黄金の国ジャポン
「ぐえっ!!」
「えっ!?」
「うわっ、マジで生きてた!」

全身を強打し、思わず声を出すと前のシートの男二人が驚いて言う。うるさいぞ犯人グループ。
運転席の男には初めから生きていることがバレていたわけだが、起きるタイミングが分からなかったのでちょうど良い。
体を起こし、今度は普通の体制でシートに座り直した。ついでに邪魔なので狐のお面も取る。

「しかも女かよ!」

すると前の座席の二人組の一人、茶髪の若い男と目が合ってそう言われた。
気付いてなかったの!?さっき思いっきり私の体持ち上げて車内に放り込んだじゃん。というかどう見ても体つきが男と違うだろうが。
とフランクに突っ込めるような空気ではなかったので「あ、どうも」とだけ言っておいた。
そしたら茶髪だけじゃなく、他の誘拐犯二人にも呆れたような目で見られた。なんで?

「ったく。そんなのいいから、お前らは降りろ」

運転席の男が言う。
おそらくこの中では一番年上で黒髪オールバックにサングラス、そして髭を生やしたかなり厳つい風貌の男だった。やばい超怖い。
このリーダーらしき男の言葉に従い、茶髪の若い男ともう一人、こちらも若い、なぜか左目に眼帯を着けている男はドアを開けて外に出た。
それを黙って見ていると運転席の男がこちらに手を伸ばした。

「携帯貸せ。そっちのガキはないが、お前は持ってんだろ?」

こっちに投げろ、と続ける。
持ってませんよと言おうと思ったが素直に取り出して投げた。そんな嘘、身体検査でもされれば、すぐにバレるからだ。その時が怖い。
男は受け取った私の携帯を服のポケットに突っ込んだ。

「てめぇらはこっちから声かけるまで絶対にそこから動くな。絶対だ!いいな?」

リーダー格の男は一番後ろで静かにお行儀よく待つ私達にそう念を押し、外に出る。
はぁ、つまり逃げて良いよってこと?だって今のって「いいか、押すなよ!絶対押すなよ!?」の流れでしょ?

シートに膝をついて私がいる左側の窓から外を見る。
どこか工場のような建物が近くにある場所だったが、それにしては人気がない。たまたま休みなのか、もう使われていない場所なのか。
どちらにしても滅多なことじゃ人は来ないだろう。だって誘拐犯が車を停めに来るような場所だし。

今のところ、他に仲間が現れる様子もない。だが、ここで待ち合わせている可能性もあるので他の仲間はいない、と断言はできない。

なら、仲間が来る前に逃げるべきだよねと今度はヒユちゃんが座っている車内右側の窓から外を見る。
運転席から外に出たリーダー格の男が他の二人に何事か告げているが、ワゴン車の中からでは、はっきりと聞こえない。防音完璧なのか奴らの声が小さいのか。
勝手にアテレコするなら「立ち話もなんだし、どっか店行こーぜ!」「良いっすね!俺腹減りました!」「よーし!飯食いに行くか!」と三人は移動を始め…………るわけもなく、男達はワゴン車のすぐ側で話を続けている。
特に移動する様子もみせない。しかもリーダー格の男は二人と話ながらも常に車内の私達の様子を伺っていた。

ここまで警戒されてしまえば、私一人ならともかくヒユちゃんを連れて二人でバレずに逃げだすのは難しそうだった。
うーん残念、今すぐ脱出は諦めよう。

「あの………」

じゃあ、どうしようかなーと策を練っていると右隣から可愛らしい声。
男達に誘拐された張本人ヒユちゃんが眉を若干下げて、控えめに問い掛けていた。

「腕は、大丈夫ですか?」
「…ああ!うん。全然平気」

ほら、と服の袖を捲って無傷の右腕を見せれば、それを正直引くくらいガン見してきた。
見すぎ見すぎ。やっぱり気になっていたらしい。小さく「どうして…」と呟くが、それは聞こえないフリをした。念を使えない相手に一から説明しても、理解はしてくれないだろう。
というか、私の腕のことなど今はどうだって良いのだ。

「ね、一応聞くけどアイツら知り合いじゃないよね?」

捲った袖を戻しながら話を変える。ヒユちゃんはそれにハッとした様子で顔を上げ、「ええ、まったく」とキッパリ言い放った。
やっぱり普通の誘拐ね、と頷く。まぁ、あれだけ大きな屋敷の娘なら身代金目的の誘拐をされても不思議ではないだろう。
ふーん、と相槌を打ってから暫く無言になる。いや、ほら金持ちの子みたいだし、失礼があるとちょっとね。

車内はすっかり静かになった。気まずい。
でもヒユちゃんは突然誘拐されて不安だろうし、年上の私が何か言った方が良いのかな。もっと、こう、大丈夫だよ!みたいな安心させる言葉を……。

「申し訳ございません」
「えっ、何が?」

気まずい空気を打ち破られ、驚いて横を見る。
ヒユちゃんにかける言葉を探していたら突然謝罪された。

「貴女は関係無いのに、巻き込んでしまって……本当に申し訳ございません」

巻き込むというか、私が勝手に来たんだよなぁ。
これは別にヒユちゃんのせいではないし、謝る必要もない。私は無視しようと思えば出来たのだ。
何も悪くないのに謝るヒユちゃんを見て、こちらが申し訳ない気分になる。

「あのさ、私が勝手に追ってきただけなんだから、別に謝る必要はないよ?」
「でも貴女は半蔵の知り合いでしょう?」
「あれ、なんで知ってんの?」

驚いて聞けば、ヒユちゃんは私達が一緒に居るのを見たと言う。
多分、私が初めてヒユちゃんの姿を見たときだろう。結構距離があったはずだけど、私達のことも見えてたんだ。
私の言葉にヒユちゃんはキョトンとした。

「?貴女は半蔵に頼まれて、ここまで来たのでは…」
「ええ?違う違う」

手と首を横に振る。私を普通の女の子だと思っているハンゾー先生はそんな無茶ぶりはしない。
そもそもあの場にいなかったのだから、ヒユちゃんが誘拐されたことすら知らないだろう。まぁ、私が居なくなったことには気づいているはずだが。

「なら、どうして…」

助けたのか?
そう続くのが分かっていた私は、ヒユちゃんから顔を逸らして前を見つめながら、腕を組んで言った。

「誰かを助けるのに理由がいるかい」

と、ジタンがクジャに言ったシーンで私は感動した。これ良い台詞だよね。てっきり姫に言うのかと思ってたけど全然違ったね。
過去の懐かしい記憶を思い出して、チラ、とヒユちゃんの方を見ると彼女はなんだか衝撃を受けたようだった。そして、すぐに尊敬の念を込めたかのような目で私を見た。
その眼差しを受けてちょっと反省した。格好つけてごめんなさい。さっきのはゲームキャラの発言です。

[pumps]