こちらに顔を向けると小さく微笑んだ。
私が言うのもなんだが、彼女は美貌ではなかった。よくいる普通の顔をしている。
けれど何故か彼女から目が離せない。ひらひらと落ちてくる桜の花弁と相俟って綺麗だと思った。

「セリー?どうしたのー?」

後ろからメンチちゃんの声が聞こえた。
振り向くと離れた位置からメンチちゃんが手を振りながらこちらに向かってくる。

「いや、ちょっと…」

言いながら再び木橋の方を振り向く。
そこに先程の女性はいなかった。

「……………は?」
「何よ、どうしたの?」
「あそこに人がいたはずなんだけど、………メンチちゃんは見た?」
「?あたしは見てないけど。というかあの橋最初から誰もいなかったでしょ?」
「えっ……………」

なにこれホラー?

[pumps]