黄金の国ジャポン
「ハンゾー先生大変!大事なこと忘れてた!!」
「なんだ、どうした?」

なんだか不思議な気分にしてくれた御堂さん家から離れて適当にブラブラと歩き出した私達。
ここで私はある重要なことを思い出した。

「私まだ……団子食べてない…!」
「そんなことかよ!」

ハンゾー先生のツッコミが綺麗に入る。
いや、そんなことじゃないだろう。ジャポンに食い倒れツアーをしに来たと言うのに団子食べないとか何しにきたんだよ。

「みたらし!先生!私みたらし団子が食べたいです!!」

しっかりと手を挙げて言う。
ハンゾー先生は私の勢いに圧倒されたようだったが、なんだかんだで優しい人らしい。ため息をつきながら言った。

「仕方ねぇな。俺のオススメの団子屋に連れてってやるよ」
「おお!」
「ただし!遠いぞ」

興奮する私を片手で制す。私はそれに親指を立てて答えた。

「大丈夫。走るのは大好きです」
「えっ、走るの!?」
「えっ、ハンゾー先生忍者なのに走らない気なの!?あっ、タクシーで追跡するもんね…」
「うるせぇ!いや、俺は別にいいけど、お前はキツいだろ…」

体力無さそうだし、と私を見ながら続けるハンゾー先生。
そこで気付いた。ハンゾー先生は私の身体能力はその辺の女子高生と同じくらいだと思っているのだ。

ハンゾー先生は念を使えないようだから私が念能力者であるとわからない。
一応忍者なんだし、ひょっとしたら念自体は知っているのかも知れないけど、常に纏をしている今の私の状態を知ることは出来ないわけだ。だから、私が見た目よりはずっと体力があるなんて思ってもいない。

なるほど、と一人で頷く。じゃあ面倒だし、訂正しなくていいや。私は普通の女の子設定でいこう。
心の中でこっそり決めてハンゾー先生には「走らなくていい」と伝える。なんか私めちゃくちゃ走りたいみたいだな。
そんな私にやっぱりな、と言いたげな顔で頷いたハンゾー先生は「じゃ、タクシー使うか」と言って歩き始めた。
私の中で忍者=タクシーになりつつあるけど大丈夫か。

***

さて、タクシー乗り場に来たのはいいのだが、予想外に混んでいたためハンゾー先生は「ちょっと電話する」と携帯片手に私を置いてどこかへ行ってしまった。
私のためにタクシー会社にでも連絡を取っているのだろうかと思うと申し訳なくなった。やっぱり走れば良かったじゃないですか、もー。

「あれ?」

ヒユちゃんだ。遠くに赤い着物の女の子を見つけて呟く。
ヒユちゃんは二人組の男と話をしているようだった。遠目からなのでよくわからないが、どうも知り合いには見えない様子だ。
道を聞かれただけかな?とボケッと思っていると次の瞬間とんでもないことが起きた。

ヒユちゃんと話をしていた男達とは別の男が後ろから近づき、すぐ側に止めてあった白いワゴン車の中に押し込んだのだ。
そしてすぐに男達はワゴン車に乗り込み、ものすごいスピードで走り出した。
…………ゆ、誘拐だーー!!!

こんなに人の多い場所であまりにも堂々とした犯行だったので少し反応が遅れたが、あれ誘拐だよね!?
周りの人も「は?」みたいな顔してるもん!

どうしよう、と考えるより先に足が動いていた。多分、私の足なら追い付く。
あの子がハンゾー先生の知り合いだからとかじゃない、誰であろうと『誘拐された』から何とかしようと思ったんだろう。…多分。
凝で両足を強化し、人ごみの隙間を通りながらワゴン車との距離を縮める。走るのに邪魔だったので途中でお土産の袋を投げ捨てた。もったいない。

ワゴン車との距離が車一台分くらいになったとき、唯一頭に残っていたお祭りで手に入れた狐のお面を装着した。ビビらせてやろうと思ったのだが、効くだろうか。

流石に自分達の後を追ってくる存在に気づいたらしい、犯人の一人が助手席の窓から顔を出して私を見た。

「あ!?えっ、ちょ、狐!狐!!」

すごいビビられた。

「ちょ、後ろ見てみ!?狐来てる!!!」
「ああ!?お前うるせぇよ!なん、狐ぇ!!?」

別の男が後部座席から顔を出すとまったく同じ反応をした。
あれ?これ意外といけてる?思ってた以上に効果あるぞ狐のお面。何故か少しだけ嬉しくなって面の下でニヤニヤしながらワゴン車の後を追う。私気持ち悪いな。
するとワゴン車はものすごい音を立てて角を曲がった。私もそれを追って急ブレーキをかけて曲がる。

「!!」

角を曲がってすぐに銃声が聞こえたと思ったら一気に熱くなる私の右腕。

あ、撃たれた。
自分でビックリするくらい冷静なのは、纏をしていたおかげでそこまで痛いと感じなかったからだ。
というか多分、怪我はしてない。
それは昔フランクリンの念弾を受けた時よりもずっと纏が上手くなっているのと私が強化系であるからだろう。確か念能力者って鍛えれば何発かは撃たれても平気だって、誰かが言ってた気がする。

しかし、私は銃弾によって怪我を負ったフリをして仰向けに倒れて目を瞑った。
相手の数が多いのと、念を使える相手がいるかもしれないからだ。そうなると人数的に私は不利。戦うのも下手だし。
それなら今の銃声を聞いた誰かが通報してくれるのを願った方がいいだろう。何のための警察だ。てか私が通報すればよかったわ。

「チッ、おい!コイツも中に放り込んどけ」

色々考えながら目を瞑っていると上から初めて聞く低い男の声が聞こえた。
そしてすぐにさっき狐にビビっていた二人の男の声が聞こえ、近くまでやってくると私の身体は軽々と持ち上げられ、どこかに投げられた。
硬いシートの感触と傍には誰かの気配。そっと、片目だけ開くとどうやらワゴン車の後部座席にいるようだった。シートから伝わる振動にワゴン車が動き出したことを知る。

あれ、私も誘拐されたんだけど。

[pumps]