20

試合を終えて戻ってきたクラピカは合格したとは思えないほど深刻そうな顔をしていた。おめでとう、と声をかけたが何か考え事をしていたらしく、返事がくるまで三十秒ほどかかった。

「ヒソカの奴なんか喋ってたけど、アレなんだったの?」

キルアが言う。試合が終わる直前、ヒソカさんはクラピカに何事かを告げたようだが、私達には聞こえなかった。レオリオも気になるようで目で続きを促す。
クラピカは落ち着いた様子で「別に、個人的なことだ」と返した。答える気がないとわかったのかキルアは「あっそ」と短く言う。元々そんなに興味もないらしく、早々に話を切り上げると「つーか、お前どーすんの?ピンチじゃん」と意地悪そうな顔をして私を肘で小突いた。
私をそれなりに高く評価してくれているキルアも流石に私がヒソカさんに勝てるとは思っていないらしい。トーナメント表を見ながら冗談混じりに棄権を勧めてきたが、私にそんな気はなかった。確かにクラピカと戦うと思っていたので予定が狂ってしまったが、今となってはむしろやりやすい相手だ。
ヒソカさんは私を必要以上に傷つける気はないはず…………だよね?と心の中で語りかけながらヒソカさんに視線をやると気配に敏い彼はすぐに気が付き、こちらを見た。にこっと笑いかけると間を置かずに微笑み返される。その笑みを見ていたキルアが「あーあ、お前死んだな」と気の毒そうに呟いた。アレはそういう意味の微笑みなの?

人間って難しい生き物だな、などと思っている間に第三試合が始まった。ハンゾーさんと帽子の受験生ことポックルさんによる試合は、ハンゾーさんの勝利であっさりと終わった。実力差もあるが、ポックルさんは弓を使った戦闘を得意としているようなので、今回は相性が悪かったとしか言えない。こんな障害物も十分な距離もない平地で弓なんか満足に使えないだろう。

ということで、私の試合は想定していたよりもずっと早くに回ってきた。そっと、中指にはめた指輪を見る。
もう『幸せは歩いてこないチルチルミチル』は使えない。最早ただの玩具と化してしまったこれを着けておく意味などないが、ここまで私を助けてくれたのは間違いなくこの指輪だったので、お守り代わりに持っていることにした。
立会人に名前を呼ばれるとレオリオとクラピカから「無理はするな」という応援とは少し違う言葉を貰った。この二人も私が勝てるとは思っていないようだ。確かに、本気で戦っても勝てる相手ではないだろう。
キルアは「お前ここで負けてもオッサンのところで絶対勝てるじゃん」とトーナメント表を見ながら言った。レオリオが「オレか?オレのことか?」と突っかかるのを横目にフッと笑う。余裕ともとれる笑みを浮かべたまま、私は三人に向かってぐっと親指を立てた。

「決勝で会おうぜ……!」
「決勝で会っちゃダメだろ」

レオリオの元気なツッコミを真正面から受けた後、私は会場の中央へと進んだ。不思議と緊張はしなかった。それはやはり目の前の人物が私に縁のある人だからか。
立会人は私達の準備が出来ていることを確認すると試合開始の合図をした。
私達は見つめ合ったまま動かなかった。ヒソカさんが棄権してくれることを期待したが、残念ながら彼の口が動く気配はない。やはり不戦勝で合格とはいかないか。
仕方がない。彼を見たまま私はす、と手を挙げる。

「一ついいですか?」

会場中の注目が集まるのを感じた。ヒソカさんが余裕の表情で「どうぞ」と続きを促す。

「確認なんですけど、ヒソカさんは私を愛していますよね?」
「うん?そうだね」

ヒソカさんが肯定した瞬間、それまでの静けさが嘘のように会場内は一気にざわついた。
余程衝撃的だったのか「今なんて?」「愛!?」「ろ、ロリ……」「犯罪では!?」「カタカタカタカタ」などと、いまだかつてないくらいの私語が飛び交う。ゴンが反撃に転じた時でさえここまで騒がなかったというのに元気なものだ。下手したら学校の休み時間より騒がしい。
皆がどんな顔をしているのか気になったが、戦闘中に相手から目を離すわけにはいかなかったので我慢する。『警察』や『通報』などのワードがちらほら聞こえてきたところで一度咳払いをすると、私達の次の言葉を一言も聞き落とすまいと思ったのか会場内は嘘のように静まり返った。

