黄金の国ジャポン
ジャポンという国は私が昔過ごしていた日本とそこまで文化的な差異はないらしい。

あの着物の女の人(私の中で幽霊説あり)を見てから江戸時代みたいな感じだったらどうしようと色々不安を感じていたので安心した。
そこらを歩いている日本人…ジャポン人?はたまに着物の方もいるが、ほとんどが普通の洋服だった。バスや車だって走ってるし、電車もある。懐かしの女子高生だっている。
辺りを見回せば近代的なビルが建ち並んでいるし、コンビニもある。

生活文化、技術は他の国とも大差無いだろう。
けどハンター世界でのジャポンって結構マイナーだよね。そりゃ現実世界でもめちゃくちゃ有名って訳じゃなかったけど、こっちはそれ以下の知名度な気がする。
向こうで暮らしていて、私はまともにジャポンという国について聞いたことがなかった。ゾルディック家がやけに漢字を推していたくらいだ。

そんな謎に包まれたマイナー国ジャポン。
今回私はメンチちゃんに誘われてこの国に来たわけだが、何故彼女はこの国をわざわざ選んだのか。
それは知る人ぞ知るジャポンの食文化を堪能するためである。
ヒント:メンチちゃんは美食ハンター。好きなものは美味い飯。

プロの美食ハンターとして、メンチちゃんは世界中の料理を口にすることにしたらしい。なにそれ超楽しそうなんだけど!
日本食って美味しいものいっぱいあるよね。ジャポンと日本はほとんど一緒なんだから当然食べ物も一緒だよね!

というわけで、雇った観光ガイドさんと無事合流できたメンチちゃんと私は早速ガイドさんの案内でジャポン食い倒れツアーを決行したのだった。

「これだよこれこれ久々の蕎麦!」
「天ぷら最高!」
「鰻重はもっと評価されるべきだよねー。私昔から思ってたんだ」
「このタレのしみたライスが美味い……!」
「ふーぐ!ふーぐ!」
「なっ、これが噂の船盛!?魚がこんなにキレイにスライスされて出てくるなんて…」
「イクラァア!!」
「はいよ、外国のお客さん。ご注文の大トロ」
「!?寿司きた!!」
「!?スシすげぇえ!!」
「あのぅ、お二人とも店内ではもう少しお静かに…」
「「あっ」」

様々な店を渡り歩き提供される食事に舌鼓を打っていたら、とうとう寿司屋でガイドさんに注意された。確かに私ら物凄くリアクション激しかったわ。
ガイドさんから「他のお客様もいらっしゃいますし、もう少し静かにしましょうね」と優しく言われ、私達は恥ずかしさから赤くなった顔で小さく「はい…」と言った。私達いくつだよ…。
テンションが上がりすぎて、周りが見えていなかったようだ。今まで訪れた店にも迷惑かけたなと反省し、せめてこの寿司屋の店主には謝ろうと口を開けば、板前のおじさんは豪快に笑った。

「いやいや、そんだけ美味そうに食ってもらえばこっちとしても作った甲斐がありますんでね。気にしなくていいですよ」

おじさんの目と雰囲気が優しすぎる。というか店全体がそんな雰囲気だ。他のお客さんも私達を満て、優しく微笑んでいた。
ん?こっ、これはアレじゃないか?初めて日本に来た外国人観光客がはしゃいでいるのを生暖かい目で見守ってあげている日本人の図じゃないか?
店全体が醸し出す雰囲気で私は全てを理解した。ああ、私達は今「サムライ!ニンジャ!スシ!」とはしゃぐ外国人なんだ。

間違ってはいない。実際万国共通語とはいえ、ジャポン食を体験してハンター語で騒いでいる私達はジャポンの方々からすれば無邪気な外国人なのだ。そう、決して間違ってはない。
ただ私、これでも元日本人だからさ。なんだかすごく微妙な気分だ。でも久々に食べたんだからテンション上がっても仕方ないでしょ!?

「いやぁ、しかし本当にスシはすごいわ…」

そんな風に心の中で色々弁明をしながら寿司を口に運んでいた私の横でメンチちゃんが感嘆の声をもらす。
どうやらメンチちゃん的に寿司がドストライクだったようだ。
美味しいもんねー、とまたもや心の中で同意する。口に寿司が含まれているから話せないのだ。
口の中のものをゆっくりと飲み込んだ後、お茶を飲もうと湯呑みを手に取り口をつける。
それとほぼ同時に、メンチちゃんが目の前で寿司を握っていた板前のおじさんに話し掛けた。

「あの!店長さん!」
「はいはい、なんですか?」
「あたしを弟子にしてください!」
「ぶっ!!!」

お茶噴いた。

[pumps]