19
全員の面談が終わっても飛行船が目的地に着くことはなかった。
すっかり日が沈んだ頃、ビーンズさんの案内に従って食事を取りに食堂へ行った。相変わらずセルフ形式だったが、残った人数の割には豪勢に感じた。他の皆と待ち合わせなどしていないが、提供の時間が決まっているので殆どの受験生が揃っていた。
「ね、デザートコーナーにアイスあるの見た?」
用意されていたディッシャーで綺麗にバニラアイスを盛った器片手に私がそう話しかけるとイルミはこちらを一瞥した後、カタカタと音を鳴らすだけで何も答えなかった。途端に、室内の温度が3℃くらい下がったように感じた。誰か空調下げた?と思って一度振り返ると各々好きな席に座って食事を取っていた皆が揃ってぎょっとした顔でこちらを見ていた。そのうちの一人であるレオリオと目が合うと彼は慌てた様子で私に向かって「シグネ……!戻れ……!戻れっ……!」と手と口を動かした。
レオリオの様子に首を傾げつつ、イルミに向き直る。一人で孤独に食事を取っているイルミは「カタカタカタ」と音を出しながらバニラアイスにかかっている赤いものを見ていた。
「これ?これはね、ストロベリーソースだよ。好きにかけていいみたい。他にもキャラメルソースとかチョコレートソースもあったよ」
「バッ………!シグネーー!」
トッピングの説明をしたところで後ろからレオリオが走ってきて私の左肩を勢いよく掴んだ。そのままぐいっと肩を引いて私を隠すように自分の後ろへやると「メシの邪魔して悪ィな、ハ、ハハ……」とイルミに向かって若干緊張した声色で謝った。今、私のことバカって言おうとした?
無口キャラを徹底しているイルミは何も返さず、機械的な動作で食事を続ける。レオリオは「じゃ、じゃあオレらはこれで……」と私の背中をぐいぐい押して元の席へと連れ帰った。
「お前って奴はよォ……!なんでそう自由なんだ……!?」
席に戻るなりレオリオは出来る限り声を抑えながら私の行動を注意した。ただ友達に話しかけただけなのに、と思ったが、確かに今のイルミは一言も喋らずに美容鍼で血流を良くして美顔効果を狙っている謎の受験生なので、残った面々の中でも相当浮いた存在だろう。大抵の人間は何か目的がない限り言葉が通じない相手には近寄らないものだ。
「シグネは本当に肝が据わっているな」
クラピカは少し困ったように笑っていた。その横の席に座っていたゴンが珍しく微妙な顔をして「オレもあいつはちょっと……」とイルミがいる方向を見ながら言うとキルアが「あいつキモいもんな」と身も蓋もない事を言った。
「ようやく最終試験なんだぜ?折角ここまで来たのに、妙ないざこざに巻き込まれて怪我でもしたらどうすんだよ」
レオリオは呆れたようにそう言うと「人類みな兄弟みたいなマインドで生きるのはやめろ?な?」と諭すように続けた。そんなつもりではなかったが、確かに何も知らない彼らから見たら意味の分からない格好をした意味の分からない男に私は興味本位で話しかけに行ってるとしか思えない状況だった。
余計な心配をかけてしまって申し訳なかったので「ごめんね」と謝る。私の以外の皆はイルミのことを『危ない奴』だと思っているのだ。実際その認識は間違ってない。イルミはいつだって自分の目的のためなら無関係な一般人を巻き込むことに躊躇がなかった。彼が危険人物でないなら逆に誰が危ないんだという話である。
「つーかあいつ、多分シグネのこと好きだぜ?」
突如キルアが投下した爆弾にレオリオは口の中のものを噴き出し、ゴンは喉をつまらせ、クラピカはフォークを落とした。吃驚した、恋バナ始まった。
「ほら、二次試験の次の日さァ、飛行船で朝飯食ったじゃん。あん時あいつシグネに向かっていきなりナイフ投げてきたんだぜ」
キルアが私に向かって「な?」と同意を求めてきたので頷く。そう言えばそんな事もあった。
「なんもねー奴にいきなりそんなことしねーじゃん?その後もシグネのことよく見てたしさ。好きなんだって」
「ナイフを投げてくるのは好きっていうのかな……?」
「何か別の理由があるんじゃないか?」
ゴンとクラピカは顔を見合わせて疑問の声を上げた。今なら分かるが、あれは昔の遊びを再現しただけだった。イルミって結構わんぱくだから、空き時間にすぐ遊びたがるんだ。