「試合とはいえ愛する私を傷つけることなど、ヒソカさんは望んでいないと思います」
「うーん、それはそうだね」

ヒソカさんが真剣な表情で頷くと会場内は「なんかすごいこと言ってねーか」だの「なにこれ?え?なにこれ?」だの、またもや大騒ぎとなった。気持ちはわかるけど今とても大切な話をしているので静かにしてほしい。

「でも君が望むなら別だけどね。喧嘩だと思えば加減はできるし」
「いいえ、私は平和主義者なので争いは大嫌いです。暴力なんて以てのほか」

眉を下げて首を横に振る。顔を向けなくてもイルミが「嘘つけ」みたいな目で見てきているのが分かった。

「じゃあこの勝負、ボクに譲ってくれるのかな」
「まさか。ここはお互いに公平かつ平和的な方法で解決をしたいと思います」
「へえ、何?」
「ジャンケン勝負です!」

拳を握り、カッコイイ効果音がつきそうなくらい元気よく言い放った私にヒソカさんも他の皆も呆気に取られたようだったが、レオリオだけが私の考えを察したのか「やる気か、シグネ……!」と言った。
最終試験は一対一の真剣勝負、相手に負けを認めさせれば勝ち。その勝負の方法は自由に決めて良いはずだ。それこそ話し合いでも、くじ引きでも、ジャンケンでも、お互いが納得しているならどんな方法でも問題ないはず。
どうでしょう?とヒソカさんを見る。断られたら、その時はもう仕方がない。彼は降りる気がないようなので私が棄権しよう。
ドキドキしながら返答を待つ。ヒソカさんは少しだけ考える素振りを見せた後、口角を上げた。

「いいよ。じゃあ負けた方が降参するってことで」
「よし!掛け声お願いします!最初はグーからで!」

ほっとしつつ彼の気が変わらないうちに話を進めようと、立会人に掛け声をお願いする。立会人はこの状況にぽかんとしていたが、すぐに私達の側までやってきて「では……準備は良いですか?」と確認を取った。大丈夫、と愉しげな声色でヒソカさんが答える。勝った、と思いながら私も頷いた。

「最初はグー!」

会場内に立会人の声が響く。ゴンが教えてくれた必勝法を使う機会がこんなに早く来るとは思わなかった。自然と頬が緩む。やっぱり私は運が良いみたいだ。
今この場にいないゴンに感謝しつつ、振り上げた手から目を離さないように全神経を集中する。

「ジャンケンポン!!」

会場中の視線が注がれたジャンケン勝負の結果は、ヒソカさんがチョキで私がパーだった。

「…………!……?………えっ?」

その結果を私はすぐに理解することが出来なかった。自分の手とヒソカさんの手を交互に見る。私がパーで、ヒソカさんがチョキ。ということは、ヒソカさんの勝ち。
呆然としながらジャンケンの瞬間を思い出す。確かにヒソカさんはグーを出そうとしていた。だから私はパーを出したのだ。間違いなく勝てるはずだった。

「え………話が……違う……」
「違わないよ」

ヒソカさんがにやにや笑いながら言った。ま、負けた!?必勝法使ったのに!?
ショックで言葉を失う。遠くでキルアが「だっせぇ〜!」と手を叩いて爆笑してる声が聞こえてきた。何楽しんでんだよ、見せもんじゃないんだよ。
広げたままの右手を見ながら、ぷるぷる震える。私には確かに見えていた。間違ってない。絶対勝ってたはずなのに、絶対にグーだったのに。
あまりにも受け入れ難い事実に、思わず倒れそうになった。なんだかクラクラする。今すぐミザイストムが乱入してきて大暴れして全部無かったことにしてくれないだろうか。

