黄金の国ジャポン
「アイツ死んだんじゃないっすか?別にわざわざ乗せなくても良かったんじゃあ…」
「バカ。死体を置いていけるわけねぇだろ!バレたらどうすんだ!」
「もう結構目撃されてんだけど」

放り投げられた状態から動かず、座席に横たわったままで耳を澄ませるとそんな会話が聞こえた。
このワゴン車は三列シートのようで私と多分ヒユちゃんは一番後ろのシートにいる。
…というか私お面してるんだから、別に目開けても問題なくない?撃たれた傷が痛んで意識が……とかもないし。
今更ながらそう思い、自分のアホさ加減に呆れつつ目を開く。

真っ先に視界に入ったのは二人分の頭。少し目を動かすと運転席に一人。私はシートの背もたれではなく、ちょうど前列の方に顔を向けて横たわっていた。
誘拐犯は三人。他にも仲間がいるのかもしれないが、この車中には三人だけだ。
前のシートに座っている二人の男(ヒユちゃんと話をしていた奴等)は私の処理について熱く語り合っている。どうする?死体ってすぐ腐るよ?とか言い合う二人に私は死んでないと言いたくなったが、口を開く度胸はなかった。
私はいつ目覚めれば良いんだろう。今元気良く起きても車内が混乱して最終的に車が事故るだけだろうし。

「おい、うるせーぞ。心配しなくてもどうせ死んでねぇよ。“使える”みてぇだしな」

起きるタイミングがわからないでいる私の耳に二人とは別の声が届いた。運転席にいる男だ。
使えるというのはおそらく念のことだろう。げっ、こいつら念能力者?とお面で隠された顔を歪める。
しかし、それを言われた二人は「はぁ……使える?」と不思議そうな返事をした。

その反応に、凝を使って男達を見る。どうやら念能力者は運転席の男だけのようだった。あ、これいけるんじゃない?

後ろからだから曖昧だけど、あの運転席の男もそんなに強くなさそうだし。三人中二人は非念能力者なら上手くいけば私一人でも倒せるかもしれない。強化系だもん!
問題があるとすればヒユちゃんの安全確保と他にも仲間がいるかもしれないことだ。
他に仲間がいるとして、そいつらが念能力者だったらちょっと困る。元々一対多数で勝利を収められるほど戦闘は得意じゃないのに、念能力者相手ってどうすんだ。
なにより人を守りながら戦えるほど器用じゃない。今までの護衛とは状況が違いすぎる。そうなるとヒユちゃんの身が危険だ。

どうしようかな、と横たわったまま、すぐ近くにあるヒユちゃんの気配に意識を向けながら考える。
多分ヒユちゃんってまったく戦えないよね?ほぼ無抵抗で捕まったし、ハンゾー先生が将来仕える=忍者と姫様=命に代えてもお護りいたしますでしょ?
そんなピーチ姫みたいな子に戦えという方が酷だ。

目を閉じて何か良い案はないかと必死に考える。私無計画にも程があるだろ。
あー、どうしよー、助けてハンゾー先生ー。

「えっ」

ここで突然右腕を軽く掴まれた。
驚いてパチッと目を開いたと同時に小さく声が出たが、誰にも聞こえなかったようで車内の空気に変化はない。
唯一の変化は、私と同じシートにいるはずのヒユちゃんの気配が移動し、今までよりもずっと近くに感じることだ。
ということは私の腕を掴んでるのはヒユちゃん?場所的にも彼女しかないだろうが。

ほんの少しだけ顔の向きを変えると私の腕、ちょうど先程撃たれた辺りに触れながら驚いた表情を浮かべている姫カットの美少女が目に入った。わぁ、可愛い。
驚いているのは、おそらく撃たれたというのに傷が見当たらないからだろう。ってことはやっぱりこの子非念能力者かな?
凝をしてヒユちゃんの顔を見る。……あれ?なんだろう、この子。

ヒユちゃんを見て、なんともいえない違和感を覚えた。
オーラは垂れ流し状態で纏なんかしていない。つまり念は使えない……はずなんだけど、なんか変だ。
何かがおかしい。ただ念を使えない普通の子ではない。どこか違和感があるのだ。

どこだろう、と凝をしたまま顔から目を動かす。
下に視線をずらしていくと左胸、心臓付近にオレンジ色の靄があることに気がついた。
え?靄って…え?とかなり驚く。今までこんな状態の人を見たことがなかったからだ。しかも念を使えない子。

そのオレンジ色の靄はオーラの塊であることがわかった。そして、その塊の真ん中に11という数字が浮かんでいた。
正直オーラ自体はかなり弱いが、しっかりと心臓付近を陣取っている。
このオーラは本人が出しているわけではない、ということは…………もしかしてこの子は誰かに念をかけられているのだろうか。

そう思ったと同時にブレーキ音が聞こえた。
荒々しく私達の乗っている車が止まり、突然のことで何も構えていなかった私はシートから転がり落ちた。

[pumps]