そんなことを言えるはずもなく、心配そうにこちらを見てくるクラピカ達にどう返すか迷う。この話を最初に始めたキルアは飽きたのか飲み物を取りに席を立った。残った三人の注目を集めながら私は「うん……」とゆっくり口を開いた。
「多分、301番は私のこと好きだよ」
「お前もそう思ってんのかよ。流石に思い上がりだろ」
レオリオの容赦ないツッコミが炸裂する。いやでもイルミは本当に私のこと好きだから。
とは言わずに振り返ってイルミの方を確認すると彼は既に席を立っていて食堂内のどこにもいなかった。アイス食べないで帰っちゃったのか、と気の毒に思う。美味しいのに。
時間が経つにつれ、一人また一人と食堂を去っていく。私達は食事を終えた後も飲み物片手に暫く喋っていたが、流石に疲れたのかクラピカが最初に抜け、その少し後にはキルアも今日は早めに寝ると言って食堂を出た。最終的に残ったのは私とゴンとレオリオだけだった。
「ジャンケンの必勝法?」
今までの試験の感想を語り合っていると途中でそんな話題になった。
なにそれ、と続きを促すとゴンが「そのまんま。上手く行けばこれで大体勝てるよ」と明るく言った。ゴンも他の人から教えてもらったらしく「ちょっとコツがいるんだけどね」と笑う。
「レオリオ、三次試験の時ダメダメだったでしょ?教えてあげようと思って」
「うるせーな、どーせオレはダメダメだよ」
レオリオは拗ねた顔でグラスに入ったジュースを酒のようにあおった。三次試験でレオリオは試練官とのジャンケン勝負にボロ負けしたらしい。ジャンケンで勝敗を決めるなんて平和的で何よりだ。
「シグネにも教えてあげる。キルアがシグネは目が良いって言ってたし、きっと練習すればすぐ出来るよ」
「そう?編入試験で役立つかな……?」
「編入試験でジャンケン挑んでくるような学校はやめとけ」
レオリオはからかうような口調で笑いながらそう言うと「よっしゃ!やろうぜ」と腕まくりをした。やる気十分らしい。彼のちょっとした話にも全力で乗ってくる姿勢は好感が持てるし、私も見習うべきところだと思った。対人関係はレオリオが一番参考になる気がする。
ゴンは改めて周りに人がいないことを確認すると早速説明を始めた。シンプルだが誰にでも出来るかと言えばそうでもない、絶妙なやり方だった。これは確かに必勝法だろう。すっかり人のいなくなった食堂で私達はゴンが教えてくれた必勝法の練習に勤しんだ。
***
次の日になっても飛行船は目的地に着かなかった。
面談の内容からして最終試験は対人戦の可能性が高いからか、合格まであと一歩というところまで来た緊張感からか、残った受験生達は必要以上の接触を避け、食事以外の時間は殆どバラバラに過ごしていた。今回は個室があるので、余計に顔を合わせる機会が減っているのだろう。
暇なので適当に飛行船内を歩いてみたが、誰にも会わなかった。娯楽室のような場所もないし、当然かもしれない。
何となく部屋へ戻る気にもなれず、ロビーの椅子に座っていると、誰かが後ろからそ〜っと近付いてきた。振り返ると「あ、バレちゃった!」とゴンが悔しそうな顔で言った。ふ、と笑みが浮かぶ。
ゴンもずっと部屋にいたが、あまりに退屈で外へ出てきたらしい。隣に座り、私達は暫し話をした。
「シグネの親って、どんな人?」
その話題が出たのは、話し始めて十分ほど経った頃だった。
「ゴンの親は?」
「オレ?うーん、よくわかんない」
答えたくなかったので質問に質問で返すと、ゴンの口からは私の想像とは少し違った答えが返ってきた。
希薄な関係なんだ、と意外に思う。ゴンは真っ当な親に愛情を注がれながら養育されたとしか思えない性格をしていたからだ。
「オレの親父はジンって名前で、ハンターをやってるんだ。でもオレが赤ん坊の頃に別れて以来ずっと会ってないから、実際どういう人なのかは知らない」
ゴンは肩を竦めた。ジンを知る人達から『こういう人間だった』という話は聞いたことがあるが、ゴン自身は本人と話したことがないので、父親の人格に関しては何とも言えないのだと言う。
「だからオレもハンターになってジンに会いに行くんだ」
ゴンは強い意志を感じる真っ直ぐな目でそう続けた。
ふーん……、と呟くような相槌を打つ。自然と私の脳内にはある人物の姿が浮かんでいた。