「ウソウソ、ごめん。ちょっと虐めたくなっちゃったんだ」

すると突然、ヒソカさんは私の頭にぽん、と手を置いた。彼はそっと顔を寄せ、私の耳元で「ズルをするならもっと自然にしないと。あんなに見てたらバレバレだよ」と囁いた。
やば、と思ったところでヒソカさんは私から離れて立会人の方を見た。

「実は後出ししたんだ。だからホントはシグネの勝ち。試合はボクの負けで良いよ」

と、皆に聞こえるよう言った。
立会人はこの異例の勝負に少々面食らっていたが、すぐに状況を飲み込み、第四試合の勝者として私の名を宣言した。その時、私は試合が始まってから初めて他の皆の顔を見た。呆れた顔をする者、渋い顔をする者、困惑する者、私の逆転勝利につまらなそうな顔をする者(キルア)といった具合に皆の反応は様々だった。
メンチさんが「ハンター試験でこんなんアリ?」と言った横で、ネテロ会長は「当人同士が納得してるならアリじゃな」と頷く。私と目が合うと会長は朗らかに笑った。
結果的には勝ちを譲られたようなものだけど………まあ、いっか!ラッキー!
ヒソカさんに一礼をしてから機嫌良く元の位置に戻る。

「というわけで勝ちましたー!」
「お前、ハラハラさせやがって……」

記念すべき四人目の合格者となり、笑顔でVサインを作った私に、レオリオはほっと安心した顔を見せた。唯一必勝法のことを知っていた彼は、私が負けて一段と驚いたことだろう。
クラピカは何か思うところがあるのか微妙な顔をしていたが、ヒソカさんと私を見比べた後、ため息をついてから「シグネにしか出来ない勝ち方だったな」と小さく笑って言った。

「つーか、マジなの?ヒソカがお前のこと好きって」
「好きじゃないよ。ただ私を愛してるだけ」
「怖っ……」

キルアは引き気味に呟いた。レオリオも「いつの間にそんなことになってんだよ……」と顔を青くする。
事情を知らないと確かに恐ろしい話だが、その事情とやらを説明するわけにもいかなかったので黙った。クラピカが「あまり奴には近付かないように……」と私を出来る限りヒソカさんから離そうと端に寄らせる。完全に犯罪者扱いしている声色だった。
そんな話をしている間にも試験は進み、第五試合が始まった。キルアとポックルさんの試合だ。
自分の合格が決まり、すっかり心に余裕ができた私はキルアの応援を頑張ろうと思っていたのだが、試合開始と同時にキルアは「あんたとは戦う気がしない」とポックルさんに言って戦線離脱した。あまりにも不遜な態度に、ゾルディック家の血を感じた。

「キルア、決勝でレオリオと戦う気なの?」
「ちげーよ。次で勝つし」
「シグネ、お前さり気なくオレを決勝に進めてんじゃねーぞ」

レオリオが私の頭を軽く叩く。戻ってきたキルアは余裕の表情で語った。次で絶対に勝てると思っているみたいだ。
しかし、彼が次に当たるのはイルミだ。どう考えても余裕勝ちは出来ないだろう。ヒソカさんと191番のボドロさんによる第六試合が始まり、皆の注目がそちらへと集まる中、私はキルアの傍へ寄り、こっそり話し掛ける。

「あのさ、油断しない方が良いんじゃない?」
「何が?」
「次の試合」

私の言葉にキルアはぱちぱちと目を瞬かせた後「お前ってホントに慎重なんだな」と小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

「ほら、強い人ってのは強さを隠すのが上手いんだよ」
「あー、ハイハイ。やばかったら棄権するって」

キルアは分かりやすく適当な返事をした。聞いてないな、と呆れる。今更ながら飛行船でゴンがイルミに対して微妙な反応を見せたのは、どこかのタイミングでイルミの強さの片鱗を感じ取ったからかもしれないと思った。

