黄金の国ジャポン
ジャポンの忍者についてほぼ一方的に色々教えられた私は、満足気なハンゾーと一緒に観光地を回るべくようやくホテルを出発した。
忍者に関しては日本とジャポンでは大きな違いがあったが、他の文化に関しては特に変わらないらしい。

寺と神社巡りはやはり定番のようだ。ただ、私が寺と神社の区別がついてないと勘違いして必死に説明してきたのにはなんとも言えない気持ちになった。
ハンゾーの説明を適当に聞きながら、お土産として金運と恋愛運の御守りを購入した。
金運は私、恋愛運はナズナさん用だ。早く立ち直って良い人見つけてね。

その後は偶々やっていたお祭りに参加。わたあめ食べて焼きそば食べてリンゴ飴食べてチョコバナナ食べて、射的と輪投げで景品として手に入れた駄菓子の詰め合わせをその場で開けて食べてたらハンゾーに「食いすぎだろ…」と軽く引かれた。無視した。
そんな風に祭りを満喫した私達が次に向かったのが、ジャポンの昔の歴史や家屋、さらには伝統の遊びを体験できるという体験型の博物館だった。

「あー!ダメだ、すぐ落ちちゃう…」
「竹とんぼは初心者にはちょっと難しいかもな。よっ」

そう言いながら、ハンゾーの手から放れた竹とんぼは高く飛び上がり、私達のいる場所から2、3メートル離れた地点までいった。

「すっ、ごい!めっちゃ飛んだ!」
「ふっふっふっ、俺も昔は“竹とんぼの半ちゃん”と呼ばれたもんだ」
「ダサッ……!」
「ああ!?んだとコラァ!!」
「いや、だって!ぶっ、ごめん!!」

現在、私達は小学生の集団に混ざって竹とんぼを飛ばしていた。ハンゾーの怒鳴り声に耳を塞ぎ笑いながら懐かしいと感じる。
ハンゾーの言うような初心者ではないが転生前は小学生の時、授業で少しやった程度だったのでなかなかうまく飛ばせない。うーん、さっきの竹馬五十メートル走は私の圧勝だったと言うのに。
もう一度飛ばして見たがすぐに落ちてしまう。下手くそ過ぎる。

横でそれを見ていたハンゾーは、まだ少し怒った様子でまた竹とんぼを飛ばした。
それが今までで一番遠くまで飛び、近くにいた小学生が歓声を上げたので私もそれに混ざって手を叩く。

「すごーい!すごい!竹とんぼの半ちゃん……はダサいから、竹とんぼマスター・ハンゾー先生!」
「お前、俺に色々言っといて同レベルのセンスじゃねぇか」
「ハンゾー先生カッコいい!!」
「ふっ、ま、まぁな!!」

こいつチョロい。
褒められて誇らしげにしているハンゾー先生を見て思った。


***
「さて、とりあえず観光名所はこんなとこかな」
「うん、まぁ結構楽しめたかな?」
「おいおい、素直じゃねぇな。俺が見た限りじゃ相当楽しんでただろ。だいたい、今のその状態が全てを表してるぞ」

びしっ、とハンゾー先生が指差したのは私の頭についている狐のお面と手に持ったお土産の袋だった。中身はジャポン最高と印刷されたTシャツ。うん、確かに楽しんだわ。
先程とは打って代わって静かな住宅街を歩きながら思う。和風の家が多く建ち並んでいるが何故か人の気配をあまり感じない。
そのことを不思議に思っているとハンゾー先生が「ま、いいけどよ」と呟いたと同時に人の姿を発見した。

「他になんか気になるもんあったら何でも聞けよ」
「は、ハンゾー先生!あそこに美少女がいるんですが彼女は何者ですか!?」
「そこかよ!?」

私の興奮気味の声とハンゾー先生のツッコミが響く。
そりゃ、私だってただ人を見つけたくらいじゃこんなこと聞かない。重要なのはそこにいたのが美少女だったってことだ。

私達がいる場所より少し先の方にある、この辺りでは一番大きな金持ちそうな家の前にその子は立っていた。
長い黒髪を所謂お姫様カットにした赤い着物の小学生くらいの女の子だ。何あの子めっちゃ可愛い!!
その子の顔を確認したハンゾー先生は見知った相手であることを示す反応を見せた。

「ああ、あの方がヒユ様だ。ほら、俺がこの先お仕えする予定の」
「えっ、あの子がヒユちゃん?かーわーいーいー!」

ヒユという男か女かわからない名前から、こんな美少女が出てくるとは誰が予想したか。
ええー、いいなぁ!ハンゾー先生は将来あの子に仕えるの?えー!!
羨ましく思っているとヒユちゃんの傍に一人の青年が現れた。

「あっ、才蔵だ」

黒髪ポニーテールの青年の姿を見てハンゾー先生が言う。
あれが私の中で噂の霧隠才蔵?私と年変わらなそうじゃん。猿飛佐助がお爺さんなのでてっきりもっと年上かと思っていた。
意外だ…と思いつつ二人の様子を見ているとヒユちゃんは才蔵に何かを伝えていた。それに首を振る才蔵。
二人のすぐ側にある立派なお屋敷に目をやり、その中に入るよう言っているみたいだった。
それを完全にシカトして私達がいる方向とは逆の方に向かって歩き出すヒユちゃん。
残った才蔵は参ったような仕草を見せて、屋敷の中に引っ込んだ。

「えーと、あの立派な家はヒユちゃんの家なの?」

二人の姿が見えなくなってからハンゾー先生に問う。

「ああ、ここらじゃ有名な御堂家だ。ヒユ様はそこの一人むす…めで」
「え?あの家のファミリーネームって御堂って言うの?」

まだ話している途中だったが遮る。名字を聞いて少し驚いた。私の転生前の名字と同じだったからだ。
といっても私の家はあんな金持ちじゃなく、普通の一般家庭だったが。
しかし、まさか転生してから自分の家の名字を聞くことになるとは思っていなかった。
そこでただ偶然だとは思わず、なんとも言えない不思議な気分になる。

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