「………ゴンはその時、なんて話すの?だって、お父さんって言ってもずっと会ってなくさ。殆ど初めて会うような人でしょ?そんな人と……何を話せばいいの」
最後の方は独り言のようになっていた。
殆ど初めて会うような状態の相手と意図せず『再会』してしまった私には、他人事とは思えない話だった。
「うーん、それはその時考えるかな?」
ゴンは少しだけ悩む素振りを見せたが、すぐに笑ってそう答えた。何を思ったか、じっと私を見つめる。
「何を話せば良いかわからないなら、今までのことを話せばいいんじゃないかな。どうやって暮らしてきたか、とか。お気に入りのものとか、あとはシグネが相手に聞きたいこととか全部聞けばいいんじゃない?」
「なるほど………いや、私の話じゃないからこれ」
ぎくっとして否定すると、ゴンは「そっか!」と明るく笑った。勘が良い。
最終試験会場に到着したのは四次試験終了から三日後のことだった。降りた先はハンター協会が経営するホテルで、試験が終わるまで貸し切りだという。
「最終試験は一対一のトーナメント形式で行う」
だだっ広い空間の中央に近い位置で、私達受験生を前にしたネテロ会長はそう言った。ここって、きっと普段は宴会とか会議に使われるようなイベントホールなんだろうな、とさり気なく周囲を窺う。テーブルも何もない室内は実際の面積よりも広く感じた。
最終試験の内容について、皆ある程度予想できていたのか『トーナメント』と聞いて驚く者はいなかったが、その組み合わせが発表されると私を含めてほぼ全員が首を傾げた。対戦回数に偏りのある、今まで見たことがない不思議なトーナメント表だった。
ネテロ会長は意図を読み取ろうとトーナメント表を黙って見つめる受験生達の顔を見回した後、最終試験のクリア条件について語った。このトーナメントは勝者ではなく敗者が上へ登っていくシステムらしい。つまり一番上まで行った一人だけが不合格で、それ以外の受験生は全員合格。一勝出来れば晴れてハンターの仲間入りだ。
10人中9人が合格できる試験と聞くと確率的にはそう難しくない。しかし、万が一落ちた場合ものすごく気まずい。自分が最後の一人になってしまった時のことを考えて不安になった。その間にも話は進み、191番の質問を受けて、この明らかに偏りのある組み合わせについてネテロ会長が説明してくれた。
「この組み合わせは今まで行われた試験の成績をもとに決められている。簡単に言えば成績の良い者にチャンスが多く与えられているということ」
それを聞いてすぐ自分の位置を確認した。これはまあまあ良い方なんじゃないか。数えたところ四回はチャンスがある。
キルアだって三回なのに、と視線をやると会長から評価の基準を簡単に教えてもらったキルアは、自分の位置が気に食わないのか不満そうな目でネテロ会長を見ていた。
会長は当然キルアの視線に気が付いていたが、一々相手にしていたら話が進まないからか無視して細かいルールの説明を続けた。武器使用あり、反則なし、相手に負を認めさせれば勝ち。ただし相手を殺してしまった場合は即失格で、その時点で残りの受験生は全員合格となるそうだ。
ということは私の試合の前に誰かが死ねば私は戦わずしてハンターになれるのか。もう一度トーナメント表を確認する。こんな理由で死んでいいと思える人などいなかったので考えを改めた。
他に質問がないか全員に確認取った後、ネテロ会長の合図でついに最終試験が始まった。
第一試合はゴンとハンゾーさんで、二人はその場に残り、他の受験生は邪魔にならないよう壁際へと移動した。
「これ皆に見られながら戦わなきゃいけないんだね。緊張する……」
「あー、手の内バレんの嫌だよな」
隣のキルアにこそっと話しかけると、対人戦を想定して訓練を積んできた暗殺者らしい返答がきた。確かに手の内を晒すだけ晒して負けたら次の試合が不利になる。それはもちろん分かるが、私は単純に観戦者がいる状態で行う試合とやらが性に合わない。スポーツならともかく、反則なしの戦闘なんて人に囲まれてやるものじゃないだろう。
緊張しないの?と聞くとキルアは「オレは一応こーゆうの経験あるし」と言った。フィクションで時々出てくる裏社会の地下闘技場とかで戦っていたのだろうか。お金持ちが夜な夜な開催してる会員制のやつとか?