第六試合はヒソカさんの勝利で終わった。かなり一方的な展開になりつつもボドロさんは奮闘していたが、最終的にヒソカさんに何事かを囁かれて負けを宣言した。あの人いつも何か囁いてるな。
ボドロさんはそれなりの傷を負っていたため、会場の隅で治療を受けることになった。レオリオが「薬があるから使ってくれ」とトランクを持って傍へ行く。用意が良いな、と思ったら医者志望らしい。知らなかった、と驚きながら折角なので私もボディバッグに入っていたキャラクターものの絆創膏を手渡した。ボドロさんはちょっと困惑しながらもお礼を言って受け取ってくれた。

少々時間を置いてから第七試合が始まる。キルアとイルミの偽名が呼ばれた。イルミの偽名は『ギタラクル』というらしい。呼ぶ人など誰もいなかったので初めて知った。
これが兄弟対決だと知っているのはきっと私だけだろう。立会人の合図で試合が始まるとイルミは早速変装を解いて自分の正体を明かした。レオリオとクラピカはイルミの顔が変形したことにも驚いていたが、キルアの「兄貴」という呟きの方が気になったらしい。私はイルミがわざわざ皆の前で変装を解いたことに吃驚した。

「母さんとミルキを刺したんだって?」

という話から始まったイルミとキルアの試合は、どんどんおかしな方向へと進んでいった。
イルミを前にしたキルアはいつの間にか顔に大粒の汗をかいていた。それがイルミからの強いプレッシャーによるもので、二人が普通の仲良し兄弟ではないことには、かなり早い段階から会場の全員が気付いていた。こんな感じだったんだ、と二人の関係を少し意外に思う。
特にイルミが“人の死だけに歓びを抱く”ようにキルアを育ててきたと言った時、イルミやシルバさんは随分キルアに期待しているのだと思った。少なくともミルキはもう少し自由に、色々な物に触れながら育てられていた気がする。
イルミに「欲しいものも望みもあるはずがない」と強く否定されたキルアは震えながらも「今望んでいることだってある」と反論した。キルアはちら、と私を見た。

「ゴンと……シグネと、友達になりたい」

それは今までのキルアだったら思っていても絶対に口にはしないと思われる言葉だった。弱々しくもはっきりと自分の意志を示した姿に胸を打たれる。
黙って聞いていたイルミは私の名が出ると思わなかったのか「シグネ?」と意外そうな顔をした。

「無理だよ。シグネは友達なんか作らないから」

キルアは若干傷ついたような目で私を見た。周囲の視線が自然と私に集まる。レオリオが「あいつと知り合いか?」と独り言のように呟いた。
急に巻き込まれた私は友達を作らない件に関して否定するべく「違う違う違う違う」と手を横に振った。また言ってるよあいつ。

「じゃあお前、キルアのこと友達だと思ってる?思ってないだろ?」

試合中にも関わらずイルミは場外の私に話しかけてきた。
確かに、私は現段階ではまだキルアを友達だと思ってない。自分の心の内を見透かされたようで「それは……」と言い淀む。友達の定義は非常に曖昧で難しいものだ。

「友達と言い切るにはまだ早いって言うか……ちょっと、まず、お家に挨拶とか行かないと……」
「なんでだよ!」

我慢できなくなったのかレオリオが思いっきりツッコむ。
そっちのが早ぇよ!と言われたが、どこまでいったら相手を友達と判断していいのか分からない私にとって家庭訪問は一番わかりやすい基準だった。家に招かれたらそれはもう完全に友達だろう。イルミだって夏の間だけとはいえ寝食を共にしてきたからこそ仲が深まったと思っている。

「ふぅん。じゃあシグネはキルアと友達になりたいんだ?」

イルミは表情こそ変わらなかったが、その言葉には微かな怒気が含まれていた。私が友達を作ることがそんなに気に食わないのか、それともキルアに近付こうとすることに怒っているのか、よく分からなかった。

「でも無理だよ。お前達が友達なんて関係になれるはずがない」

私の返答を待たずキルアに向き直ったイルミは冷たく言った。

「お前は人というものを殺せるか、殺せないかでしか判断できない。そう教え込まれたからね。あと、シグネは俺達と比べても相当な変な奴だから無理。お前があんなのと付き合えるはずがない」