などと考えながら始まった第一試合は、終始ハンゾーさんがゴンを痛めつける一方的なものだった。初撃を避けられなかったゴンを見たキルアが舌打ちをした時、私も彼と同じ気持ちになった。私ならあの程度いくらでも避けられたのに、と歯痒く思う。
ハンゾーさんは一撃入れる度に早くギブアップするように言うが、ゴンは「絶対言うもんか!」と耐え続けた。堪らずレオリオが負けを宣言するよう声を掛けるが、クラピカが止める。
ゴンは相手が悪かったな、と思った。第一試合のこの二人は、トーナメント表を見るに残った受験生の中でも特に評価が高い。ハンゾーさんは念能力が使えない七人の中では恐らく一番強いし、子供相手に手を抜く人でもなかった。私やキルアのように訓練を積んだわけでもないゴンが真っ向勝負で勝てる相手ではない。
ハンゾーさんやレオリオの言う通り、どう考えてもさっさと負けを認めた方が良いのにゴンはそれを頑なに拒否した。
それから三時間近く経っても驚くべきことにゴンは降参しなかった。その頃のゴンの姿は痛々しいの一言で片付けられるものではなく、レオリオは相当キレていて一度割って入ろうとしたが、手出しをするとゴンが失格になると立会人に言われてギリギリのところで引き下がった。
しかしゴンの片腕が折られるとレオリオは凄まじい目をハンゾーさんに向けた。もう我慢の限界らしい。今にも飛び出して行きそうだったので流石に見かねて「落ち着きなよ」と声を掛ける。今、彼が試合に乱入したらゴンがここまで痛みに耐えて意地を通した意味がなくなってしまう。
「利き腕じゃないし、相手を殺したら失格なんだからゴンも死にはしないよ。あの人頭良いし」
「あ!?お前、よくそんなこと言えるな……!?」
額に青筋を立ててこちらを見たレオリオの声色には怒りと共に私に対する失望が滲んでいた。
「ゴンはリタイア“できない”んじゃなくて、リタイア“しない”んだから、もう私達に出来ることなんて応援しかないじゃん。ハンゾーさんだって別に楽しんでやってるわけじゃないんだし。これは試験で、一対一の真剣勝負なんだよ」
「そんなのわかってんだよ……!あんな一方的に痛めつけられてんの見て何も感じねーのか!!?」
「そりゃ可哀想だけど……反則なしだからルール違反じゃないし、一方的になるのはやり返せないゴンの問題だよ」
静かな空間に私達の声が響く。聞こえていたらしいハンゾーさんがうんうん頷いた。
そもそも戦意を喪失させることが目的なら腕なんてさっさと折れば良かった。でも負けた後も試験は続くから、この先ゴンが不利にならないよう配慮して試合を続けた結果が今の状況だ。
確かに見ていて気持ちの良いものではないが、ハンゾーさんはルールに則って勝負をしているだけだから彼を責めるのは違う。むしろ彼が思いの外優しい人で良かった。これがイルミだったらゴンはもっと大変なことになっていたはずだ。
そのことはレオリオも頭ではちゃんと理解しているようだったが、彼は私よりもずっと人情深い性格だからボロボロのゴンを前にしてそう簡単に『これは試験だから』『ルール違反ではないから』と割り切ることは出来ないらしい。
見たことがないくらい怖い顔をしたレオリオは怒りで身体を震わせていたが、私に対してはそれ以上何も言い返さなかった。その代わりゴン達の方へ向き直ると「ゴン!」と叫んだ。
「シグネがこんなこと言ってんぞ!やり返して目に物見せてやれ!!」
レオリオが唾を飛ばしながら啖呵を切る。ハンゾーさんはこちらに軽く視線をやった後、ため息をつくと倒れているゴンに聞かせるように自分の生い立ちについて語り出した。別に誰も聞いてないのにお喋りだな、と呆れる。
案の定、ハンゾーさんは突然の自分語りによって生じた隙を見逃さなかったゴンから反撃を食らった。フラフラになりながらもハンゾーさんを蹴り飛ばして立ち上がったゴンを見て、何故彼が格上のヒソカさんからプレートを奪うことが出来たのか、ようやくわかった。ゴンの強さとは単純な戦闘力ではなく、決して諦めない、あの異常とも言える意志の強さのことなのだろう。
ゴンがいつもの調子でハンゾーさんを自分のペースに巻き込むと先程までの緊張した空気が一気に緩んだ。観戦している皆が和やかな表情を見せる中、私は少しだけ怖いと思った。面談で聞かれた戦いたくない相手にゴンの番号を答えれば良かったとさえ思った。相手が悪かったのはゴンではなくハンゾーさんだったかもしれない。