私の悪口はその辺にしておかないとヒソカさんが怒るぞ。
やっちゃってくださいよ、とピキピキしながら視線をやるとヒソカさんは黙って成り行きを見守っていた。意外にも二人のやり取りを真剣に見ている。他所の家庭事情になんて興味がないと思っていたが、そうでもないらしい。
私がヒソカさんを観察している間にもゾルディック兄弟の試合(という名の話し合い)は進んだ。イルミが「いつかお前はゴンを殺したくなる」と告げたところでレオリオが一歩前に出た。
その動きにゴンの試合での行動に近いものを感じたのか、すかさず立会人が止めに入る。レオリオは「わかってるよ」と言った後、その場からキルアに向かって激励の言葉を叫んだ。

「ゴンとシグネと友達になりたいだと!?寝ぼけんな、お前ら三人とっくにダチ同士だろーがよ!少なくともゴンはそう思ってるはずだぜ!」
「え?そうなの?」
「そうなの!!?」

イルミと私の驚く声が重なるとレオリオは「たりめーだ、バーカ!」と憤慨した。何を驚いてんだ、しっかりしろ!とレオリオから力強く背中を叩かれる。
友達、出来てた。パチパチと目を瞬かせた後、私はゴンとキルアとの今までの出来事を思い出した。自分では分からなかったが、第三者から見ると私達はもう友達と名乗っていい間柄らしい。そっか、あれが友達だったんだ。
感動で震えているとクラピカが私の肩に手を置いた。四次試験の船の時のような優しい顔をしていた。胸がいっぱいになる。

そんな私の想いなど知らないイルミは「あっちはもう友達のつもりなのか」と考え込む素振りを見せたかと思えば、とんでもない発言をした。

「よし、ゴンを殺そう」

会場内に緊張が走る。
イルミは一人で勝手に納得すると試合中にも関わらず会場の外へ向かおうとした。扉の前にはクラピカやレオリオと共にハンゾーさんやハンター協会員達が立ち塞がる。
それを私は動くことなく黙って見ていた。何となくイルミの言うことは嘘のような気がしたからだ。もちろん半分くらいは本気だろうが、どちらかと言えばキルアの反応を見たくて言っているように感じた。
今はまだ試験中なのでゴンを殺せばルール上イルミは不合格となる。それは彼にとって都合が悪いようで、歩を止めてわざとらしく迷った後、今度は「合格してからゴンを殺す」と言い出した。
ネテロ会長にルールの確認を取った後、キルアに向かってゴンのために自分と戦えるか問うイルミの姿を見て確信する。やっぱりイルミはキルアを試してるだけだ。自分に反抗するか、従うか。キルアの本質が変わったかどうかを確認しようとしている。イルミはキルアが暗殺以外のものに興味を持って自分や家から離れていくことがとにかく許せないんだと思った。

「まいった。オレの……負けだよ」

キルアは地面を見ながら弱々しく宣言した。立会人が試合の終了を告げ、イルミの合格が決まる。
その後のキルアはふらふらと会場の端まで歩いてくると誰とも目を合わせず、誰の呼びかけにも応えなかった。レオリオとクラピカが傍に行って声をかけ続けるが、何の反応も見せない。
皆の前で正体を明かしたイルミはもう変装する気はないらしく、素顔のまま戻ってきて私の隣に立った。

「なんであんな酷いやり方したの?」
「酷い?何が?」

質問するとイルミは訳が分からないといった様子で聞き返してきた。最初からまともな答えが返ってくるとは思っていなかったので、予想通りすぎる反応にため息をつく。イルミは「それよりお前さ……」と話しかけてきたが、無視して私もキルアのところへ行った。
一応話しかけてみたが、キルアは何も答えなかった。
会場全体に何とも言えない微妙な空気を残したまま、試験は予定通りに進み、レオリオとボドロさんの試合が始まった。
と同時に隣にいたはずのキルアが消えた。

「あ」

私がぼそっと声を出した時には、キルアはボドロさんを背後から刺していた。あーあ、やっちゃった。

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