***
二人の試合は、ゴンの意地に負けたハンゾーさんが折れてギブアップを宣言したことでようやく決着がついた。勝ったというのにゴンは全く納得しておらず色々言っていたが、キレたハンゾーさんに吹っ飛ばされて気絶してしまった。
「シグネ、さっきは怒鳴って悪かったな」
記念すべき合格者第一号となったゴンが会場の外へと運ばれていく中、レオリオは私に向かって少し気まずそうに言った。
「別に、私も良くなかったと思うから。ごめんね」
試合中の出来事を思い出して反省する。あんな言い方をしたらレオリオが怒るのは当然だ。ゴンを心配するレオリオの気持ちを考えて発言するべきだった。イルミが言った通り、私は他人の気持ちが全然分かってない。
ゴンに優しいと言ってもらったから、クラピカにそのままでいいと言ってもらったから、何も考えずに振る舞ってしまった。思ったことをそのまま口にするべきではないと分かっていたはずだったのに。
はあ、とため息をつくとレオリオがびくっと身体を揺らした。
「なあ、怒ってるか?怒ってるよな、すまん……」
「え?怒ってないよ」
「後でなんか買ってやるからさ。機嫌直せよ、な?」
「直ってるよ。試験中だから緊張してるだけだし」
「シグネー!悪かったって!」
「もー、やめてー!しつこいんですけどっ!」
逃げるようにクラピカの後ろに隠れる。そのままクラピカを間に挟んでレオリオと二人できゃっきゃっと追いかけっこをしていたら、流石に癇に障ったのか眉を吊り上げたクラピカから「二人共!試験中だぞ!」とお叱りの言葉をもらった。
「っと、そうだな。悪ィ」
「ごめんね、委員長……」
「誰が委員長だ」
前からクラス委員長っぽいな、と思っていたのでついそう呼んでしまった。いっけね、と頭に手を当てる私を見てため息をつくと、クラピカはさり気なくこちらへ近づき「次の試合……」とレオリオにも聞こえないような小さな声で言った。
「仮に私が奴に負けたら、次はシグネと当たることになる」
奴というのがヒソカさんを指していることはすぐに分かった。クラピカはもちろん負ける気はないだろうが、実力的に考えると次の試合はヒソカさんに分がある。となると私の初戦の相手はクラピカになる可能性が高い。
別に問題はないけど少しだけ気まずく思った私の表情をどう解釈したのか、クラピカは数秒ほど間をあけてから私の名を呼んだ。
「もしそうなったら、その時は私が………」
そこまで言いかけてからクラピカは目を閉じると「いや、……」と静かに首を振った。
「それは君への侮辱だな。失礼した」
「え?いいよ、いいよ。譲ってもらえると超助かるけど」
「ゴンを見習ってお互い手を抜かず正々堂々と戦おう」
「ねえ、私は全然八百長で大丈夫だよ……?」
という私の提案をクラピカは一切聞き入れることなく微笑んだ。何笑ってんの?
そのまますぐに立会人に名前を呼ばれ、振り返ることなく中央へ進んだクラピカの背中を見ながら「真面目だな」とがっかりする。本当にクラス委員長っぽい。
立会人の合図で第二試合が始まる。不敵な笑みを浮かべるヒソカさんに対し、クラピカは見たことのない変わった形状の武器を構えた。どこにあんなものを隠していたんだろうと思ったが、あの民族衣装なら内側に武器を隠すのは難しくないように感じた。
それなりに良い勝負をしている(ように見える)二人を眺めながら、私はクラピカ相手にどうやって勝利を収めるか考えた。正々堂々、と言われてしまったので開始早々棄権するわけにもいかないだろう。そんなことをしたら流石に嫌われそうだ。
クラピカみたいなタイプは不正を嫌うはず。それでも最初は私を勝たせようとしてくれたみたいだから、全く融通が利かないわけでもないと思った。多分誰が見ても分かるようなバレバレの不正じゃなければ、多少は目を瞑ってくれるんじゃないだろうか。
武器を忘れてきてしまったので、私は素手か縄跳びかフォークかスプーンで戦うしかない。……結構選択肢がある。
戦うのは疲れるし、クラピカのためにも一瞬で決めないと次の試合に響く。となるとやはり念を使うしかないか、と思ったところでヒソカさんが自分の負けを宣言して第二試合は終了した。クラピカは勝ち抜けし、二人目の合格者となった。トーナメント表を確認するとヒソカさんの番号が上がってきて、私のところに当たった。
ん?話が違うんだけど。